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#2 三酸化二ヒ素

「ミカサ、起きろよ、風邪ひくぞ?」


目を開けると、そこにはエレンがいた。エレンの爽やかな短髪が風に揺れている。


「、、、エレン?あれ?、、、私、、、いつの間に寝てたんだろ、、、」


エレンは、切った薪を抱えながら、私に優しい眼差しを向ける。


「今日はもう何もしないでゆっくりしてようぜ、でかい魚も釣れたことだし、、、」


急にエレンは作業を止め、私の方を不思議そうにまじまじと見る。



「ミカサ、、、何で、、、泣いてんだ?」


「、、、え?何でだろう?私、、、ここにいてもいいのかなって気がして、、、」



エレンは、私の方を見て、俯く。その表情は、少し、暗く見えた。


「もう、、、どうすることもできないだろ、、、」


私も、エレンの表情が暗い意味を察した。


「オレ達が、、、すべてを放り出してここまで逃げてきたあの日から、、、」


そう、、、私たちは逃げたきた。マーレの夜景を横目に見ながら、ここまだやってきた。仲間を置いてきて、

別の未来を置いてきて、すべてのことから目をそらし、すべてのことから逃げてきた。


「マーレの戦争が終わって2か月、、、パラディ島侵略戦争がもうすぐ始まる、、、」


エレンは、何かをどこかに置いてきたような、遠い目をしている。私もそれに釣られて、

遠くの山々を見る。まっさらな草原は、なにか寂しく感じられた。


「逃げなきゃみんな殺される、、、アルミンも、、、俺たちを必死で探しているだろう」

 オレにはヒストリアを地獄に落として永遠の殺し合いを続けることも、、、

 島の外の人間を大虐殺することもできなかった、、、それならもう、、、」



「あと4年の余生を静かに生きよう、、、誰もいないところで、、、2人だけで、、、

 そう言ってくれたのは、、、ミカサ、お前じゃないか」



私の胸の中に静かな光が宿った。



「、、、うん、ごめんね、この話はしない約束だったのに」

「、、、もう一つの約束していいか?」



(、、、、はっ)



気づけばミカサは寝落ちしていた。窓からは、西日が照り付け、ミカサの背後に暗く大きい、影を作っていた。


そして、見覚えのない毛布がそっとかけられていた。ミカサは、一人椅子から立ち上がる。

テーブルの下には、跡形もなく割れたティーカップとそこから零れた紅茶がそのままの状態になっていた。


ミカサは、無心でその紅茶を拭き、ティーカップの後片付けをする。ミカサの瞳には、もう何も映っていなかった。


部屋の中は、一色淡に橙色に染まり、ミカサの背後の影はますます大きくなった。もう染みになって取れない紅茶の後を、


狂ったように拭き続ける。その瞬間、紅茶の染みに重なるように、一滴の水滴が落ちた。もう部屋あっという間に暗くなり、


薪ストーブも消え、暗闇の中、一人影が落ちていた。


「ただいま、、、」


その暗闇を切り裂くように、扉が開いた。そこにはエレンがいた。エレンは何もなかったかのように、薪ストーブの薪をくべ、

また新しく、火をつけた。凍り切っていた部屋がパッと明るくなり、二人を包んだ。


もうすでにそこにいないような、何の色もないような、そんな感覚になる。


「ミカサ、先に寝とくぞ」


エレンはそう、一言残すと寝室の扉を閉めた。一人、リビングに残ったミカサは、人が変わったように部屋中の引き出しを狂ったように見て回った。


音をたてないように、慎重に引き出しを開けていく。すると、最期の引き出しを開けようとしたときだった。


「あれ、、、開かない」


何回開けようとしても開かない。ミカサは焦る。手が震える。これをもし、エレンに見られたら、と汗が首を伝う。


ミカサは、慌てて、そこにあったアイスピックを掴み、必死にこじ開ける。と、その瞬間カチャっというと音と共に、引き出しが開いた。


ミカサはマフラーを強く握りしめ、意を決して、引き出しの中を確認した。その瞬間、ミカサの心は闇夜に沈んでいった。マフラーは

首から滑り落ち、床に倒れ、ミカサは地面に吸い込まれるかのように膝から崩れ落ちた。一人沈黙が続く。時計が時を刻む。


そこにあったのは、一つの瓶だった。無造作に置かれた瓶。透明なガラスの中には、何やら液体が入っていた。ミカサは、それを取り出し、

表面のラベルを確認する。すると、そこには化学式らしき文字が刻まれていた。ミカサはそれを読み上げる。


「、、、As₂O₃、、、?」


ミカサは、震える両手でその瓶を持つ。察していたものが、ここになって全て繋がった。この時、ミカサはすべてを知り、未来を見据えた。


ありもしない未来、そして過去をも思い返す。悟ったような瞳が、その瓶を映す。この小さく狭い、美しい鳥籠の中で、、、。



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