◆スカーレット⑥
クレインが言うには、私がロゼスになることは大きなメリットがあるらしい。
「君がロゼスに名乗り出るのは、他の生徒がやるのとはワケが違う。もしかしたら、出資してくれるアリストスも現れるかもしれないよ!」
お父さんのこともあって、プロヴィデンスに挑戦するなんて怖くてできなかったが、社長は大賛成で、いつの間にか私がロゼスに立候補するという噂は、アルドール領に広く伝わってしまうのだった。
「アイアンの娘がプロヴィデンスに挑戦する!」
「グロリアスの悲願がついに遂げられるんだ!」
「最強の座を再びグロリアスに取り返してくれ!」
期待が高まる中、私はロゼス候補決定戦として、学園内のプロヴィデンスに挑戦することになった。
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
コノスフィアの中を逃げ回る私だったが、恐怖のあまり絶叫しながら突き出した拳は、なぜか相手の顎に直撃し、開始から4分47秒で勝利してしまった。
どういう運命か、お父さんがプロヴィデンスに敗れたときと同じ時間である。これが余計に話題を呼び、私はデュオフィラ選抜戦におけるグロリアス逆襲撃を担うことになってしまった。
無理だ。私には戦えない。
社長にそう言おうと思っていたタイミングで、私はイベントでグロリアスファンと直接会う機会を与えられた。
「俺……スカーレットがアイアン・ロックスの悲願を遂げてくれると思うと嬉しいよ!」
「やっぱり、俺たちのアイアンがグロリアス最強を証明してくれるんだね……」
「アイアンはやってくれる。ずっと信じていたよ!!」
対面したファンたちは、私が思っていた以上に、お父さんのことをずっと好きだった、らしい。私が驚いていると、近くで見ていた社長が泣き出してしまった。
「だから言ったでしょう? アイアンは僕たちに青春を与えてくれたんだ。彼のためなら、なんだってできるファンは多いんだよ。だから、スカーレットくん。これらかも一緒に頑張ろうね!」
社長だけじゃない。先輩グロリアスターたちもこんなことを言った。
「俺たちもアイアンに憧れてこの世界に入ったんだ」
「正直、スカーレットと一緒にグロリアスができて、すっごい嬉しいよ」
「アイアンの娘がグロリアスで勝ってくれたら……すべてのファンは救われるだろうな」
全員に裏切られ、孤独のまま死んだと思っていたお父さんは、これだけの人に愛されていたのだ。
そう思うと、すべての人に感謝を伝えたかった。グロリアスと、そのファンに恩を返したい。だけど……。
「どうしよう、クレイン……。社長や先輩たちのことも、ファンのことも裏切りたくないよ。かと言って私、本当は弱いし、擁立者も見つけられないし。どうすればいいの??」
「正直に無理ですって言った方がいいのかな……」
「それは絶対に嫌!」
「どうして??」
「だって、グロリアスが最強だって証明するのは、私じゃないと。そうじゃないと、ファンのみんなは納得しない。お父さんだって浮かばれないよ!」
それから、クレインは必死に擁立者となってくれるアリストスを探してくれた。
「いいよー。AFGに出資してあげるし、擁立者になってあげる」
そして、唯一応えてくれた人物が、ガストン・バルザックだった。見るからに最悪な性分のアリストスだが、今どきグロリアスに出資してくれる、変わり者は彼しかいなかったのである。喜ぶ私たちだったが、ガストンは下品な笑みを浮かべながら、指を一本立てた。
「でも、一つだけ条件があるかなー?」
「な、なんですか??」
「トーナメントに優勝できなかったら、出資額を返す代わりに、スカーレットちゃんは僕のお嫁さんになってもらいまーす!!」
「はぁ!?」
言葉を失う私と、愕然と青ざめるクレインに、ガストンは言った。
「僕、前からスカーレットちゃんのファンだったんだよねぇ。顔は可愛いし、筋肉も美しいし、パイパイもでっかいし! ぜーんぶ、僕の好みなんだ。あ、でも既に許嫁がいるから、第三夫人ってことでよろしくね!」
バルザック邸を出ると、真っ先にクレインが反対した。
「やめよう、スカーレット! 君が犠牲になる必要はない!!」
「でも、私は……!!」
どうしても、戦いたかった。お父さんのために。グロリアスのために。
「私はあの日から失意のどん底に落とされたままのファンを助けたいの。ううん……あのとき一人で死んでしまったお父さんを助けたい! そうじゃないと、私は生きている意味がないんだ。これまでの人生すべてが否定されてしまう。お願いだよ、クレイン……一緒に戦ってよ!」
ずっと黙っていたクレインだったが、泣きじゃくる私の肩にそっと手を置く。
「分かった。僕が……どんな手を使ってでも君を勝たせてみせる」
こうして、私はデュオフィラ選抜戦に参加する。でも、いざ戦う相手を見ると、怖くて動けなくなってしまったし、変な揉め事に巻き込まれて死にそうになるし、私なんかが参加するんじゃなかった、と後悔した。だけど、私はエドガーに出会う。
「アイアンは最後に立ち上がってファンの期待に応える。そして、グロリアスの強さを教えてくれる。それが、アイアン・スカーレットなんだよ!!」
直前でファンの心の叫びを聞いてしまった。お父さんのファンじゃなくて、私のファン。
そうだ、私はファンの期待に応えるために、この戦いに参加したのだ。
アイアン・ロックスという英雄が間違っていなかったことを知らしめるため。
グロリアスが本当は強いことを知らしめるため。
そして、グロリアスが好きだってことは、少しも恥ずかしいことじゃないって、ファンのみんなに伝えるために。
だって、私たち親子は多くの人に夢を抱かせてしまったのだから。その責任を取らなければならないのだ。
プロヴィデンス開始直前、中庭に集まったファンを見て、私は再び覚悟を決めて、クレインの前で宣言する。
「そう、そのためにも……私が証明するんだ。グロリアスが最強だってことを!」
彼は大きく頷いてくれた。私を疑うことなく、私を信じる目で。
「ああ、スカーレットならできる。アイアン・ロックスの想いを……君が継ぐんだ!」
グロリアスの強さが、再び世界に轟くまで……あと少しだ。




