◆スカーレット⑤
「やめろよ、グロリアスターになるなんて」
背中を押してくれると思ったのに、クレインは反対した。
「グロリアスなんて、馬鹿が見るものなんだ。見ろよ、僕の姿を」
弱いやつが強がって戦う姿を見せる間抜けなショー。それが彼にとってのグロリアスであり、それに熱を持っているクレインは、どれだけ罵っても構わない馬鹿に見えるのだそうだ。
「あのとき、アイアンが勝ってくれていたら……こんなことには、ならなかったのに!」
涙するクレインを見て、私の中に小さな火が灯った。今まで、どんなにイジメられても泣かなかったクレイン。私を守るために、殴られても泣かなかったクレイン。だけど、お父さんが負けたことで……彼の支えは折れてしまったのだ。
「……クレイン。私、やっぱり、グロリアスターになるよ」
泣いて顔を伏せたままのクレインだが、私の覚悟を聞いてくれることだけは分かった。
「グロリアスのことは、よく分からない。だけど、お父さんを好きでいてくれた人に、こんな悲しい想いをしてほしくない。もう一度、グロリアスが好きだって、心の底から言ってほしいよ。そうじゃないと……」
私の目からも涙がこぼれる。
「そうじゃないと、お父さんも皆も……報われないから!」
沈黙が流れたが、しばらくして顔を伏せたままのクレインが言った。
「弱虫のスカーレットにできるわけない」
「そうだけど……」
「もう嫌だ! 裏切られるのは嫌だ!! 大好きなものが、大嫌いになるなんて……もう嫌だよ!!」
「でも、このままで終われないでしょ!? 大好きが大嫌いのままでいいの?? グロリアスが馬鹿にされ続けて、いいわけないじゃん!!」
ゆっくりと顔を上げたクレインの手を取る。
「お願い。一緒に戦って。いつもみたいに……私を守ってよ!!」
クレインはなかなか迷いを振り切れなかったようだが、やがて私の手を強く握り返してくれた。
「分かったよ、アイアン・スカーレット。一緒に、グロリアスが最強だって証明しよう」
そこから、クレインはまた泣いた。ぼろぼろに泣きながら、こんなことを言った。
「でも、アイアンの意思をスカーレットが継いでくれるなんて……最高にグロリアスファンの胸を熱くさせるよな!」
何が最高なのか分からなかったけど、ちょっと嬉しかった。絶対、皆に悲しい想いはさせないんだ。そう覚悟するのだったが……
私はなめていた。グロリアスターになる、ということが、どれだけ大変なのか、理解していなかったのである。
「クレイン、練習つらいよぉーーー!!」
「また逃げ出してきたのかい??」
私は毎日のように練習を抜け出し、クレインに慰めてもらってばかりだった。
「怖いよぉ。怖いよぉ……!!」
「大丈夫だよ、スカーレット。アイアンだって、最初は怖かったはずなんだから」
殴られるのは怖い。殴るのも怖い。戦うなんて……本当に無理。それでも、クレインや先輩たちに支えられ、私は十四歳でグロリアスターとしてデビューするのだった。
そのころ、AFGは以前の実戦的な演出から、本来のショー要素が強い一般的なグロリアスになっていた。それでも、アイアン・ロックスという人物は、グロリアスファンの記憶から消えていなかったらしい。
「アイアンの娘だ!」
「父親譲りのパワーを期待しているぞ!」
「最強の娘、頑張れよー!!」
お父さんはあれだけ嫌われていたはずなのに、なぜか温かく迎え入れられているような気がした。初めてリングの上に立っても、怖すぎて私は震えてしまう。
相手となる先輩グロリアスターは、デビュー戦にも関わらず歓声を一身に受ける私が気に食わなかったのか、容赦はなかった。
「た、助けて……!!」
張り手をくらいながら、投げられながら、私は何度もクレインに助けを求めた。だが、彼は遠くで見ているのだから、助けてくれるわけがない。
もうダメだ。やっぱり、私には厳しすぎる世界で、お父さんみたいにできやしないんだ。諦めかけた、そのときだった……。
「アイアン! アイアン!」
会場に溢れるアイアンコール。それは私だけに向けられたものではなく、お父さんの魂に呼びかけるものに違いなかった。ファンの想いを理解した瞬間、私の中で何かが目覚めた。
「しゃおらー!!」
先輩グロリアスターを張り倒すと、腰のあたりに腕を回してから、力任せに持ち上げた。
「アイアン!バスター!!」
お父さんの必殺技を見よう見まねでやってみせると、会場が爆発した。いつだか、生で見たお父さんのグロリアスのときのように、会場が一つになったのだ。
「よっしゃー! 今この瞬間、アイアンの魂が蘇ったぞ。私がAFGを盛り上げて、グロリアスが最強だって証明してやるからな! だから! いつもの行くぞー! イチッ、ニィッ、サン!!」
「「アイアーン!!」」
このとき、私は自分がなぜここに立っているのか、理由を確信できた気がした。その後、社長の意向で私は英雄のように扱われ、AFG再興の要となる。
「スカーレットくんのおかげで、あと何回か大会を開催すれば、赤字を抜け出せそうだよ! だけど……」
その数回の大会を開催する資金がないらしい。私は道半ばで挫折しなければならないようだ。しかし、それをクレインに相談すると意外な提案があった。
「学園のロゼスに立候補してみるのはどうかな?」




