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悪役令嬢に転生した格闘家、再び最強を目指す  作者: 葛西渚
第2章 英雄の意志を継ぐ薔薇
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◆スカーレット⑤

「やめろよ、グロリアスターになるなんて」


 背中を押してくれると思ったのに、クレインは反対した。


「グロリアスなんて、馬鹿が見るものなんだ。見ろよ、僕の姿を」



 弱いやつが強がって戦う姿を見せる間抜けなショー。それが彼にとってのグロリアスであり、それに熱を持っているクレインは、どれだけ罵っても構わない馬鹿に見えるのだそうだ。



「あのとき、アイアンが勝ってくれていたら……こんなことには、ならなかったのに!」



 涙するクレインを見て、私の中に小さな火が灯った。今まで、どんなにイジメられても泣かなかったクレイン。私を守るために、殴られても泣かなかったクレイン。だけど、お父さんが負けたことで……彼の支えは折れてしまったのだ。



「……クレイン。私、やっぱり、グロリアスターになるよ」



 泣いて顔を伏せたままのクレインだが、私の覚悟を聞いてくれることだけは分かった。



「グロリアスのことは、よく分からない。だけど、お父さんを好きでいてくれた人に、こんな悲しい想いをしてほしくない。もう一度、グロリアスが好きだって、心の底から言ってほしいよ。そうじゃないと……」



 私の目からも涙がこぼれる。



「そうじゃないと、お父さんも皆も……報われないから!」



 沈黙が流れたが、しばらくして顔を伏せたままのクレインが言った。



「弱虫のスカーレットにできるわけない」


「そうだけど……」



「もう嫌だ! 裏切られるのは嫌だ!! 大好きなものが、大嫌いになるなんて……もう嫌だよ!!」


「でも、このままで終われないでしょ!? 大好きが大嫌いのままでいいの?? グロリアスが馬鹿にされ続けて、いいわけないじゃん!!」



 ゆっくりと顔を上げたクレインの手を取る。



「お願い。一緒に戦って。いつもみたいに……私を守ってよ!!」


 クレインはなかなか迷いを振り切れなかったようだが、やがて私の手を強く握り返してくれた。


「分かったよ、アイアン・スカーレット。一緒に、グロリアスが最強だって証明しよう」



 そこから、クレインはまた泣いた。ぼろぼろに泣きながら、こんなことを言った。



「でも、アイアンの意思をスカーレットが継いでくれるなんて……最高にグロリアスファンの胸を熱くさせるよな!」



 何が最高なのか分からなかったけど、ちょっと嬉しかった。絶対、皆に悲しい想いはさせないんだ。そう覚悟するのだったが……


 私はなめていた。グロリアスターになる、ということが、どれだけ大変なのか、理解していなかったのである。



「クレイン、練習つらいよぉーーー!!」


「また逃げ出してきたのかい??」



 私は毎日のように練習を抜け出し、クレインに慰めてもらってばかりだった。



「怖いよぉ。怖いよぉ……!!」


「大丈夫だよ、スカーレット。アイアンだって、最初は怖かったはずなんだから」



 殴られるのは怖い。殴るのも怖い。戦うなんて……本当に無理。それでも、クレインや先輩たちに支えられ、私は十四歳でグロリアスターとしてデビューするのだった。




 そのころ、AFGは以前の実戦的な演出から、本来のショー要素が強い一般的なグロリアスになっていた。それでも、アイアン・ロックスという人物は、グロリアスファンの記憶から消えていなかったらしい。



「アイアンの娘だ!」

「父親譲りのパワーを期待しているぞ!」

「最強の娘、頑張れよー!!」



 お父さんはあれだけ嫌われていたはずなのに、なぜか温かく迎え入れられているような気がした。初めてリングの上に立っても、怖すぎて私は震えてしまう。


 相手となる先輩グロリアスターは、デビュー戦にも関わらず歓声を一身に受ける私が気に食わなかったのか、容赦はなかった。



「た、助けて……!!」



 張り手をくらいながら、投げられながら、私は何度もクレインに助けを求めた。だが、彼は遠くで見ているのだから、助けてくれるわけがない。


 もうダメだ。やっぱり、私には厳しすぎる世界で、お父さんみたいにできやしないんだ。諦めかけた、そのときだった……。



「アイアン! アイアン!」



 会場に溢れるアイアンコール。それは私だけに向けられたものではなく、お父さんの魂に呼びかけるものに違いなかった。ファンの想いを理解した瞬間、私の中で何かが目覚めた。



「しゃおらー!!」


 先輩グロリアスターを張り倒すと、腰のあたりに腕を回してから、力任せに持ち上げた。


「アイアン!バスター!!」



 お父さんの必殺技を見よう見まねでやってみせると、会場が爆発した。いつだか、生で見たお父さんのグロリアスのときのように、会場が一つになったのだ。



「よっしゃー! 今この瞬間、アイアンの魂が蘇ったぞ。私がAFGを盛り上げて、グロリアスが最強だって証明してやるからな! だから! いつもの行くぞー! イチッ、ニィッ、サン!!」


「「アイアーン!!」」



 このとき、私は自分がなぜここに立っているのか、理由を確信できた気がした。その後、社長の意向で私は英雄のように扱われ、AFG再興の要となる。



「スカーレットくんのおかげで、あと何回か大会を開催すれば、赤字を抜け出せそうだよ! だけど……」



 その数回の大会を開催する資金がないらしい。私は道半ばで挫折しなければならないようだ。しかし、それをクレインに相談すると意外な提案があった。



「学園のロゼスに立候補してみるのはどうかな?」

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