◆スカーレット④
「なぁ、スカーレット。アイアンは真剣勝負に挑んでなかったって……ウソだよな?」
いつもの三人組が心細そうに聞いてきた。
「お父さんはきっと……プロヴィデンスで最強を証明するよ!」
私の言葉に、三人組は目を輝かせる。
「そう、だよな!!」
しかし、以前お父さんがやっつけたフィスト・クラフトの覇者がこんなことを言っていたらしい。
『俺はアイアンの戦いを盛り上げてほしい、と言われたんだ。真剣勝負かどうか、だって? それは言えないよ。たくさんの金をもらったからね』
それから、AFGにとんでもない向かい風が吹いた。一部のファンは辛抱強く支えてくれたけど、AFGの盛り上がりを何となく眺めていた層は、とにかくお父さんたちを叩いたらしい。
「詐欺だ」
「結局はヤラセ」
「やっぱり弱かった」
グロリアスの印象が、以前に逆戻りしてしまったのである。そして、何よりもこれが一番大きい声だった。
「それでも最強と言うのなら、プロヴィデンスに出て証明してみせろ」
それはファンの中でも声が大きくなり、AFGに所属するグロリアスターは次々とプロヴィデンスに参戦する。そして、自分たちの強さを認めさせようとしたが……誰もが敗北してしまった。
「それでもアイアンなら! 最強のアイアンならプロヴィデンスで勝てるはずだ!」
お父さんはそんなファンの言葉に押し出され、ついにプロヴィデンスに挑戦する。会場に入場するとき、AFGのテーマが大音量で流れ、ファンは熱狂した。
アイアンが最強を背負って戦う。そして、勝利するのだと誰もが確信していた。
だけど、結果は敗北。
しかも、たった4分47秒の決着。
お父さんの負けは、グロリアスの負けを意味していた。グロリアスのファンはお父さんを責め、それ以外の人は「当然の結果だ」と笑った。
あの三人組も、私の顔を合わせるなり、詰め寄ってきた。
「何がプロヴィデンスは最強だよ。俺たちを騙していただけじゃないか! アイアンの戦いを見て、熱くなった俺たちって……なんだったんだよ!!」
ただ、説明できないけれど……アイアンの娘として揶揄われていたときとは、何かが違った。涙ながらに責めてくる彼らに対し、私は申し訳なく思ったのである。
その後も厳しい声は続く。そのせいで、あの日から数年経っても、私は負け犬の娘と後ろ指をさされていた。お父さんも家でお酒を飲んでばかり。私はお父さんの姿を見るたびに、なんだかイライラしてしまう。
娘なのだから、優しい言葉をかけるべきだったのに……ある日、家に帰った私に母が涙を流しながら言った。
「スカーレット、落ち着いて聞いて。お父さん……山で発見されたって。遺体で発見されたの」
お父さんが死んだ。自殺だった。
私が思っていた以上に、お父さんは追いつめられていたのだ。
私はグロリアスとグロリアスファンが嫌いになってしまう。
だって、お父さんはファンのために戦ったのに、どうして誰もがお父さんを責めるの?
ファンのみんなが「アイアンはよくやった」と言ってくれれば、こんなことにならなかったのに……。
自分だって、お父さんを見るたびに嫌な思いをしていたくせに、そんな風に他人を責めたのだった。
しかし、私たちの生活は、そのファンによって支えられていたのだ、と理解する。父がいなくなって、すぐに生活が傾いたのだ。
「ごめんね、スカーレット。せっかく、トライアンフ学園に入学できたのに」
私が十三になった頃、お母さんが倒れて入院した。大丈夫だよ、と答えるが、私たち家族を支えてくれる人は誰もいなかった。お母さんの治療費だって払えなくなる。絶望する私に、知らない大人が訪ねてきた。
「私はAFGの代表です。スカーレットさん、グロリアスターになりませんか?」
驚いたことに、AFGの社長にスカウトされたのである。お父さんがいなくなって、AFGも潰れたとばかり思っていたが、細々と続いていたそうだ。
「貴方が……アイアンの娘がグロリアスターになってくれれば、絶対にAFGを立て直せます! お願いです、所属してくれれば、お母様の治療費も我々が支払いますから」
なぜ、そこまでしてくれるのか。その問いに、社長はこう答えた。
「私はアイアン・ロックスが残してくれたグロリアスの熱を未来に残したい。それが義務だと思っています。確かに、アイアンはプロヴィデンスに負けました。しかし、あのときの熱狂は本物だった! アイアンしか作り出せない、情熱的な青春の時間があったのです! だから、私は……!!」
涙ながらに語る社長の姿に、私の胸も熱くなってしまった。こんなにお父さんのことを想ってくれる人がいたなんて……。
返事は一度保留にさせてもらったが、すぐに決めなければならない。私はクレインに相談しようと、彼のいる教室へ向かった。しかし、そこには……。
「す、スカーレット」
汚れた制服を着たクレインの姿が。しかも、彼は私の顔を見るなり、悪いことが見つかってしまったかのように、走って逃げだしたのだ。
そのとき、私は見てしまう。彼の背中に「グロリアス馬鹿」と書かれた紙が貼られていることに。私はすぐに理解した。
イジメられているのだ。グロリアスが好きと言うだけで……。
「待って、クレイン! 聞いてほしいことがあるの……!!」
立ち止まったクレインに、私は言う。
「私……グロリアスターになろうと思うの」
逃げ出そうとしたクレインが、ゆっくりと振り向いてくれたが、彼の言葉は私が思ったものとは違うものだった。
「やめろよ、グロリアスターになるなんて」




