◆スカーレット③
ファンのため?
どうして、他人のために危険な目に合わなければならないのだろう。
このときは理解できなかったし、実際の戦いも見てられなかった。お父さんは何度も殴られて、やっぱりたくさんのファンが悲鳴を上げた。
だけど、奇跡が起こる。お父さんは最後に相手の頭をキックして、投げ飛ばして背後に回ると、首を絞めて勝ったのである。
「これで分かっただろ! グロリアスは最強なんだ!!」
お父さんが叫ぶと、多くの人が声にならない声を発して、会場が爆発した。
「いつものやつ、行くぞー! イチッ、ニィッ、サン!!」
「「アイアーン!!」」
会場が一つになって、AFGのテーマソングが流れる。その瞬間を見た私は、お父さんはこの人たちのために戦っていたのだ、と幼いながらに思うのだった。
「お前のお父さん、マジで凄いよな!」
「フィスト・クラフトの覇者をキックで倒したとか、最強間違いなしだろ!」
これまで、私をイジメていた三人の男の子たちも、お父さんを絶賛し、前みたいに揶揄ってくることもなくなった。むしろ、お父さんのサインがほしいと何度も頭を下げられたくらいだ。
『グロリアスの英雄、アイアン・ロックス』
それが肩書になり、グロリアスがない日でもお父さんがマナ・スクリーンに出ることが多くなった。誰もがお父さんを英雄と呼び、憧れを抱いたのである。ある日、私はお父さんに言った。
「お父さん、本当に強かったんだね。私、いつかお父さんみたいになりたい!」
このときは、別にグロリアスターになりたい、と思っていったわけではない。ただ、お父さんの強さに憧れただけだった。でも、お父さんは私がグロリアスターになりたい、と感じたのか、こんなことを言うのだった。
「そうか。じゃあ、お父さんがグロリアスターとして常に心掛けていることを、スカーレットだけに教えてやる」
「なぁに??」
「グロリアスターである限り、常に誇り高く、強くあれ。それだけだ」
このとき、お父さんが私を軽々と持ち上げて、肩に乗せてくれた。そのときの景色は本当に高くて、お父さんは大きいんだって、心の底から思ったのを覚えている。
お父さんがお父さんでよかった!
そんな風に思った。
そんな私の感動をさらに膨らませるように、お父さんはどんどん強くなる。誰もがAFGこそ最強、そして、AFGの中でも最強のお父さんが世界一強いと認め始めたのだ。
AFGによってグロリアスは大きく変わった。ショーのような戦いでファンを楽しませるグロリアスターだけど、真剣勝負に挑めば強いのだ、と認識が大きく変わったのだ。
しかし……さらに大きな変化がやってくる。
「見てよ、スカーレット!」
ある日、クレインが持ってきた情報誌には、こう書かれていた。
『これが新しいプロヴィデンス。本当の真剣勝負はコノスフィアの中にこそ存在する』
本当の真剣勝負ってどういうことだろう。私はそれが気になったが、クレインは別のところで怒っていた。
「こんなの、AFGの真似事じゃないか! もし、この新しいプロヴィデンスにAFGの戦士が参戦したら、すぐに優勝だよ。ただ、グロリアスが最強だって再証明するようなものさ」
「うん、そうだよね。お父さんが最強なんだから!」
しかし、プロヴィデンスは私たちが思っていたものとは、ぜんぜん違ったものだった。パンチで人が気を失ったり、腕を曲げて相手の骨を折ったり、見たことのない暴力がそこにあったのだ。
それは、これまでAFGが真剣勝負と言っていたものが、すべてウソに見えてしまうほど、本物の戦いがあった。
『AFGは所詮グロリアスの延長。真剣勝負ではない』
そんなニュースが出回るまで、数日となかった。




