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悪役令嬢に転生した格闘家、再び最強を目指す  作者: 葛西渚
第2章 英雄の意志を継ぐ薔薇
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トライアンフ陣営の控室では

 トライアンフ学園側の控室では、スカーレットが机の上に並べられた手紙に目を通していた。すべてファンから送られてきたもので、デュオフィラ選抜戦に参加するスカーレットにエールを送るものばかりである。



『スカーレットのグロリアスに勇気をもらっています!』


『貴方の技に魅了されてグロリアスを好きになりました』


『グロリアスが最強と証明できるのは、アイアンだけだ!』



 温かい言葉に思わず笑みを零す。グロリアスに幻想を持ち、そこに生きる希望を持つ人々は、まだこの世界にたくさん存在しているのだ。彼らのためにも、スカーレットはデュオフィラ選抜戦を制さなければならない。



「あー、そろそろスカーレットちゃんの出番だねぇ」



 気持ちを高めるスカーレットの肩に触れ、顔を覗き込んできたのは、ガストン・バルザック。彼女の擁立者である。



「ちゃんと勝てるのー? 相手のジュリアちゃんもかなり強そうだったけど」



 ガストンは上機嫌に肥えた体を揺らしながら、別の机に広げられた菓子を摘まむ。



「まぁ、別に僕はどっちでもいいんだけどさ。勝っても負けても、美味しい想いをするのは、僕なんだから」



 スカーレットはガストンの言葉を無視して立ち上がる。ここは空気が悪い。とにかく、ガストンのいないところへ行きたかった。



「スカーレット……すまない」



 控室を出ると、ちょうどクレインの姿が。どれだけ無理をしたのか、イーリアとかいう女性に支えられ、その顔色は酷いものだ。



「任せておけ。後は……私がぶっ潰して、全部ひっくり返す」



 強気な発言は、多くのファンを熱狂させるものだが、クレインに関しては何の効果もない。



「イーリア、すまない。先に控室で待っていてくれ」


「しかし……」



 イーリアは自分から離れるようとするクレインを心配するが、大丈夫だと大きく頷くため、引き下がるしかないようだった。


 誰もいない廊下でクレインと二人きりになると、スカーレットは普段の自分が出てきてしまいそうだった。そんな彼女にクレインは言う。



「何もしてあげられなくて、本当にごめん」


「……大丈夫。ちょっと怖いけど」



 そこには、本来の彼と彼女があった。クレインは拳を握り締める。何もできない自分を責めるように。



「スカーレット、一緒に逃げよう! 今なら……間に合う。二人で地の果てまで!!」



 クレインは彼女の手を取る。すべてを捨てて、二人だけの幸せを獲得するための逃避行に、彼は一縷の望みを託そうとしたのだが……彼女の方は穏やかな笑みを浮かべると、首を横に振った。そして、強く握る彼の手を優しく引き離す。



「クレイン、いつも弱い私を守ってくれて……ありがとう。だけどね、私の覚悟はちゃんと決まっているよ」


「……グロリアスのため、戦うと言うのかい?」


「うん。アイアン・ロックスの娘として、グロリアスが最強だって、AFGのためにも……証明するんだ」

「だけど、負けたら……」



 最悪の結末を想像するクレインだが、スカーレットは彼の眼前に人差し指を立てて、発言を制止する。



「負けないよ。私は絶対に負けない。だって……グロリアスファンの想いを背負っている。いつも私に進む勇気をくれたファンの皆がいるんだから、私は絶対に相手を捕まえてみせるよ。そして……」


「アイアンバスターを炸裂させる?」



 力強く頷くスカーレットだが、クレインの不安は消えない。どうして、彼女がグロリアスを背負わなければならないのか。分かってはいるが、できれば彼女を宿命から逃がしてあげたかった。しかし……。



「ねぇ、クレイン。何か聞こえてこない? 気のせいじゃなければ、アイアンって聞こえるような……」


「本当だ、聞こえる! 外だ!」



 二人は窓の方へ近づき、中庭の方を見下ろすとそこには大勢の人の姿が。



「いたぞ、アイアンだ!」


「アルドール領から応援に来たぞ!!」


「アイアン、グロリアスを守ってくれー!!」



 そこから、中庭はアイアンを呼ぶ声で埋め尽くされた。クレインはそれを見下ろしながら、驚きに言葉を失ったが、スカーレットの方は穏やかな笑みを浮かべている。そして、得意げにクレインの方を見るのだった。



「ほらね? この歓声のためなら、私はやるよ。私ならできる。グロリアスがファンに抱かせた幻想を……現実のものにするんだから!」



 多くの声に圧倒されたクレインは、息を飲んでから頷いた。これだけの人間が信じているスカーレットなら、何かを巻き起こしてくれるかもしれない。何よりも……自分が彼女を信じなければ。



「ああ、君ならできる。勝とう、プロヴィデンスに!」



 スカーレットが自信に満ちた笑顔を浮かべた後、中庭に溢れるファンに向かって拳を突き立てると、大きな歓声の波が起こった。そんな彼らに背を向け、控室に戻ろうとするスカーレットだったが、歓声の隙間を裂くようにして、誰かの声が耳を打つ。



「アイアン・ロックスの仇を取ってくれ! そして、グロリアスが最強だって、もう一度俺たちに信じさせてくれ!!」



 その言葉はスカーレットの心にゆっくりと響き渡り、そっと目を閉じた。瞼の裏に映るのは、いつも傍にいてくれた幼いクレインの姿。そして、英雄と言われた父のグロリアスターとしての姿であった。

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