今回もやらせていただきました
スコットは開会式の時刻を告げる鐘の音を聞きながら、飛び込むようにして体育館の扉を押した。
「ちょっと待った! スコット・ヒスクリフはここにいる!!」
開会式が始まる中、静粛を切り裂き、誰もが確信したヒスクリフ学園の敗退を自分がひっくり返したのだ。会場は驚きに包まれ、しかし、波乱の展開に誰もが沸き立つ、と思われたが……。
「そっちのコード、持ってきてー!」
「四番のマナ・スクリーン、魔力の貯蔵は十分なのか!?」
「いいからコードを繋げって!!」
何やら怒号が飛び交い、誰もスコットに注目していなかった。
「な、なんだ??」
無駄に大きい声で飛び込んだ自分が恥ずかしく感じてしまうが、これはどういう状況なのだろうか。間違いなく、開会式が始まっている時間なのに、まだまだ準備段階のようではないか。
「あ、先輩! 約束通り、時間を守ってくださったのですね!!」
顔を赤くしながら戸惑っていると、どこからジュリアの声が。振り返ると、彼女が手を振りながら、こちらに駆けてきた。隣にはエドガーの姿もある。
「ジュリア、エドガー! 無事だったか……」
二人の姿を見て、安心して急に力が抜けてしまい、座り込むスコットだったが、体を支えようとした瞬間、両手に激痛が走った。
「いっ……!!」
「どうしたのですか??」
「いたーっ!!」
ジュリアが手を取るが、それは逆効果である。痛みに耐えながら、何が起こったか説明した後、今度はスコットが疑問を彼女に投げかける番となった。
「それにしても、なぜ開会式が始まっていないのだ?? 間に合ったとは言え、ギリギリのタイミングだったから、非常に焦ったのだが……これでは拍子抜けだよ」
今一度、辺りを見回し、何やら騒がしく右往左往する運営たちの姿を見ると、ジュリアが得意げに笑みを浮かべて、耳打ちするのだった。
「もしものことを考えて、一部のスタッフに機材トラブルを演出いただきました。おそらくはあと十五分ほどはこの状況が続くかと……」
「も、もしかして……またか!?」
「ええ、買収完了ですわ。おーほほほほっ!!」
立ち上がり、口元に手の甲を添えながら豪快に笑い出すジュリア。誰もが騒がしく動き回っているので、それほど目立ってはいないが、スコットは居心地が悪く、やめさせるのであった。
「じゃあ、また来月の生活費はなしってわけか?」
「またも使い切ってしまいましたわ。新しいトレーニング器具は我慢ですわね」
どれだけの金を渡したのだろうか。悪い意味で興味があったが、聞かない方がいいだろう、とスコットは口を閉ざした。ふとエドガーの方を見ると、彼はどこかを眺めて目を輝かせている。その視線の先には、アイアン・スカーレットの姿があった。
「エドガー、ついにこの日がきたな」
不意に声をかけられて驚いたのか、スコットは肩を震わせたが、ゆっくりと頷いた。
「スコットさんたちのおかげです。本当にありがとうございました」
「礼には及びませんわ」
答えたのは、ジュリアの方である。
「貴方の憧れは、この私によって完膚なきまでに叩き潰されてしまうのですから」
「いいや、スカーレットはどんな苦難も必ずひっくり返してきた。今日も……そうなる!」
真っ直ぐとジュリアを見返すエドガー。その視線に彼女も不敵な笑みを返すのだった。
「エドガー。スカーレットがこっちを見ているみたいだぞ」
スコットに言われ、視線を戻したエドガーが見たのは、自信に溢れた笑顔を浮かべるスカーレットの姿であった。そして、彼女はエドガーに向かって拳を突き出す。信じろ。そう言っているように見えた。
十五分後、ジュリアの見立て通り、開会式が行われた。調印の儀式で、デュオフィラ選抜戦に参加する意思を改めて書面にサインとして残す。もちろん、ジュリアも同じようにサインを記した。
そのあと、スカーレットたちも調印の儀式を執り行ったが、彼女の横に座る擁立者は、アリストスの悪いイメージを詰め込んだような男だった。肥えた体に人を見下すような笑み。クレインは……このアリストスの子息に擁立されるスカーレットを、どういった気持ちで見ていたのだろうか。
「まぁ、本戦は控室が広いのですね!」
ジュリアが明るい声を出すのも分かる。なぜなら、教室一つが控室として使われ、前座のプロヴィデンスが観戦できるよう、大きなマナ・スクリーンまで設置されているのだから。
「お嬢様、お待たせしました」
しばらくすると、コハルが到着した。
「いいえ、着替えの時間まで、まだまだ余裕がありますわ。さすがコハル。きっちり仕事は片付けてきたようですね」
「もちろんです。私はジュリアお嬢様専属のメイドですから」
コハルの雰囲気は朝見せていたものとは別人のようだった。彼女は彼女で何か大きな問題に決着を付けたのだろう。交わる二人の視線に絆を感じるスコットだった。
「ふぅ。ジュリア嬢のプロヴィデンスは、まだ当分先のようだな。もう少しゆっくりきても大丈夫だったか」
それから間もなくして、アーサーが現れる。
「あとは決戦を待つだけだ」
スコットの言葉にジュリアの反応はない。いつもなら、任せなさいと豪語するはずだが、彼女はマナ・スクリーンの前で腕を組み、前座のプロヴィデンスを眺め始めた。
だが、その背中から強い緊張感が伝わってくる。スコットは彼女にプレッシャーを与えないよう、できるだけ自然に振る舞うのだった。




