スコットとクレイン
「スコット、まだなのか!?」
何も変わらない状況に、アーサーは焦りを覚える。スコットはクレインの顔色を窺うが、彼の魔力は今にも尽きそうだと言えるくらい、苦しみが滲み出ていた。
「かなり消耗しているはずだが……」
スコットの見立ては間違いなかった。クレインは額を濡らす汗を腕で拭うが、次々と溢れ出て止まらないらしい。あれは体内で必死に魔力を生成している証拠だ。
「あの男、イーリアが惚れただけはあるな。このままだと、向こうの粘り勝ちではないか??」
「いや、立っているのがやっとのはずだ!」
しかし、クレインは五分経っても、汗を拭いながら大地の束縛に魔力を供給し続ける。そうしている間に、学園から鐘の音が聞こえてきた。
「この鐘の音が聞こえるということは……」
「開催式まで十分しかないぞ!!」
ここから学園まで、走れば五分といったところ。勝ちを確信したのか、クレインが笑った。
「は、はは……。ここまでのようだな。僕はあと三十分であろうが魔力生成を続けられるぞ! ああ、死んでもやり通してやるさ!」
クレインの勝利宣言に、アーサーはもどかしそうに拳を握る。何もできないまま負ける悔しさは、身が砕けそうなほどだろう。きっと、スコットも同じ思いのはず、とアーサーは彼を見るが……。
「何をするつもりだ、スコット??」
軽く腕をまくったスコットは両手に、魔力が集中させているのか、ほのかに輝いていた。
「魔方陣に流れ込むクレインの魔力に……干渉する」
「なんだって?? そんなことをしたら……!!」
「ああ、酷い激痛を伴うだろうな。だが、僕の魔力によってクレインの魔力を消滅させれば、彼はより多くの魔力を大地の束縛に供給しなければならない。僕が痛みに手を引くか、彼の魔力切れが先か……勝負だ」
スコットの目は本気だった。魔法を使うことのできないアーサーでも、他人の魔力に干渉する痛みについては知っているつもりである。親友として、彼を止めるべきか、逡巡してしまうのだった。
「本気なんだな、スコット!」
「ああ、向こうは覚悟を決め、立ち続けている。僕だって、学園のため、グレイヴンヒース領のため……ジュリアのためなら、覚悟を決めるさ!」
疲弊しながらも強い意志を持ったクレインの視線を受け止めながら、スコットは屈むと、魔力を込めた両手で魔方陣に触れる。そして、自らの魔力を流し込んだ。
「ぐあっ!!」
スコットが触れた面に、小さな稲光が発生すると、彼の手に焼けるような痛みが返ってきた。燃え盛る炎を手で包み込むような、凄まじい痛みである。
「スコット・ヒスクリフ……!!」
急激な魔力消費によって眩暈でも覚えたのか、クレインも膝を付く。それでも、彼は魔力供給を止めるつもりはないらしい。
「負けない。僕は負けないぞ……。スカーレットを勝たせるためなら、この程度!!」
「僕だって……負けられない理由があるんだ!」
先程まで、ずっと流れていたクレインの汗が止まる。どうやら、流れ切ったらしい。それどころか顔色は青く染まり、目からは血の涙が流れ始めた。
「スカーレット……!!」
クレインは、スカーレットのためになぜ戦うのか。その理由は分からない。だが、デュオフィラ選抜戦では誰もが何かを背負っている。例え、彼や彼女の事情を聞いたところで、スコットに引くつもりはなかった。
「この程度……ジュリアに背負わせる痛みに比べたら!!」
燃える。手の平が燃えて、痛みが腕に、肩に、心臓や脳まで痛みが食いつぶしてしまいそうだった。それでも、奥歯を強く噛んで耐え抜く。
すぐにでも手を放したいが、ここまで支えてくれた仲間、これから戦うジュリアのためにも、退くわけにはいかないのだ。
「うわあああぁぁぁ!!」
手の感覚がおかしい。強烈な痛みに気が遠のいていく。それでも、スコットは魔力干渉をやめなかった。途切れそうな意識を繋ぎ留め、痛みを抑え込む。
残り時間はどれくらいだろうか。そんなことも気にかける余裕はなかった、が……。
「僕は、絶対に……」
クレインが白目をむき、ついに倒れるのだった。どれだけの消耗だったのか、死んだように動かない。
「やった……のか!」
スコットは手の平を確認する。魔力的な痛みのため、特に外傷はないが、今も痺れて動きそうになかった。
「いや、そんな余裕はない。アーサー、僕は先に行くよ!」
「ああ。必ず間に合えよ!」
アーサーはスコットの背を見送り、腕の中で眠ったままのイーリアを見下ろす。彼女が目覚めるのが先か。それともクレインが先か。どちらにしても、状況の説明は気が重かった。




