貴族令嬢の実力は?
ゴングと同時に、デイジーがコノスフィアの中央へ飛び出し、じりじりとジュリアへ接近する。対し、ジュリアは頭を揺らすように、体を左右に振りつつ、デイジーの出方を窺っているようだった。
(な、なんだ? 割と様になっているぞ??)
ジュリアの動きにスコットは驚く。てっきり、ゴングと同時に恐怖のあまり蹲ってしまうと思っていたが……。ただ、フィスト・クラフトの使い手であるデイジーが拳を突き出せば、それが現実になってしいまうだろう。
スコットが最悪の瞬間を想像すると同時に、デイジーが右半身を前にした構えから踏み込み、前手の拳を突き出した。それは槍の一刺しのように鋭く速い。ジュリアの顔面を潰してしまうかと思われたが……。
「おおおーーー!!」
体育館にどよめきが上がる。なぜなら、デイジーの拳をジュリアが躱して見せたからだ。ギャラリーの興奮に応えるかのように、彼女は得意げに口の端を吊り上げてみせる。
「なかなか鋭いですわね。少し驚きました」
「てめぇこそ、私のパンチを避けるなんて強運じゃねえか」
デイジーの言葉にスコットは激しく同意するが、ジュリアの方は挑発的に笑みを見せた。
「わたくしの強運、どこまで続くか試してみます?」
「上等!!」
再び放たれるデイジーの前手の突き。
「うわっ!!」
ジュリアの鼻が潰された!と思わずスコットは声を上げるが、隣のアーサーが冷静に指摘する。
「よく見ろ、ジュリア嬢は躱したぞ!!」
「え、本当??」
アーサーの目は正しかった。ジュリアはわずかに身を逸らし、デイジーの拳の射程から外れていたのである。だが、デイジーの攻撃はそれで終わりはしない。さらに接近して、距離を取ろうとするジュリアを金網際に追いつめる。
「死ねや!」
今度は左右のパンチが連続で繰り出される。どんな強運だろうが、これは逃れられない。そう思われたが、ジュリアは最低限に身を低くして第一の拳を躱すと、次は流れるような動きで重心を左側へ移動させ、第二の拳もやり過ごして見せた。
これにはデイジーも驚きを隠せないようだったが、彼女も技術力を一段階上げ、さらなる追撃として、右の拳を横から振り回した。ジュリアの横腹を抉り取るようなボディフックだが、それも空を切ってしまう。なぜなら、ジュリアは既にデイジーの横手に回っていたからだ。
ただ、デイジーは素早くそれに反応し、振り向きつつ拳を突き出したが……それすらも届かぬ場所までジュリアは後退していた。
「なかなかの逃げ足じゃねえかよ、お嬢様」
「いえいえ、ただ強運が続いているだけのこと。次も強運が守ってくれるといいのですが……」
「なめやがって……!!」
デイジーは苛立ちながらも、ロゼスとして冷静かつ慎重に距離感を縮めてくる。既に彼女はジュリアの回避テクニックが一定以上と認めているようだ。次は確実に拳を当てるためにも、より丁寧な技術を見せる必要がある、と考えているのだろう。
「次は逃げられねえぞ!」
十分に距離を詰めたところで、デイジーは前手の拳を出す。それは今までと同じようにジュリアの華麗なスウェーバックで躱されてしまったが、本命は奥手から放たれたパンチである。しかも狙いは顔面ではなく、的の大きいボディだ。
ドンッと体育館に衝撃音が響き、ギャラリーの興奮した叫び声が上がる。初のヒットに周りは盛り上がっているが、デイジーは不確かな手応えに眉を寄せた。
「こんなに速いパンチは久しぶりですわ! ジュリア、興奮してしまいます!」
「……お前、何者だ??」
デイジーが覚えた不信感。それは完璧に入ったと思ったボディストレートが、いなされたことだ。いや、当たらなかったわけではない。ただ、ジュリアは直撃の瞬間、腰を横に捻ってパンチの威力を逃がしていたのだ。しかも、フィストガード越しに感じた鍛え抜かれた腹筋。それはアリストスの令嬢が持つものではなかった。
「何者って……ただの強運の持ち主ってところでしょうか」
「ち、ちくしょう」
デイジーはさらに技術を一段階上げる。これまでよりも複雑なフェイントを混ぜ、攻撃のタイミングを察知されないよう心掛けた。
「これは逃げられねえぞ!!」
前手のジャブ。タイミングをずらしてから再びのジャブ。奥手のストレートから再び前手のフック。四発目の攻撃は、ジュリアのこめかみを打ち抜くかと思われたが、彼女はしっかりと腕で頭を守っていた。
「くそっ!!」
さらに、ボディアッパーで追撃するつもりが、目の前からジュリアが消えてしまう。横手に回り込んでいたジュリアに振り向きながら、デイジーは怒声を上げた。
「逃げ回るだけで勝てると思うな!!」
「仰る通りですわ……ねっ!!」
パチンッ、と肉が叩かれる音を、デイジーはすぐ傍で聞いた。
「な、に……??」
ギャラリーの興奮が空間を震わせる。そう、初めてジュリアの攻撃が当たり、誰もが驚嘆したのだ。だが、一番驚いたのはデイジーである。頬にわずかな衝撃の名残り。どうやら、ジャブを刺し返してきたらしい。
確かめるよう、頬に触れるデイジーを見て、ジュリアは驚いたように手の平を口元に当てながら言った。
「あら、当たったようですね。これも強運かしら?」
「……ああ、強運だよ。強運に決まってる!!」
そこから、デイジーが一方的に攻めた。ただ、その多くは回避されてしまうか、ブロックされてしまうのかのどちらかで、決定的なダメージは与えられない。
一つ言えることは、ダンスを舞うようにコノスフィアを動き回るジュリアよりも、敵を追いかけ回しながら空振りのパンチを何度も打ったデイジーの方が疲れている、ということ。
次こそは、とデイジーが踏み込んだところで、一ラウンドの終了を告げるゴングが鳴った。
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