クレインの罠
足が地面から離れない。そんな状況に、スコットは心当たりがあった。
「この魔法……まさか、大地の束縛か!?」
スコットの推測に、クレインは感心したようだった。
「ほう、スコット・ヒスクリフ。貴様、なかなか学があるようだな」
「まさか、こんな大層な魔法を使うやつが……いるとは思わなかったけどな!」
余裕の笑みを見せるクレインに、悔し気な表情を浮かべるスコットだが、イーリアを抱きかかえるアーサーは混乱するばかりだった。
「スコット、俺にも分かるよう説明してくれ!」
「ああ、その前に……」
スコットは振り返る。
「ジュリア、エドガー! こっちに近付いてはダメだ! 迂回して、先に学園へ向かってくれ!!」
見守っていたジュリアたちも、何やら緊急事態だと理解したようだ。
「しかし、スコット先輩。わたくしの力が必要なのでは!?」
遠くから叫ぶジュリアにスコットは手を振って、先へ行くよう促す。
「大丈夫だ! この魔法は強力だが、決して長くはもたない。だが、念のため君は先に学園へ向かうんだ!」
「そんな……」
「僕を信じろ! 必ず間に合う!」
ジュリアは躊躇ったようだが、最終的には深く頷き、エドガーの手を取ると、迂回ルートへ走り出したようだ。アーサーもそれを見送ると、改めて訊ねるのだった。
「スコット。それで、どういう状況なんだ?」
「ああ。この大地の束縛はゆっくりと魔方陣を形成し、その中にいるものを大地の力を借りて拘束する、というものだ。本来なら、魔方陣の形成に時間がかかるため、実戦的ではないが……イーリアの雪によって隠されていたようだ」
「その通りだ」
スコットの説明を聞いていたのか、クレインが補足する。
「魔方陣は長い間、その形を保てない。だから、形成は発動の直前まで待たなければならなかったが……イーリアの魔法がサポートしてくれた。あのロゼスを捕らえられなかったのは残念だが、スコット・ヒスクリフ。貴様を開催式の時間まで、ここに止めておけば、スカーレットの勝ちが自動的に決まる! 貴様のロゼスは戦いもせずに負けるのだよ!」
勝ち誇るクレインに、アーサーは焦りを感じたらしい。
「スコット、何を落ち着いているんだ! やつの言う通り、開会式に間に合わなかったらどうする!?」
「心配しなくても大丈夫だ。大地の束縛は強力な分、魔力の消費も激しい。彼もすぐに根を上げるさ」
「……スコット。君、あの男の覚悟を軽んじてはないか? あれは死んででも俺たちを逃さないって顔をしているぞ」
スコットはクレインを改めてみる。確かに、そこには凄まじい執念が見て取れた。やや慄くスコットに、アーサーは言う。
「やつは棒立ちだ! 魔法で攻撃してみてはどうだ?」
「無駄だ。魔法を放った途端、地面に吸い込まれて終わりだろうな」
「そんなことがあるのか??」
「僕の言うことが信じられないなら試してみると良い」
アーサーはイーリアを抱えたまま、片手で剣を投擲を試みる。しかし、スコットの言う通り、吸い込まれるようにして、すぐ手前に落下してしまうのだった。
「本当に……やつの魔力切れを待つしかないのか??」
「そうだ。それよりも、心配なのは……他の刺客がジュリアに差し向けられていないか、ということの方だ」
「安心しろ、スコット・ヒスクリフ」
クレインはやや血色の悪くなった顔で言うのだった。
「トライアンフ学園の戦力は、僕で最後だ。ここで耐え抜けるかどうかで、プロヴィデンスの勝敗は大きく変わると言えるだろう」
それを聞いたスコットは安堵したのか、小さく笑う。
「だとしたら……君は本当に間抜けのようだな、クレイン」
この状況でも、確実な勝ち筋を見出したかのように、スコットは言った。
「僕の足止めに成功しても、大地の束縛を発動させている君だって動けない! 擁立者である君が開会式に間に合わなかったら……スカーレットだって失格になるんだぞ!!」
大地の束縛は発動させた本人が離れてしまえば、魔力の供給が途絶えて消滅してしまう。クレインはスコットたちを足止めしたければ、自身もこの場に止まらなければならないのだ。これがスコットが余裕でいられた理由だったのだが……。
「スコット・ヒスクリフ。本当の間抜けは貴様の方だ」
クレインは、スコットの嘲るように小さな笑みを浮かべた。そして、驚愕の事実を告げるのだった。
「僕はスカーレットの擁立者なんかじゃあない。ただの護衛の一人さ。本当の擁立者はずっと学園で開会式が始まるのを待っているだけ。だから、、大地の束縛から抜け出せなければ負けるのは……貴様たちだけなんだよ!!」




