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悪役令嬢に転生した格闘家、再び最強を目指す  作者: 葛西渚
第2章 英雄の意志を継ぐ薔薇
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二人の狂戦士①

 コハルは一人、市街地を進んでいた。目指すはあの男の気配。彼女を誘うように、それは街中を流れていた。だが、それは殺気ではない。狂気であった。



「見つけたぞ、ビクター!」



 その姿はないが、コハルは確信した。ビクターは前回と同じように、民家の屋根の上を戦いの場に選んだらしい。



 誰もが逃げたしてしまいそうな形相のコハルが、身軽に屋根へ駆けあがると、遠方にビクターに姿が。かなり距離はあるが、コハルには彼の動作が確認できていた。



 ビクターは何かを掲げる。


 黒くて、手に収まる程度の何か。



「まさか……あいつ!!」



 それは母の髪の毛だった。ビクターは一房の髪から数本を抜き取り、コハルに見えるよう高々と掲げた後、それを口の中に落とす。


 味わうように咀嚼するビクターを見て、コハルの胸の内は、燃えるような感情に乱れた。



「殺す……!!」



 コハルがカタナを抜くと、ビクターも弓を構え、間を置くことなく放ってくる。突進するコハルを阻むような矢の数は二本。ビクターは同時に複数の矢を放つらしいが、コハルはカタナでそれを払う。


 爆散した矢を潜るように前進するコハルだが、ビクターはさらに矢を放ってきた。今度は一本。しかし、速度と切れが違う。



「ちっ!」



 カタナでは払えず、頭を傾げて躱したが、矢の先端が頬を霞めた。さらに一本、矢を放とうとするビクターだが、コハルが高々と跳躍しつつ、パウダーカノンを構える。


 ドンッ、という轟音とほぼ同時に、民家の屋根が破砕されるが、ビクターはそこいない。スライドするように横へ移動すると、落下中のコハルへ矢を放っていたのだ。コハルは撃ち終わったパウダーカノンでそれを叩き落すと、すぐさまビクターへ投げつける。


 槍のように降ってきたパウンダーカノンに、やや慌てた様子でその場から離脱するビクターだったが、回避に成功したと思うと、わざとらしく額を腕で拭って見せた。が、彼はコハルの姿がないことに気付く。



「あぶねっ!!」



 唐突に現れたコハルは背後。彼女のカタナによる横一線はビクターの脇腹を裂いて、背骨も断ったように思われた。が、ビクターは振り返りつつ飛び退くと、手首をスナップさせて、何かを放る。


 それは、手の平に収まる程度の鉄球だった。サイズからしてみれば、大した攻撃ではないように思われたが、目に直撃することがあれば、失明もあり得ただろう。


 だが、コハルの反応も凄まじく、至近距離から放られた鉄球も最低限の動作で躱していた。さらに踏み込もうとするコハルだが、ビクターが弓を投げつけてくる。彼女がそれをカタナで斬り落とすと、彼は腰にあった二本のナイフを抜いて、隙のない構えを見せるのだった。



「嬉しいぜ」


 激しい戦闘があったとは思えない調子でビクターが言う。


「俺に会いに来てくれたんだろ? そんな目で見られると、興奮してどうにかなっちまいそうだ」



 ビクターの言葉は、ただの変態そのものだが、動作に関しては落ち着きつつも、踏み込んでくるものがあれば、二本のナイフで解体してみせようという気迫が感じられるものだ。さすがのコハルも慎重にならざるを得ない。



「でもなぁ、ちょっと違うんだよ」



 ビクターは心底残念だと言わんばかりに眉を寄せた。



「この前も言ったよな、集中力がないんだ。ああ、俺に怒るのは分かるぜ? だけどな、もっとちゃんと殺す気で俺を見てくれよ」


「今すぐにでも殺してやるつもりだ!」


「違う違う違う!」



 ビクターは駄々をこねるように首を横に振る。



「落ち着いて、冷静に俺を見ろ。どこに隙がある? 構えに綻びはないか? 本当に殺すためなら、そんな目じゃあダメだ。お前の母親みたいに、少しも揺らぐことない朝の湖みたいな目で見ないとダメだ」



 今度は、まるで生徒に教えるようなビクターの態度に、コハルはカタナの柄を強く握りしめる。


「安心しろ。すぐに叩き斬ってやる!」


 踏み出すコハルに、ビクターは叫んだ。



「だから、違うんだって! もっと本気で殺しに来いよ!!」



 身を捌いて、コハルが突き出したカタナをやり過ごし、首を狙って振るわれた一撃を潜り抜けると、ビクターは反撃にナイフを突き出す。腹部を狙った一撃を、コハルも身を捻ってそれを躱すが、ビクターはさらに半歩距離を詰めると同時に肘を放った。


 鳩尾に入った一撃に、コハルが体を丸めると、今度は膝が顔面を襲う。脳が揺れるような一撃に顔面が弾けそうだったが、コハルはカタナを振り回しながら、後退して安全を確保した。


 いや、あの男は追撃してくるはず。身構えるコハルだったが……。



「……マジでその程度なのか?」


 ビクターはただ棒立ちの状態で、呆れたように溜め息を吐いた。


「なら、もういい。死ね」



 短い言葉だった。気持ちが入っているとも思えなかった。しかし、コハルはビクターが放つ殺気に、戦慄するのだった。

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