これは良い流れ!
プロヴィデンスの前日。この日も、学園では平穏な時間が流れ、スコットたちは無事に屋敷へ戻ってきた。敵に動きはなく、逆に嫌な静けさと言えるが、今は明日に向けて備えるだけである。
「明日の動きについて、しっかりと話し合っておこう」
夜、スコットは仲間たちとエドガーを自室に集めた。
「前回と違って、今回はデュオフィラ選抜戦の公式プロヴィデンスだ。しかも、第一トーナメントとなると、開会式がある」
「開会式があると何か違うことがあるのですか?」
質問はエドガーのものだ。スコットは頷く。
「開会式では調印の儀式が行われるんだ。これには、擁立者とロゼスが揃っていなければならない。つまり、どちらかが時間に遅れるようなことがあれば……失格だ」
「となると、敵は足止めを仕掛けてくるかもしれないな」
アーサーの指摘に、スコットは頷く。
「その通りだ。普通の敵であれば、シラヌイ殿が排除してくれるのだろうが……彼女だけに頼るわけにはいかない。そうですね、シラヌイ殿?」
今度はコハルが落ち着いた様子で答えた。
「はい。私は公開練習の日、トライアンフ学園の陣営が雇った傭兵と交戦しましたが、かなりの戦力を有していました。そのため、私はやつを抑え込むことで手一杯になると考えれます」
それに対し、アーサーが低く唸る。
「だとしたら、トライアンフ学園の陣営がさらに一手、シラヌイ殿と同等の戦力を持ち出しているとしたら……厄介なことになるな」
「さすがに、そんな戦力を揃える資金力があるとは思えませんわ。コウヅキ家だって難しいことですから」
ジュリアの言うコウヅキ家も困難である、という主張はなかなか説得力のあるものだった。スコットは頷く。
「だとしたら、後は寄せ集めの兵……と考えた方がいいだろうな」
「しかし、だからこそ足止めを仕掛けてくる可能性があるのではないか」
アーサーの発言で話は最初に戻る。
「その場合は、僕とアーサーで一点突破を狙おう。余計な戦いは避けて、学園まで駆け抜けるんだ。ジュリアは前回と同じように、後から一緒にきてくれればいい」
「僕はどうすれば?」
エドガーも第一トーナメントを観戦するため、命がけでスコットに同行しなければならない。
「もちろん、エドガーも一緒だ。僕の後ろから離れるなよ」
緊張の面持ちで頷くエドガーを見て、スコットは大した男だ、と感心する。自分よりも五つ以上も下の子どもが、強さとは何かを学ぶため、命をかけようとしている。彼がカーライル家を継ぐのなら、フロストウィック領は安泰かもしれない。
「前回のように数で囲まれることがなければいいのだが……」
「やめろ、スコット。不安を口にすると現実になるぞ」
「むっ、君こそ不吉なことを言わないでくれ!」
スコットとアーサーが嫌な予感を振り払おうとしていると、意外な人物が顔を出した。
「スコットー? あら、まだ会議中だったかしら」
セシリアである。
「母上、どうしました?」
「それがちょっと見てほしいものがあって。一緒に外まできてくれない?」
外へ出てみると、屋敷の周りに倒れる多くの人が。セシリアは迷い込んだ犬の対処で困ったかのように言うのだった。
「うちに押し入ろうとした人がたくさんいたみたいで。でも、この通り全員セキュリティに引っかかって失神しているわ」
「これは……トライアンフ学園の陣営が放った刺客に違いない!」
「ああ、運良く向こうの戦力を裂けたということだな」
スコットとアーサーは二人で侵入者たちを拘束する。
「今日ほど母上が味方でよかったと思えた日はない」
一仕事を終えて胸を撫でおろすスコットだが、アーサーは油断は禁物だと主張する。
「しかし、避けては通れない敵が二人いるだろう」
「クレインとイーリアか」
その二人さえ突破してしまえば、学園まで辿り着けると言えるだろう。だとしたら、スコットには自信があった。
「僕の見立てではクレインはそれほどの魔力を備えていなかった。かと言って剣士や戦士と言うタイプではない。一騎打ちであれば勝つ自信はある」
「向こうが足止めに専念してきたら?」
「彼だって開催式に間に合わなければ失格だ。無茶な足止めはしてこないだろう。あとは君がイーリアを確実に退けられれば……僕たちの勝ちだ!」
「ふっ、それはなかなかのプレッシャーだな」
そう言いつつも、アーサーは何かやってくれそうな表情であった。いや、そうでなくとも、そういう顔をする男なのだが、今回ばかりは何かしてくれそうな気がする。
スコットは明日の戦いに自信をもって望める気がしていたが……
このデュオフィラ選抜戦は誰もが命がけであり、彼が考えるほど簡単なものではないのだった。




