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悪役令嬢に転生した格闘家、再び最強を目指す  作者: 葛西渚
第2章 英雄の意志を継ぐ薔薇
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決戦に向けて

 プロヴィデンスまで残り二日の夜、ジュリアは自室でストレッチを行っていた。その傍らでは、コハルがローテーブルの前に正座し、両親の写真に祈りを捧げている。



「……コハル」



 呼びかけに、コハルは祈りを止めて、首だけで振り返る。



「怪我の調子はどうですか?」


「スコット様に治癒の魔法をかけていただいています。問題はありません」


「……だとしたら、何を思い悩んでいるのです?」



 コハルは黙って、ただジュリアを見つめた。対するジュリアも、ただ視線を返す。



「お嬢様にお許しいただきたいことが、一つあります」


「なんでしょう」



 改まるように体の正面をジュリアに向けてから、コハルは背筋を伸ばす。ジュリアも彼女の想いを受け止める準備を整えるように、ストレッチをやめ、同じような姿勢で向き合った。



「十年前、お嬢様に拾っていただいたとき、一つ約束しました」


「ええ、もちろん覚えていますわ。飢えた獣のようだった貴方の目付き……今思い出すだけでも震え出してしまいそうです」



 当時を思い出したように笑顔を交わす二人。だが、すぐに笑みを消し、コハルは言った。



「あのとき、お嬢様は言いました。これからは、お嬢様を守るためだけに戦うように、と」


「はい。十年と言う月日、貴方はその約束を守っている、と私は認識していますわ」


「……次のプロヴィデンスの日、私はその約束を破ることになると思います。どうか、それをお許しいただけないでしょうか」



 先程とは違い、真剣かつ危険な視線が交錯した。だが、ジュリアの回答は短い。



「許しましょう」



 コハルはその言葉を噛み締めるように、小さく目を閉じた後、正座の状態のまま、深く頭を下げた。



「しかし、条件があります」


「はい」



 コハルは頭を下げたまま、その条件を待つ。



「人の心を忘れず戦い、必ず私の元に帰ること。それだけです」



 コハルはゆっくりと頭を上げると、ほのかに笑みを浮かべた。しかし、そこには確かな絆と信頼がある。


「もちろんです。私は死ぬまで……ジュリアお嬢様の使用人ですから」




 一方、スコットはアーサーに貸している部屋の前で、扉を叩くかどうか、と拳を上げては下げてを繰り返していた。考え、考え抜いた末、スコットは立ち去ろうとするが、部屋の扉が開き、アーサーが顔を出した。



「言いたいことがあるなら言え。気持ち悪いぞ」


「……すまない」



 スコットは招かれるまま、部屋に入り、向き合って座った。



「その、イーリア嬢のことだ……。残念だったな」



 それに対し、スコットは肩をすくめるだけで、特に何も言わなかった。だが、本題はこれからだ。



「それで……恐らくは明日か、プロヴィデンスの当日、彼女が敵として現れることがあるかもしれない。そのときは、どうする?」



 しばらく無言の時間が流れたが、アーサーは普段通りの調子で結論を出すのだった。



「もちろん、俺が相手する。何も心配する必要はない」


「……そうか。つらい役目を任せることになるが、頼んだぞ」



 アーサーはすべてを託されてもなお、余裕を持っているような表情で頷くが、なぜかスコットは急に疑うように目を細めた。



「だが、問題が一つの残されている」


「ふっ、それも分かっている」



 二人は声を揃えた。



「「良い女の声がない」」



 やはりそうか、と溜め息を吐くスコット。対してアーサーは笑みを浮かべたままだ。



「やはりジュリアではダメか?」


「以前言った通りだ」


「ファリスは?」


「やはり、あと二年は待ちたい」


「じゃあ、シラヌイ殿はどうだ!?」


「正直、ちょっと怖い」


「……」



 黙って額に手を当てるスコット。もはや打つ手なし、といったところだろうか。



「実は先程、シラヌイ殿に声をかけられたのだ。今回、クレインがとんでもない強敵を準備してきたらしく、その相手で精一杯になるだろう、と。つまり……君が本気を出してくれなければ、また窮地に陥るかもしれん」


「ふむ。どうなるものかな」


「……変に余裕があるじゃないか」



 普段から飄々としているアーサーだが、無責任な男ではない。戦力として機能しないのであれば、そう申し出てくるはずなのだ。



「何か勝算があるのか?」



 スコットが確認すると、アーサーは小さく頷いた。



「今回は戦える。……そんな気がするのさ」



 そして、日が変わり、プロヴィデンスまで残り一日となった。

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