エドガーの真実
地獄のような逃亡劇が終わり、一度学園に戻ってから、裁定者たちに事の顛末を話すと、市街地に捨て置かれた死体は処理してくれるとのことだった。
そのため、ヒスクリフの屋敷で休むことにした一同だが、勝手な行動で迷惑をかけたエドガーに、さすがのスコットも穏やかではいられなかった。
「エドガー。君の行動でここにいる全員が命の危険に晒されたのだぞ。アリストスとして、カラーライルの家を継ぐ者として、どう考えているんだ?」
「……反省しています」
「当然だ。アリストスは民を導く存在。それが規範的な行動を心掛けられないなんて、どうかと思うぞ。これからのためにも、君は今日と言う日を忘れてならない」
「はい……」
「それよりもスコット先輩」
メガネを握り締めながら、しょんぼりするエドガーに助け舟を出したのは、意外にもジュリアだった。
「どうして、私たちの居場所が分かったのです? コハルと合流までして、あれだけ完璧なタイミングで駆け付けるとは、ただの偶然とは思えなかったのですが」
「ああ、それはファリスのおかげなんだ」
スコットがファリスの方を見ると、兄の役に立てたことを誇るように胸を反らす彼女がいた。
「ファリスは魔力脈の読解という非常に珍しい魔法の使い手でね、空気中の魔力を読み解いて、どこに誰がいるのか把握できるんだ」
「どこに誰がいるのか、ですか??」
驚くジュリアにファリスが補足する。
「ええ、そうです。魔力性質さえ分かれば、離れていても、その人がどこにいるのか把握できます。もちろん、範囲は私の魔力量に比例するので、どこまでも……というわけではありませんが」
「なるほど、人間レーダー装置ということですね」
「な、なんですかその例えは」
引きつるファリスだが、ジュリアは笑顔を浮かべながらエドガーに言うのだった。
「ほら、貴方もMVPのファリスさんにお礼を言うべきでは?」
「……は、はい」
スカーレットの敵であるジュリアに複雑な表情を浮かべながらも、深々と頭を下げる。
「皆さん、本当にご迷惑をおかけしました。命を救っていただき、本当に感謝しています」
そんなエドガーの肩を叩き、笑顔で許しを示すスコットだったが、どうやら大きな疑問を残しているようだった。
「しかし……いくらファンだと言っても、命を賭けてでもスカーレットに会いたいという気持ちはどこからくるんだ?」
エドガーはなぜか照れくさそうに視線を落とすと、その真意を語った。
「実は……彼女は僕の姉なんです」
「……な、なんだって!?」
唐突かつ意外な事実にスコットは思わず声をあげた。エドガーは言う。
「腹違いなんです。彼女に関しては、僕みたいな弟がいるなんて……知らないでしょうけど。彼女の父親である、アイアン・ロックスもグロリアスターで、グロリアス開催のために各地を回っていたそうで。そんな旅の中で母と出会い、僕が生まれたみたいです」
なるほど、とスコットは理解する。彼が叔父に疎ましく思われている理由も、そこにあるのだろう、と。
「短い期間だったけど、母はアイアン・ロックスに強く惹かれたと聞いています……。そのせいか、母はいつも言うんです。貴方のお父様は誇り高く、本当に強い人なのよって。だから、僕も強くなれる。母はそう信じています。だけど、僕はカーライル家を継ぐ勇気がない。怖いんです。分家のバルザック家に預けるぞ、って脅されることがあっても、責任を負う方が嫌で、足がすくむばかりで。そんなときは、いつもアイアン・スカーレットの活躍を見て、自分を奮い立たせようとしました。彼女があれだけ強いのだから、同じ魂を受け継ぐ僕だって強くなれるはず、って」
頬を赤らめるエドガーは日々目にしていたのであろう、スカーレットの活躍に高揚するかのようだった。
「そんなとき、僕が後継者として指名されるまで、残り一年となりました。叔父上の嫌がらせも激しくなって、ますますカーライルを継ぐのが怖くなってしまいました。でも、聞いたんです。アイアン・スカーレットがデュオフィラ選抜戦に出場するって。僕だって、ちょっと前から、グロリアスがショーの要素が強いことくらい、分かっていました。グロリアスターがプロヴィデンスで勝てるわけがない。そう言われているのに……。でも、だからこそ……デュオフィラ選抜戦に挑戦するスカーレットの気持ちが知りたかった。一回戦だけでもいい。彼女の戦いを目に焼き付けたかったんです!」
スコットもアーサーも、彼がここにやってきた理由を聞いて、何も言葉が出てなかったようだ。何とも言えない空気の中、エドガーはジュリアを見る。そして、挑戦状を叩きつけるように言うのだった。
「ですから、アイアンは貴方に負けません。彼女は誰にも負けない魂を持っている。僕はそう信じています!」
少年の真っ直ぐな目を向けられても、ジュリアは余裕とも取れる笑顔を見せた。
「結構ですわ。決戦当日は……貴方に最高のプロヴィデンスを見せてあげます。貴方の英雄が敗北することは決定していますが」
突き放すような言葉にも、エドガーは笑顔を見せた。英雄の勝利を信じるように。
「なかなか辛辣だな」
エドガーに聞こえないよう、スコットはジュリアに言う。しかし、彼女はエドガーの背中を眺めながら、眩しそうに目を細めるのだった。
「負けを重ねても立ち上がる。それが格闘技の歴史ですから」
しかし、プロヴィデンスまでに残された障害がないわけではない。彼らにとって、これからが正念場と言えるのだった。




