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一生無理

「……何を言っているんだ?」


 アーサーの回答に対し、イーリアは馬鹿にされていると思ったのだろう。腕を掴まれたまま、鋭い視線でアーサーを睨み付けている。


「俺は良い女の声がなければ、剣を振れなくてな」



 恥じた様子もなく、あまりに間抜けな理由を語るアーサーに、さすがのイーリアも怒りを制御できなかったらしい。



「馬鹿にするな!」


 ジュリアを押しのけるようにして、放たれた蹴りはアーサーに直撃した。


「ぐぬはっ!」



 何の手応えもなく倒れたアーサーを見て、イーリアは自分の目を疑うように呟く。



「よ、弱い……」


「そういうことだ」



 真実にたどり着いたイーリアを称えるような態度で、すくっと立ち上がるアーサー。それを見て、イーリアは逆に恐れをなしたように退いた。



「い、意味が分からない! どうなっているんだ、お前は!!」


「困ったことに、俺もよく分からないのさ。実際、俺は君を良い女だと思っていたが、魂は何かを感じ取っていたらしくてな。君の声に、俺の剣は反応しなかった。となると、答えは一つ。君は俺の敵……ということだ」


「……はぁ?」



 説明されても、やはりイーリアは理解できなかったようである。だが、アーサーはこれ以上は言葉を重ねる意味はない、といった調子に肩をすくめた。



「それにしても、アイアン・スカーレットもなかなか芝居が上手だな。君と言う仲間が現れても、まったく顔に出さなかったのだから」


「……スカーレット殿は私のことを知らない。私はクレイン様の命令で、開催学園の陣営(お前たち)から情報を収集するために、近付いただけだ。こんなに早く敵対するとは思わなかったがな……」



 堂々としたスパイ宣言にさすがのアーサーも肩を落とした。


「悲しみに明け暮れたいところだが、それすら許してもらえないらしい」


 そう言ってアーサーが辺りを見回すと、黒服たちが彼らを囲んでいた。しかも、これまで以上の数である。



「絶体絶命、だな。イーリア……あのときのように手伝ってはくれないだろうか?」



 つい先ほど敵と判明した相手に助けを求めるアーサー。もちろん返答は……。



「ふざけるな。あのときは、貴様の信頼を得るために、味方のふりをして手伝っただけだ。こんな危険な状況なら、スカーレッド殿を保護して、お前たちが襲われている間に離脱させてもらう」


「そうか。しかし、向こうは君も逃がす気はないらしいぞ」



 じりじりと詰め寄る黒服たちからは、誰一人して逃がさない、という意思が見えた。イーリアは舌打ちを鳴らしながら、空き家の中で縮こまるスカーレットに声をかける。



「スカーレット殿! 私はクレイン様の使いです。ここから離脱するので一緒に!」



 手を差し出すが、スカーレットは自分の体を抱きしめるように、より固まってしまう。



「む、無理だよ……。怖くて動けない!!」


「しかし、動かなくては殺されます! クレイン様のためにも……貴方に死なれては困るのです!」


「そんなこと言われても……!!」



 イーリアは苛立ちながらも判断に迷うようだった。逃げなければ、この戦いに巻き込まれる。しかし、スカーレットが動けないとなると……。そんな葛藤に揺れる彼女に、アーサーは言った。



「君は彼女の守りに専念すればいい」


「……お前はどうするつもりだ?」


「やれるところまで、やってみせるさ」



 そういって鞘から剣を引き抜くアーサー。だが、勢い余ったのか、その剣は手から滑り落ちて転がってしまう。ゴホンッ、と咳払いで誤魔化した後、剣を拾い上げて構えるが、どう見ても頼りがいがなかった。



「アーサー先輩、無理しないでください」



 さすがに見かねたのはジュリアである。



「ここは私が突破口を開くので、アーサー先輩はその間に少年を連れて逃げてくださいな」


「いやいや、さすがにそれはスコットに面目が立たない。俺がやる」


「いえいえ、私がやります!」



 ジュリアは一度振り返って、スカーレットを見た後、再び迫る敵たちに視線を戻して言うのだった。



「私はそこにいる、本当の戦いを知らない、ショーばかりの腰抜けとは違います」



 明らかな挑発だが、スカーレットは動かない。それでも、ジュリアは続ける。



「私はロゼスとしての誇りを持っています。どんな危険が迫ろうとしても、プロヴィデンスに辿り着くためなら、全力を尽くす。だから……ここは私に任せてください!」



 ジュリアはプロヴィデンスと言う大一番が控えている。そのため、彼女に怪我のリスクを負わせて戦わせるわけにはいかないのだ。しかし、ジュリアが戦う以外、この窮地を乗り越える手段はないように思われた。


 そんな危機感のある状況で、ジュリアはアーサーに問うのだった。



「どうですか、アーサー先輩。今ので良い女の気配を察知しませんでした?」


「……いや、無理だ。前回と同じパターンだし、何よりもあのときのトラウマがあるからな。ジュリア嬢では一生反応しない気がする」


「一生、ですか」



 ジュリアの穏やかでない視線を受けながらも、どこか悟ったように微笑みながら軽く目を閉じるアーサー。これにはジュリアも溜め息を吐くしかなかった。



「仕方ありませんね。腰抜けのグロリアスターも頼りにならないので、私がやるとしますか!」



 ダメ押しのように挑発するジュリアだったが、意外にも反発があった。


「アイアンを腰抜けって言うな!!」


 それはアイアン・スカーレット本人のものではない。彼女のファンである、エドガーのものだった。

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