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コハルの因縁

「こんなに早く合流できるなら、スコットも一緒に来るべきだったな」


 刺客を殴るために使った剣を腰に戻すアーサーを見て、エドガーは力が抜けていくようだった。


「助かったぁぁぁー!!」



 頼れる大人とも言えるアーサーの登場に感極まるエドガーだが、事情を聞いたアーサーは爽やかな笑みを浮かべながら、こんなことを言うのだった。


「いや、期待されても困るぞ。俺はそれほど役に立つ剣士ではないからな」



 これだけジャストなタイミングで現れてくれたのだ。頼りにしたい。いや、頼りにするしかない存在なのだが、アーサーはそれを拒否するのだった。



「どういうことですか??」


「俺はある条件を満たさなければ、剣を振るえないような男なのだ。だから、スコットたちと合流するまで安心できないのさ」


「そ、そんな……」



 一息吐ける、と思っていた自分が甘かったとエドガーは額に手を置き、天を仰ぐ。そんな様子を見て、アーサーがなぜか、ふっと笑みを見せた。



「エドガー、君はいいアリストスになるだろうな」


「なぜです?」


「何となくスコットによく似ている気がしたのさ。むっ、あれは追っ手では!?」


「本当だ! 行きましょう、アイアン!」


「えええ……。まだ続くのぉぉぉ??」



 アーサーが駆け付けたものの、ただ一緒に逃げる人数が増えるだけ。好転しない状況に、エドガーは大きく溜め息を吐くが、根本は自業自得であるため、ぐっと不満を飲み込むのだった。





 一方、ジュリアとコハルも街中に出て、エドガーを探しているが、ただ人の波の中で右往左往しているだけ、と言えた。


「困りましたわねぇ。コハル、貴方ならこの人混みの中でも、足音を聞き分けて、あの少年を見つけ出すとかできるのでは?」


 少しも成果が出そうにない状況に、ジュリアなりの気分転換として軽口を叩いたつもりだった。いつもなら、コハルはさらに無茶なジョークを返してくるのだが、今日の彼女は何も反応を見せない。



「コハル?」



 何があったのか、と振り返ると、コハルはさらに後方を眺めて、立ち止まっていた。だが、ジュリアの呼びかけに反応すると、意外なことを言う。



「お嬢様、ここからはお一人で逃げてください」


「逃げる……? どうかしたのです?」


「敵がこちらに向かっています。この足音……只者ではなありません」



 やっぱり、この人混みの中で足音を判別できるのか、という驚きもあったが、それよりもコハルが自分だけを逃がそうとするとしていることに驚く。それほどの敵が接近しているのだ、と。



「敵は何者なのです?」


「恐らくはトライアンフ学園の刺客でしょう」



 つまり、スカーレットを襲撃されて怒りを覚えたクレインが、報復として暗殺者を放ったということか。しかも、コハルがこれだけ警戒する相手とは。



「お嬢様、時間がありません。お早く」


「分かりました。コハル……絶対に私の元へ帰ってくるのですよ!!」



 ジュリアが立ち去っていく。その背に頭を下げながら、コハルは呟いた。


「承知しました」


 さて、とコハルは近付く敵の気配に振り返る。武器はスカートの中に隠した二本のナイフのみ。これだけの敵を相手にするならば、カタナを持ってくるべきだった、と後悔するが、戦闘とは常に万全でいられるわけではない。今の装備で最大の成果を出すしかないのだ。



「お嬢様の視界に入れると思うなよ、ゲスが」


 コハルは道の端へ移動すると、身軽に民家の屋根へ駆け上げる。そして、迫りくる敵の気配を探った。


「……こっちに向かってくる?」



 向こうもコハルの気配を察知するほどの実力があるはず。だとしたら、コハルを迂回しながらジュリアを狙うと思われたが、真っ直ぐとこちらに向かってくるではないか。



「きた!」



 コハルは遠方から唐突に自分へ向かってくる敵意を察知する。矢だ。二本の矢が立て続けに向かってきている。コハルはナイフを引き抜くと、正確に飛来する矢を切り払う。が、次の瞬間、敵の気配が消えていた。



(いつの間に!?)



 コハルは敵に気付く。右前方から凄まじいスピードで、民家の屋根を飛び移りながら、進行する影に。そして、そこから再び二本の矢が放たれる。


 コハルは先程と同じように矢を切り払うが、敵はすぐ傍らまで移動していた。さっそく仕掛けられた攻撃は、頭部を狙った右回し蹴り。


 コハルはそれを潜り抜けて躱したが、顔面に突き出された切っ先が。コハルは一歩下がりつつも、敵が突き出した腕を裂くためにナイフを振るったが、手応えはなかった。



「ふぅ。とんでもねえ護衛が付いていると思ったら、お前……ヤマト民か?」


「お、お前は……!!」



 コハルの前に立つ敵は、短髪の白髪が特徴的な頬のこけた、四十代と思われる男だった。しかし、その目は大量の殺人を経験したもののみがまとう異様な暗さがある。そして、コハルはその目を知っていた。



「あのときの……アッシア人か!」


「はぁ?」



 男には心当たりがないようだったが、コハルにしてみると、忘れられない相手だ。なぜなら、その男は……十五年前に彼女の家族から友まで皆殺しにした、侵略者だったからである。

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