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英雄、足手まとい

 エドガーとスカーレットは街中を走るが、地理感覚のない二人は、すぐに人気のない袋小路に追いつめられてしまった。


「し、しまった。行き止まりだ」


 冷静に来た道を戻ろうとするエドガーだが、黒服の男が一人、こちらに迫ってきている。それを見たスカーレットがガクガクと震え出してしまった。



「ど、どどど、どうしよう! 殺されちゃう……!!」


「でも、敵は一人ですよ??」



 一人くらいなら、アイアン・スカーレットがいつものように捻り潰してくれる。そう期待するエドガーだったが、彼女は戦うどころか、腰が抜けたらしく、その場に座り込んでしまった。



「こ、怖いよう……。こんなところで私、死んじゃうんだ!! ごめんね、お父さん! ごめんね、グロリアスファンのみんな……!!」


「ちょ、泣いている場合じゃないでしょ!!」



 エドガーはスカーレットのたくましい肩を掴んで揺するが、彼女は立ち上がってくれそうにもない。


「ぼ、僕がやるしか……ないのか!?」


 エドガーは魔法の杖を取り出して、覚悟を決める。彼はアリストスの血を引くだけでなく、何度か命の危険に晒された経験だってあった。たった一人の敵くらいなら……!



「風の斬撃エアリアル・スラッシュ!」


 風の刃を発生させ、迫る敵に向かって放つ。しかし、普通の魔法使いが繰り出す刃に比べて、かなりサイズが小さく、攻撃範囲も狭い。敵は軽々と躱して、一気に駆け出した。



「まずい! 瞬間暴風(サドン・テンペスト)!」


 エドガーが突風を発生させると、その凄まじさに敵はつい目を細めたようだ。


「今だ! こっちに!」



 エドガーは再びスカーレットの手を引いて、敵の横手を通り抜ける。


氷結の隔壁(フリーズ・ウォール)


 さらに、細い一本道に氷の壁を作り出し、敵を袋小路に閉じ込め、何とか危機から免れるのだった。しかし、エドガーの足取りが少しずつ重たくなる。



「ど、どうしたの??」


 明らかに勢いをなくしたエドガーに、さすがのスカーレットも心配した様子だ。


「ま、魔力切れで……ちょっと、眩暈が」



 短時間で魔法を使いすぎたらしい。数回程度の迷うでも、まだまだ未熟なエドガーは足も上手く動かないほど消耗してしまったのである。


「こ、こんなところで??」


 辺りは多くの人が行き交っているが、ゆえに誰が敵なのかも分からない状況と言える。せめて、人気が少ないところに、と今度はスカーレットが彼を担いで移動した。



「だ、大丈夫?」


「少し休めば……恐らくは」



 小さい公園を見つけ、二人はそこで休むことにしたが、エドガーの顔はまだ青い。スカーレットは助けを求めるように右へ左へと視線を巡らせるが、二人を匿ってくれそうな場所もなかった。


「アイアンは……怪我はないですか?」


 無理やり笑みを浮かべたエドガーに、スカーレットは戸惑いながら頷く。



「う、うん。でも……君、私のこと知っているの?」


「当然ですよ。僕はアイアン・スカーレットのファンですから」


「わ、私の??」



 慌てるスカーレット。やっと、ファンの前で恥を曝け出していることに気付いたらしい。



「ごめんね……。幻滅、したよね?」


「幻滅と言うか……まぁ、その、何て言うか……」



 言葉を選ぶエドガーを見て、スカーレットは顔を真っ赤にしてしゃがみこむ。そして、両手で表情を覆いながら告白するのだった。



「本当にごめんなさい! でも、こんな弱虫な私が本当の私なの!! グロリアスをやっているときは、何とかスイッチ入れて頑張っているけど……普段はこんな感じで、いいところなんて一つもない! 本当にファンの人には申し訳ないけど、誰かと戦うなんて怖くて!!」



 そんな調子で、なぜデュオフィラ選抜戦に参加しようと思ったのだろうか。そう指摘したかったが、より彼女を追いつめてしまう気がしたので、エドガーは彼の想うスカーレットについて話した。



「でも、僕は本当のアイアン・スカーレットは強くてかっこいいって……分かっていますから!」



 半分は彼女を慰めるため、半分はそう信じたかった。すると、意外な言葉を耳にしたと言わんばかりに、スカーレットは目を瞬かせが、結局はしぼむように肩を落としてしまう。



「君、名前は?」


「……え、エドガーです。エドガー・カーライル!」


「エドガーくんか……。ごめんね、こんなに弱いグロリアスターで」



 憧れのアイアン・スカーレットに名前を呼ばれ、エドガーは一瞬だけ喜びを抱くが、弱々しい彼女に複雑な感情を抱くのだった。しかし、そんな彼らに新たな魔の手が……。



「エドガー・カーライル、だな?」


 黒服の男が一人、いつの間にかすぐ傍に現れていた。


「し、しまった!」



 まだ魔力も回復していなければ、もちろんスカーレットは口をパクパクと開け閉めするだけで、戦う勇気を持ち合わせていない。しかし、黒服の男が手にした杖の先に、魔力を集中させる。ここで終わりか。せっかく、スカーレットと話せたのに……と、エドガーが目を閉じる。



「ぐはぁっ」



 しかし、何やら人が崩れ落ちるような音がして目を開けると……倒れた黒服の男が。そして、その後ろに……。



「ふむ、不意打ちで何とかなったようだが……」


「あ、アーサーさん!!」



 スコットの護衛の剣士、アーサーが立っていたのだった。

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