喧嘩を売る貴族令嬢
しかも、アルバートは後ろに、手下を従えるように二人の男女を連れているため、生徒会室は異様な圧迫感に包まれた。それでも、スコットは冷静を装ってアルバートに目を向ける。
「ちょうど昼食中なんだ。騒がしくしないで欲しいな。それで、何の用だい?」
「用など一つだ。デュオフィラ選抜戦は諦めろ。お前には荷が重い」
鋭い視線に、普通の生徒ならば気圧されて逃げ出したくなってしまうところだが、スコットはヒスクリフ家の長男だけあって、目を逸らすこともない。
「どうかな。僕だって譲れないものがあるんだ。ロゼスのエントリー期限まで残り一週間足らずだが、最後の最後まであがかせてもらうさ」
力のある視線に、アルバートは目を細める。その自信はどこから来るのか探るように、生徒会室を見回すと、すぐそばに立っているジュリアに気付いたようだった。
「まさか、コウヅキの娘を引き込んで、選抜戦に挑むつもりか?」
「いや、そんなつもりは――」
「その通りです!!」
否定するつもりが、ジュリアが何もかもかき消すような大きな声で割って入ってくる。
「このコウヅキ・ジュリア! ヒスクリフ学園のロゼスに立候補します。どうせ、私以外の候補者は雑魚ばかり。対立する候補者が現れるのであれば、片っ端から叩きのめして見せますわ!!」
「へぇ……」
ジュリアに興味を示したのは、アルバートではなく、その後ろに控えていた女子生徒だった。小柄ではあるが、目付きは鋭く、そのボディラインも鍛え抜かれた気配がある。
もしかしたら、とスコットの頭に嫌な考えが過った。そして、その予感を的中させる不吉な言葉を彼女は口にしたのである。
「そこまで言うなら、お前……私とやれよ」
「デイジー、よせ」
好戦的な笑みを浮かべる女子生徒、デイジー はアルバートの制止を聞かずに前へ出た。
「アル兄……じゃなかった。アルバート先輩!」
デイジーがアルバートを「アル兄」と呼んだため、スコットは違和感を覚える。アルバートに兄弟はいない。デイジーに兄と呼ばせるほど、彼らの絆は深いのだろうか、と。デイジーは言う。
「ここは私にやらせてくれ。この女が、最近噂に聞くコウヅキ家の娘だろ??」
アルバートが小さく頷くと、デイジーはジュリアに人差し指を突きつける。
「おい、聞けよお嬢様。デュオフィラってのはな、他に選択肢がなくて追いつめられたやつが目指すものなんだ。生きるため、唯一の手段として選ぶものなんだよ。それをアリストスの娘が面白半分で選抜戦に出るなんて、私は許せねえよ」
今にも飛びかかってきそうな殺気を放つデイジーに、スコットは「ごもっとも」と内心で同意するが、ジュリアの方は余裕の笑顔を見せている。
「あらあら、元気のよろしいことで。しかし、私としてもデュオフィラは夢を叶える唯一の手段です。ごちゃごちゃ言ってくるのであれば、軽くねじ伏せて差し上げましょうか?」
「おい、ジュリア嬢!!」
スコットはジュリアを引っ張り、できるだけアルバートたちから離れて耳打ちする。
「相手はあのデイジーだぞ! やめておけ!」
「どのデイジーなんです?」
「知らないのか? この学園で最強のロゼス候補、メイシーの妹だ。その実力は確実に五本の指……いや、三本の指に入るぞ」
「なるほどなるほど。強いのではあれば好都合ではないですか。ここで華やかに勝てば、素晴らしいロゼス候補を見つけてきた、とスコット先輩の評価もぶち上がるはずですし」
「簡単に言うな! ここは一旦退いて、しっかりと今後の対策を練ろう」
「いえいえ、ここは私に任せてくださいな」
スコットの手を払い、ジュリアは一歩前に出ると、デイジーに向かって人差し指を突き出した。
「では、プロヴィデンスと行きましょう! 雑魚が相手なら、わたくしも昼食前の運動にちょうどいいです!」
「……言ってくれるじゃねえか、お嬢様!!」
顔を引きつらせるデイジーは完全にスイッチが入っている。
「アルバート先輩、コノスフィアを用意してくれ! プロヴィデンスでこの勘違いお嬢様を叩きのめしてやる!!」
デイジーの注文に、アルバートは額に手を当てるが、観念したように溜め息を吐く。
「……仕方がない。では、プロヴィデンスは三十分後! 体育館に設置されたコノスフィアで行う!!」
思わぬ方向に事が動き出し、開いた口がふさがらないスコットだが、彼の耳元にジュリアは囁くように言うのだった。
「こうなったら逃げられませんわ。いっちょかましてやりましょう、先輩!」
スコットはジュリアが使う聞きなれない言葉を、これ以上は耳にしたくなかった……。
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