スカーレットのパフォーマンス
そして、翌日。学園から少し離れたところにある広場には、練習用のマットが敷かれた簡易的な舞台が用意され、記者や見物人が集まっていた。
「では、アイアン・スカーレットの公開練習を始めます」
進行役の裁定者がアナウンスすると、人々の前にスカーレットが現れる。露出度が高い派手な衣装から見える鍛え抜かれた肉体に、驚嘆するような唸り声が上がった。
「それでは、スカーレットさんはどのような練習を?」
裁定者がマイクを近づけて質問すると、彼女はマッスルポーズを取りながら答えた。
「私の! パワーを披露してやる!!」
おおお、と期待の声が。スカーレットはマットの中央で、練習相手と思われる男性と向き合う。
「トライアンフ学園のロゼス、スカーレットさんの公開練習、開始してください!」
開始のホーンが鳴らされると、スカーレットは練習相手の男性の腰に組み付く。
「アイアーンッ!!」
そして、綿人形を扱うように軽々と持ち上げたと思うと、マットに叩き付けた。どれだけの衝撃だったのか、男性は潰れたように見える。それでも、男性は素早く身を起こして、今度はスカーレットの腰にしがみつくが……。
「アイアン・バスター!!」
スカーレットは男性の上半身に覆いかぶさって、腰に手を回すと、そのまま強引に持ち上げる。そして、頭らマットへ落とすと男性は動かなくなってしまった。
「す、凄い!!」
それを見て興奮の声を上げるのは、スコットの隣にいるエドガーだ。
「でも、大丈夫かな。練習相手の人、頭から落ちて死んじゃったんじゃあ……」
スカーレットの派手なグロリアス技に慄くエドガーだが、ジュリアはゴージャスな金髪を後ろに流しながら笑う。
「あれはパフォーマンスです。もちろん、グロリアスターの鍛え抜かれた強靭な肉体だからこそ成立するものですが、ちゃんと痛くないように落としているのですよ」
現実的な指摘にエドガーはどこか不満げな表情を見せるが、さらなるスカーレットの派手なパフォーマンスに瞳を輝かせた。
「では、インタビューに移ります!」
裁定者のアナウンスが再び。どうやら、公開練習が終わったらしく、スカーレットはマットの前に置かれた椅子に腰を下ろした。記者の一人がさっそく質問を投げる。
「プロコンニュースのファイブ・ストームです。グロリアスターによるプロヴィデンスの挑戦は、ここ十年で何度も見られていますが、いい成績が残せていない、という現状だと思います。昨今では、ファンの間でもプロヴィデンスとグロリアスは別物だと認識されつつありますが、人気グロリアスターであるスカーレットさんが、なぜこのタイミングでデュオフィラ選抜戦に参加したのでしょうか。使命感のようなものがあるなら教えてください」
マイクを手にしたスカーレットが呟くように言った。
「つまんねえ質問すんじゃねえぞ」
会場の空気が一気に凍り付いた。鋼の肉体を持つスカーレットが凄みを利かせれば、誰もが黙り込んでしまうのも仕方がないだろう。反応に困っている記者へスカーレットが言う。
「私たちグロリアスターは、今もグロリアスが最強だって信じている。それを証明するだけ。たまたま私の出番が回ってきた。それだけの話だ。次の質問!」
吐き捨てるように言うスカーレットだが、会場のどこからか「いいぞ、アイアン!」という声が上がった。どうやら、熱狂的なグロリアスファンがいるらしい。次の記者が質問する。
「プロヴィデンスでは、より実戦的な打撃や寝技の技術が必要とされます。グロリアスターとして、それらの対策は万全なのでしょうか?」
「何度も言わせるな。私はグロリアスが最強だって信じている。グロリアスターは、みみっちい技術に屈しない。全部パワーで潰すだけだ!」
スカーレットは立ち上がる。
「いいか、よく聞け! どいつもこいつも、グロリアスターのパワーの前では無力だ! このデュオフィラ選抜戦で、それを分からせてやるから、よく見ておけ! 以上!!」
マイクを放り投げて、会場から離れていくスカーレット。その背を見つめ、エドガーは「すげえ」と目を輝かせるが、スコットは何がそこまで感動するのか、と頭の中で首を傾げるのだった。
「続いては、ヒスクリフ学園のロゼス、ジュリア・コウヅキさんの公開練習です!」
ジュリアの名前が呼ばれ、スコットも舞台の方に視線を戻す。ジュリアはアーサーにミットを持たせて、華麗な打撃を見せ、記者たちの注目を集めた。
「さぁ、質問タイムですね! 何なりと聞いてくださいまし!」
ジュリアがマットの前に置かれた椅子に腰を下ろすと、軽く手を上げて合図を送る。
「コハル、お茶を」
「承知しました」
いつ用意したのか、コハルはカップをジュリアに手渡し、ティーポットからお茶を注ぐ。
「さぁ、記者の皆さん。わたくしがどれだけ優れたロゼスなのか、説明してあげましょう。何から聞きたいですか? はい、ではそこの貴方。質問をどうぞ」
アリストスの娘らしい振る舞いに、記者たちも戸惑いながら質問を始めるが、そんな様子を眺めながらスコットは目を細める。
「なんか……スカーレットとは別の意味で悪目立ちしている気がするな」
隣のアーサーは、場を楽しむように笑みを零していたが、何かに気付いて辺りを見回し出す。
「おい、エドガーが……いないぞ!」
「なんだって……!?」
確かにエドガーの姿がない。
まさか拉致されたのだろうか。
最悪の事態を想像し、スコットは青ざめるのであった。




