その話には弱いんだ
「その、保護いただいている身で厚かましいお願いだと十分に理解しているつもりなのですが……」
エドガーは慎重に言葉を選ぶ。その様子が、さすがアリストスの血が流れている、と言うべきか、妹のファリスよりも大人びているではないか、とスコットは思うのだった。
「もちろん、すべて叶えてあげられるわけではないけど、聞くだけ聞かせてくれ」
「……お願いです、アイアンに! アイアン・スカーレットに会わせてください!!」
やはりそう来たか、とスコットは心の中だけで苦い表情を浮かべる。ただ、答えは決まっている。彼を無駄に屋敷の外へ連れ出すことは、誰にとってもリスクしかないのだから。
「悪いけど、それはできない。屋敷の外にでることが、どれだけ危険か、君自身が一番分かっているだろう。それに、アイアン・スカーレットは僕たちにとってはプロヴィデンスの相手だ。こちらから接触したら、襲撃と受け取られる恐れもある。僕たちとしても、無駄に命を懸けるわけにはいかないんだ」
スコットの主張は誰が聞いても正論である。エドガーもそう感じているのか、押し黙って目を伏せてしまった。
「すまないね」
話を切り上げようとするスコットだが、エドガーは顔を上げると、泣き出しそうな瞳で、無言のまま想いを訴えてくるではないか。もともと甘い性格のスコットは、その威力に押されかけるが、横にはジュリアもいる。情けないところは見せられなかった。
「もう夜も遅い。君も休むと良い」
そう言って彼に貸している客室まで送ることにした。しかし、エドガーはジュリアたちから離れるなり、悪魔のような駆け引きを始めるのだった。
「スコットさん。ヒスクリフ家はかなり資金繰りに困っているようですね」
「きゅ、急に何を……」
「セシリア様から聞いていますよ。お父上がお亡くなりになられてから、かなり苦しい生活を続けられている、と」
「む、むう」
これまで先輩風を吹かせていたつもりだっただけに、淡々と痛いところを突いてくるエドガーに、どんな顔を見せればいいか分からない。だが、エドガーは容赦なく続けてくる。
「そのためにデュオフィラ選抜戦に参加しているようですが、ジュリア嬢やその使用人、アーサーさんの面倒まで見て、食費だけでもままならないでしょう? でも、デュオフィラ選抜戦に挑むだけでも資金は消えていく。この先、やっていけるですか??」
「そ、それは……」
言葉に詰まるスコットだが、エドガーが誘惑する悪魔のような笑みを見せた。
「支援しますよ?」
「……なん、だって?」
「支援するといったのですよ。幸いなことにカーライル家はデュオフィラ選抜戦に参加もしていませんし、それなりに潤っています。僕のような子どもの意思であっても、他のアリストスを支援するくらいの余裕ならあるんです」
金の話にはめっぽう弱いスコットである。既に、何とかエドガーをアイアン・スカーレットに会わせる方法はないかと考えていた。
「い、いや……ダメだ。危険すぎる!」
「危険ではない方法を考えてくださいよ!!」
「……あっ!!」
そういえば、三日後はプロモーションを含めた公開練習が、学園のすぐ近くにある広場で行われる。簡易的なコノスフィアを設置し、第一トーナメントに参加するデュオフィラ候補たちが、パフォーマンス的に練習を見せるのだ。ジュリアはもちろん、スカーレットも参加するため、一目なら会わせてやれるはず。しかも、その公開練習は先日の抽選会と同じで一般も参加可能だ。つまり、コハルを護衛につけることもできる。
「三日……我慢してもらえないだろうか」
「三日後、何があるのです?」
スコットは公開練習について説明する。
「会って話すことはできない。しかし、一目見ることは可能だ。……僕にできる限界は、それくらいだよ」
「分かりました。それで条件を呑みましょう!」
「くうぅぅぅ……」
五つ以上も下の少年に手の平で転がされ、何とも情けない気持ちではあるが、台所事情と言う最大の弱みを突かれてはどうにもならない。
「リスクはある、が先のことを考えるなら、乗り越えなければならない試練なんだ……!!」
エドガーと別れた後、自分に言い聞かせるスコットだったが……。
「先輩……」
「ジュリア!?」
いつの間にか、ジュリアが背後に立っていた。あのような取引を持ち掛けられ、抵抗できずに吞んでしまったところを見られてしまったのだろうか。彼女を安全に保護するためにも、余計な心配をかけたくなかったのに。動揺するスコットだったが、彼女の心配事はそこではなかった。
「あの少年……わたくしよりもスカーレットを推しているということですね?」
「そ、そこなのか」
「ええ。絶対に許せませんわ! どちらが優れたロゼスなのか……少年にもあの女にも徹底的に分からせてやります!」
どうやら、思わぬ形で火をくべてしまったらしい。そして、三日後の公開練習はすぐにやってくるのだった。




