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私はアイアン!

 ジュリアが悔しがっていた理由。それは昼食前の授業で起こった出来事。


「さぁ、体育の時間ですわ!! わたくしが誰よりも優れているところを見せつけるチャンスです!」


 ジュリアは張り切っていた。クラスの中に馴染めない彼女だが、体育という自分の得意分野を通じてであれば、注目を集めるチャンスだからだ。しかし……。



「す、すっごい」


「トライアンフ学園から来たって子でしょ?」


「ってことはロゼス?? あれ、絶対にトーナメント優勝するでしょ」



 何やら授業が始まるよりも先に、自分より注目を集めている人物がいるようだ。何が起こっているのだろうか、とジュリアは人だかりの方へ近づくと……。



「どうだ! この溢れるばかりのパワー! まさに……アイアン!!」



 そこには、一方の手でもう一方の手首を掴み、腕と胸に力を込め、胸板の厚みと発達を強調する……いわゆるサイドチェストと呼ばれるマッスルポーズを取ったスカーレットの姿が!



「な、な、なんなのです、あの女の筋肉は!!」



 ジュリアも驚かずにはいられなかった。もちろん、ジュリアだって鍛え抜いた筋肉が美しい線を描いている。が、スカーレットのそれは一回りも二回りも大きかった。しかも、制服と違って体操着は体のラインが分かりやすく、それを際立たせているではないか。



 なぜ、スカーレットがここにいるのか。それは彼女も学生であり、トーナメント第一回戦の期間は、ヒスクリフ学園に編入されるという形になるからだ。しかも、運悪くジュリアと同じクラスであり、思わぬところで彼女の負けず嫌いを刺激してしまうのだった。



「お待ちなさい、アイアン・スカーレット!!」



 ジュリアの声に生徒たちの注目が一気に集まる。もちろん、スカーレットの注目も……ポージングは保ったままだが、ジュリアに向けられた。



「わたくしのクラスで調子に乗らないでくださいまし。体育はあくまでわたくしの活躍の場。貴方は隅で筋トレでもしていなさい」



 いちゃもんを付けるジュリアだったが、スカーレットはそれを鼻で笑い飛ばす。



「仕方ないだろ! 私のこの筋肉! いえ、あまりに大きなこの筋肉!! 目立ってしまうのは当然だからな!!」


「ぐぬぬっ……」



 確かに、ジュリアより圧倒的に大きい筋肉は目立っている。しかし、彼女は自分よりも身体的に目立つ存在を許せなかった。ジュリアは人差し指をスカーレットへ突き出す。



「では、どっちの筋肉に価値があるのか、勝負と行きましょう!!」


「ほう……面白い。で、勝負の内容は?」


「焦ってはいけませんよ、スカーレットさん。すぐに貴方の筋肉が大きいだけで中身はスカスカだと証明してみせますので!!」



 一回目の勝負。それはシンプルな腕相撲であった。面白がった誰かが運んできた机の上で二人の腕が絡み合う。



「レディ……ゴォ!」


「はっ!!」



 開始とともに、ジュリアは全力でスカーレットの手の甲をテーブルに押し付けようとするが、少しも動きはしない。むしろ、全身を震わせるように力を込めるジュリアを見て、笑みを浮かべる余裕すらあるようだ。



 いや、それだけでは終わらない。彼女は空いた手でギャラリーを煽ったのだ。わー、っという歓声を浴びながら、スカーレットは笑みを浮かべる。


「さて、そろそろ決着を付けてやるか。……グレート、アイアンッ!!」


 スカーレットが力を込めた瞬間、決着は付いた。ジュリアの完敗であった。



 二回目の勝負。それは綱引きであった。


「先程はわたくしの選択ミス。単純な腕力勝負は不利も当然。しかし、綱引きであれば全身の力だけでなく瞬発力やタイミングも……」


「レディ……ゴォ!」


「アイアーンッ!!」


 ジュリアの完敗であった。



 三回目の勝負。それは極東の民族であるヤマトの伝統的な武道、スモウだった。


「アイアン! アイアン! アイアーン!!」


 もちろん、ジュリアの完敗である。為す術なく、倒れた状態で惨めに空を見上げるジュリアは、クラスメイトたちがスカーレットを賞賛する声を聞いていた。



「すげえ、やっぱりグロリアスターはパワーが段違いだな」


「こりゃあプロヴィデンスの結果も分かったようなものだろ!」


「アイアン、凄いぞ!!」



 そんな声にスカーレットが応える。


「これがグロリアスターの……パワー! そして、私はアイアン。アイアン・スカーレット!!」


 マッスルポーズが決まると、クラスメイトたちも何やら興奮を覚えたらしい。さらに、スカーレットは天に向かって人差し指を突き立てる。



「じゃあ、いつもの行くぞー! イチッ、ニィッ、サン!!」


「「アイアーン!!」」



 何やら大歓声だ。そして、ジュリアは気付かなかったが、コハルと一緒にヒスクリフの屋敷へ向かおうとするエドガーが眺めていた。



「……アイアン・スカーレット! やっぱり凄いや!!」



 その場にいるすべてをパワーのみで魅了するアイアン・スカーレット。いや、その場で瞳いっぱいに涙を溜めたジュリアを除けば、すべてを魅了するスカーレットは、スコットたちにとって脅威的なプロヴィデンスの相手と言えるのだった……。

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