グロリアスの歴史
抽選会が終わり、スコットたちは作戦会議のため、生徒会室に向かった。ただ、エドガーの前では話すのは避けたかったため、コハルと一緒に生徒会室の前で待ってもらう。
「……まさか、アイアン・スカーレットと当たってしまうとは!!」
スコットは頭を抱える。彼の懸念点は一つ。いや、二つだ。まずはジュリアが勝利した場合、エドガーをがっかりさせてしまうこと。もう一つは、あれだけ強そうなスカーレットを相手にジュリアが勝てるのか、ということだ。しかし、アーサーは言う。
「こればかりは仕方ない。エドガーには悪いが、ジュリア嬢に勝ってもらうしかないだろう」
「それはそうなのだが……」
あれだけ純粋に彼女を応援していたエドガーのことを思うと……。
「いや、アーサーの言う通りだ。ジュリア、相手を見てどうだった?」
勝てそうか、という質問だったがジュリアは金髪を指先で後ろに流すと、自信満々に答える。
「相手が誰であろうとぶっ飛ばす! それがチャンピオンに相応しい格闘家の在り方です」
「そ、そうか」
どうやら意味のない質問だったらしい。だが、ジュリアの言う通りでもある。勝てるか勝てないか。そういう問題ではなく、すべてに勝たなくてはならないのだから。
「ただ、スカーレットはジュリアより一回り大きい印象だったな」
「鍛え抜かれた筋肉。あれはあれで美しい」
アーサーも同意する通り、スカーレットはパワーに溢れていた。単純な力比べでは、ジュリアに勝ち目はないだろう。
「だが、グロリアスは実戦的ではないのだろう?」
疑問を呈するアーサー。
「どちらかと言うと、エンターテイメント性に溢れたショーだ。プロヴィデンスが今の形になる十年以上前は、あれが本物の戦いだと信じるファンも多かったようだが、今は誰もがショーとして見ている、という印象だが」
「まぁ、プロヴィデンスを知ってしまえば、グロリアスが本当の戦いと思えないだろうな。中には"やらせ”と揶揄されることも多いと聞く」
二人がグロリアスについて語っていると、ジュリアが割って入ってきた。
「ノンノンノン!! 二人ともプロレス……ではなく、グロリアスについて何もご存じないのですね!!」
何が気に入らなかったのか、少し語気が強めである。ジュリアは指を一本立てると、教師のように語り始めた。
「いいですか? こっちの世界でもあっちの世界でも、プロヴィデンスはプロレスから始まったのです。確かに、グロリアスはエンターテイメント的なショーの要素が強いと言えますが、かつてのファンは彼らの鍛え抜かれた体に憧れ、最強だと信じていました!」
それは十年以上の前の話であり、ジュリアは七歳以下ということになるが、彼女は鮮明に覚えているかのように語る。
「彼ら自身もグロリアスターこそ最強だと宣言し、さまざまな競技の戦士を自分たちのリングにあげては、その力を示してきました。ボクシングもレスリングも、グロリアスには敵わない。そんな幻想を彼らは確立していったのです。しかし!!」
ジュリアの声に二人は身を退く。それほど、彼女の語りには熱がこもっていた。
「しかし、あるアリストスがプロヴィデンスを現在のルールに変更してから、グロリアスは本当は強くないのでは、と疑われるようになってしまいます。グロリアスは実戦で通用するとは思えない豪快な投げ技、観客を盛り上げるためのロープワークなどありましたからね。だから、彼らはファンから問われ続ける、本当に最強なのか、という問いに答えなければならなかったのです」
「なるほど。それで……どうなったんだ?」
スコットはいつの間にか興味を引かれていたようだった。ジュリアは続ける。
「グロリアスターたちはプロヴィデンスに挑戦したのです。観客を魅了する戦いから、対戦相手を潰すための戦いに……!! 同じ戦いに見えるようですが、実際はまったくの別物。野球選手がサッカーに挑戦するようなものですわ。彼らの苦労は語らずとも分かるところでしょう」
意味の分からない単語を交えつつも、戦いの日々に身を晒してきたグロリアスターたちを悼むように目を伏せるジュリアだが、すぐに顔を上げた。
「彼らが多くのファンを引き連れて挑戦してくれたからこそ、今のプロヴィデンスも人気があると言えます。だから、わたくしはグロリアスターたちに対するリスペクトを忘れたことはありません!!」
これには、スコットも深い歴史を感じずには入れなかった。
「グロリアスターたちもファンを楽しませるために、グロリアスだけ続ける選択肢もあったはずだ。それなのに最強を証明するため、別の戦場に出なければならなかったとは……」
プロヴィデンスという思いもよらぬ戦いの誕生が、彼らの運命を変えたのだろう。そこで、スコットは一つの疑問が浮かぶ。
「ちなみに、あるアリストスが十年前にプロヴィデンスのルールを現在のものに変えた、という話だったが……どこのアリストスなんだ??」
グロリアスターたちの苦労はそこから始まったと言える。彼らにとって諸悪の根源は何者なのか。それは当然の疑問なのだが、ジュリアは平然と答えるのだった。
「もちろん、コウヅキ家です」
スコットが言葉を失っていると、廊下で待機しているはずのコハルが顔を出した。
「スコット様、お客様ですが……いかがしますか?」
「どなたですか?」
「トライアンフ学園の方です。つまり……スカーレット陣営の方のでしょうね」
プロヴィデンスは既に始まっている。スコットはそれを思い出し、息を飲むのだった。




