やっぱり訳あり!
ついに抽選会の当日。スコットとアーサーは予定通り、領地の境界線へ向かっていた。
「しかし、スコット。君もなかなか勇敢だな」
馬車に揺られ、もう少しで到着というところで、アーサーが唐突に口を開いた。
「勇敢? 何がだ?」
「これから、デュオフィラ選抜戦が始まるというのに、まともな護衛を付けずに出かけ、他領地の坊やを迎えに行くところがさ」
アーサーは自らに呆れた様子もなく、ただ爽やかに微笑んでいる。どこから余裕が出ているのか分からないが、スコットはそんな彼の自信を信じていた。
「何度も言わせないでくれ。君がいるから僕は恐れたりしない」
「こんな役立たずなのに?」
「自分で言うなんて逆に清々しいな」
思わず笑みを零しながら、スコットは自分自身も余裕を持っている理由を説明する。
「それに、今回は子どもを保護して帰るだけだ。デュオフィラ選抜戦だってまだ始まったわけではないし、それほど危険はないよ」
「だと良いけどな……」
アーサーは直感的に危険を感じ取っているのだろうか。ジュリアとコハルが心配そうにしていたことも思い出し、つい不安が膨らんでしまう。しかし、恐怖で足を止めるわけにもいかないのだ。
そうこうしているうちに、馬車が止まる。目的地に到着したようだ。
スコットたちが降りて待っていると、数分も経たぬうちに、別方向から馬車が近づいてくる。おそらく、カーライル家の息子が乗っているのだろう。馬車が停止すると、まずは使用人らしき男女が下りてきた。そして、彼らに手を引かれ、おそらくは十歳程度と思われる少年が降りてくる。
「スコット・ヒスクリフ様で?」
「はい」
使用人と思われる男が鋭い目でスコットに確認する。
「こちらが、エドガー・カーライル様です。デュオフィラ選抜戦の第一回トーナメントが終わるまで、どうかよろしくお願いいたします」
「確かにお預かりしました」
少年は特徴的な赤毛を揺らしながら、小さく頭を下げる。使用人たちから何かと口を出されると思われたが、彼らは必要最低限の挨拶だけで、馬車に戻ると、すぐに立ち去ってしまった。
「では、エドガー。こちらの馬車に乗ってくれ」
「よろしくお願いします」
エドガーは大人しく馬車に乗り込む。アリストスの息子であるから、きっと生意気な態度なのだろう、と想像していたが、緊張しているのか、案外素直に従ってくれるようだ。二人も馬車に乗り込み、ヒスクリフ学園へ引き返す。無言のままもおかしいので、スコットから話題を振った。
「こんなところまでお忍びでやってくるなんて、エドガーはプロヴィデンスが好きなのかい? 確か応援しているロゼスがいる、と聞いたが」
「……いえ。プロヴィデンスは初めて観戦します。特に興味があるわけではありません」
「そ、そうなのか。僕もどちらかと言うと苦手かな。自分が擁立したロゼスが倒されてしまうのでは、と思うと心臓に悪くてね」
「そうですか……」
「そうなんだよ……」
「……」
会話は続かなかった。アーサーもアシストしてくれるわけではないので、それからしばらく無言の時間が流れたが、急に馬車が揺れ出す。
「なんだ??」
スコットが様子を窺うため、腰を浮かせたが、そのタイミングで御者の男が顔を出した。
「おい、兄さんたち! その子ども……訳ありじゃないだろうな!?」
「ど、どういうことです?」
御者の男は何らや焦っているようだ。
「どういうことも何も、後ろの方を見てみろ! 変な集団が魔法をぶっ放してきているぞ!!」
「なんだって!?」
スコットはキャビンの小窓を開けて、後方を確認すると、馬に跨った男たちが少しずつ距離を詰めてきている。そして、先頭の男が手の平に魔力を集め、それを炎に変換して、こちらに放ってくるではないか。
「ま、まずい! 絶対防御の盾!!」
即座に光の盾を展開し、スコットは馬車全体を守るが、謎の男たちはさらに接近し、次なる攻撃を放とうしている。
「何者なんだ、あいつらは!!」
「ふむ。この少年を狙っている、と考えるべきか。御者殿、もっとスピードを上げてくれ!」
混乱するスコットとアーサーだったが、揺れる馬車に身を縮こまらせていたエドガーが言った。
「あの、スコットさん。もしかして、聞いていないのですか??」
「聞いていないって……何を!?」
スコットのリアクションが想定外だったのか、エドガーの表情が絶望に染まったようだった。そして、躊躇いつつも自信の事情を告白する。
「僕は……叔父上殿に命を狙われているのです! だから、彼らはその刺客かと……」
「はあぁぁぁ!? 数日間、君を保護するだけではないのか!?」
驚くスコットに対し、エドガーは弁解するように主張する。
「委員会には話が通っていると聞いていましたが!?」
「まさか、ジェイソンさん……僕を騙したな!」
危険な依頼だったからこそ、コノスフィアも学園の設備も新しいものに変えてくれたのだ。想像の何段階も上の厄介ごとを招いてしまった、とスコットは馬車に揺られながら後悔するのだった。




