二つのお知らせ
帰宅後、スコットはジュリアと彼女の使用人であるメイドのコハルに説明した。
「デュオフィラ選抜戦は、アーデン・グロリア王国にある選ばれた64の学園が参加し、トーナメント制のプロヴィデンスを勝ち上がっていくシステムだ」
「ええ、優勝した人物はまさに最強の座が相応しいと言える戦いですわね」
頷くジュリアだが、スコットが説明したい点はそこではない。
「今回、そのデュオフィラ選抜戦のメイン会場として、ヒスクリフ学園が選ばれた。それは知っているな?」
「もちろんです。しかし、メイン会場と言うことは、メイン以外の会場があるのですか?」
「そう、64の学園が参加するからね。第一トーナメントはプロヴィデンスの数が多いから、AからGのブロックに別れて、会場もそれぞれの場所で行われる形だ。主催学園である僕たちは必ずAブロックに割り振られ、プロヴィデンスもメイン会場のヒスクリフ学園で行われる、というわけだ」
次に手を挙げて発言したのはコハルだった。
「では、第一トーナメントが行われるときは、8つの学園によるプロヴィデンスがヒスクリフ学園で行われるのですね?」
「その通りです。そして、今回のトーナメント決定抽選会では、その8つの学園による組み合わせを抽選で決定します」
「ライバルたちが集結すると思うと、燃えますわね!」
ジュリアは立ち上がると、見えない敵に向かって拳を突き出す。
「ただ、覚えていて欲しいことがある」
興奮するジュリアを落ち着かせるように、スコットが言った。
「抽選会の日から、Aブロックの学園代表たちがヒスクリフ学園の学生寮で寝泊まりすることになるんだ」
「なるほどなるほど。領地を行き来するよりは効率がいいかもしれませんわね」
「いいえ、お嬢様。そういった側面もあるかもしれませんが、スコット様が仰りたい点はそこではないと思われます」
コハルの指摘にスコットは頷く。
「他の学園代表がヒスクリフ学園に寝泊まりするということは、プロヴィデンスの前に何らかの攻撃を仕掛けてくる機会も増えると考えられる」
「距離が近いだけ、襲撃される恐れもあると」
「そういうことだ。だから、抽選会でプロヴィデンスの相手が決まった瞬間から、いつだれに襲われてもおかしくない、と気を引き締めてほしい。特にシラヌイ殿は……」
スコットがコハルへ視線を向けると彼女は小さく頷く。
「もちろんです。お嬢様には指一本たりとも触れさせません」
「心強い」
話が途切れたところで、スコットの母であるセシリアが顔を出した。
「あら、スコット。ここにいたのね。手紙が届いていたわよー」
「ありがとうございます。なんだろう……」
手紙を受け取ると、セシリアはすぐに立ち去る。息子たちの問題について、不干渉を貫くつもりらしい。そんな母についてスコットも気にすることなく、さっそく手紙を開くが、その内容に頬を引きつらせることになった。
「先輩、どうしたのですか??」
ジュリアが心配して訊ねると、溜め息を吐きながらスコットは答える。
「カーライル家からの密書だ。例の息子がトーナメント抽選会の日にグレイヴンヒース領がやってくるから迎えに来るように、と……」
「また微妙なタイミングですね……」
「どうやら、彼は抽選会も見ておきたいらしい」
抽選会は午後から。カーライル家の息子が領土の境界にやってくる時刻は午前。朝一で向かえば、抽選会には間に合うはずだ。
「うーん……時間的には間に合わないが、もし不測の事態が起こった場合は、ジュリア一人で抽選会に参加してくれないか。幸いなことに擁立者が必要と言うわけではないからな」
「はぁ。問題はありませんが、多くは擁立者が一緒に出るものですよね。少し寂しいような」
「とんでもないトラブルにでも巻き込まれない限り、時間の余裕はあるさ。万が一だよ。もちろん、何か起こっても間に合ってみせるけどね」
スコットは口数の少ないコハルの方を見る。
「なので、シラヌイ殿。ジュリアの守りをお願いします」
「承知しました」
もう一点、スコットにとって幸運だったところは、抽選会は学園の部外者も出入りできることだ。コハルが傍にいれば、百の兵士が襲い掛かってきたとしても、ジュリアを守り切るだろう。ただ、コハルは不安に思うことがあるようだ。
「しかし、スコット様はお一人で大丈夫なのでしょうか? とんでもないトラブルが起こったとき、護衛が一人でもいた方がいいと思いますが……」
「ああ、それなら大丈夫さ。アーサーに同行をお願いするからね」
当然のように答えるスコットだったが、ジュリアとコハルは顔を見合わせる。そして、ジュリアが任せろといった具合に頷いたあと、スコットに確認するのだった。
「あの、アーサー先輩だけで大丈夫ですか??」
「……逃げるくらいなら問題ない」
スコットがそこまで言うなら、とジュリアもコハルも黙り込む。
「心配いらないって。うん、大丈夫だから。……たぶん、大丈夫だから」
そんな二人の表情にスコットは不安を煽られてしまうのだった。




