喜ばれない新品
それから、数日後。体育館のコノスフィアや設備が入れ替えられ、スコットはほっと一息吐いた。
「無事に終わったか……」
見間違えるほど体育館が綺麗になっただけでなく、学園中の劣化した設備も取り換えられている。確かに見栄えが良くなったと言えるだろう。
「先輩ー!」
感動していると、背後からジュリアの声があった。
「何をしているのです?」
スコットが眺めている方向に目を向けるジュリア。彼女はすぐ変化に気付いたようだった。
「あら、コノスフィアが新品になっていますね」
「さすが、すぐに気付くのだな。ほら、話しただろう。委員会が負担してくれたって」
「はいはい。ちょっとした面倒と引き換えに、というやつですね」
その通りなのである。嫌な話を思い出して、少し気持ちが重たくなるが、スコットは早くジュリアに新しいコノスフィアを見せてやりたかった。
「それより、新しいコノスフィアはどうだ? うちの裏にある君のやつと違って、公式プロヴィデンスと同じサイズだぞ?」
「ええ、立派ですね! ここで試合すると思うと胸が高鳴りますわ」
「何ならコノスフィアに入って、調子を確かめてみたらどうだ?」
スコットにしてみれば、新しいコノスフィアに初めて足を踏み入れるのは、彼女であって欲しい、と言う気持ちがあった。きっと、ジュリアも喜ぶと思っていたのだが……。
「結構です」
「えっ??」
思わぬ返答に目を丸くするスコット。
「な、なぜだ? 君はこういうの大好きだろ??」
「ええ。しかし、コノスフィアなんてどれも一緒ですから」
「いやいや、確かにどれも同じ規格だが、新品だぞ!?」
少しは感触が変わるだろうし、誰だって新品は好きなはず。ましてや、ハイ・アリストスの娘であるジュリアなら、飛びつくものだと思っていたのに。そんなスコットの気持ちを踏みにじるように、ジュリアは言うのだった。
「コノスフィアはどれもコウヅキ製です。新品も死ぬほど触れてきたので、何も新鮮味はありませんわ」
「な、なんだって??」
今までコノスフィアがどこのメーカーが作っているのか、気にもしなかったため、驚きを隠せなかった。ほとんど反射的にコノスフィアへ近づくと、柱の部分に「KOUZUKI」の文字が。
「ほ、ほんとうだ……」
驚くスコットに、ジュリアは追撃のごとく衝撃の事実を突きつける。
「さらに言うと、コノスフィアの開発はわたくしも携わっています。何を隠そう設計の基礎案も私によるものです」
「う、ウソを言うな。今のタイプのコノスフィアが世に出回ったのは十年前。君は七歳じゃないか!」
「その通りです。七歳の誕生日、お父様にケージを作って欲しいとお願いして、思い通りのものを形にしていただきました。そしたら、あれよあれよとプロヴィデンスで使用されるようになり、決闘の場として一般的なものになったのです」
「し、信じられない」
いや、このジュリアならばあり得る話だ。
「なので、新品のコノスフィアだからと言って、そこまでテンションは上がらないのです」
「…………」
「スコット先輩??」
最初に使ってほしい。だが、それを言葉にできず、一人わなわなするスコット。それを心配そうに覗き込むジュリアだが、彼の気持ちは分からないようだった。そんな状況の中、スコットの頭の中には最近の苦労がとめどなく流れていく。
委員会との打ち合わせ、設備業者とやり取り、ゴーレムの残骸で散らかるコノスフィアの掃除など。これらを乗り越えられた理由の一つは、ジュリアが新しいコノスフィアを見て喜ぶと思ったからなのに……。
スコットは男として、アリストスとして、情けない姿を見せまいというプライドと、純粋な気持ちがせめぎ合い、結果的に絞り出すような声が出てきた。
「あ、新しいコノスフィア……使ってくれないのか??」
今にも泣きだしそうなスコットを見て、ジュリアは彼の気持ちをある程度理解したようだった。
「わ、分かりました! 新しいコノスフィア、試させていただきます!」
ジュリアは制服のままコノスフィアに入ると、そこでパンチとキックを出し、金網に背を預けたりと、その感触を確認していく。
「素晴らしいですわ、新しいコノスフィア! 楽しいですわ、新しいコノスフィア! 先輩が用意してくれたコノスフィアー!!」
一通り具合を見たジュリアはコノスフィアを出るが、スコットは拗ねたままだった。
「先輩、ジュリアのためにありがとうございます。嬉しいですわ!」
「別に君のためじゃない」
「いいえ、ジュリアは分かっています。先輩は新しいコノスフィアに最初に足を踏み入れるのは、わたくしと決めていたのですね!」
「む、むぐう……」
「本当に先輩ったら優しいですわねー!」
腕に絡みつくジュリアを引き剝がすこともできないスコットは、子ども扱いされているようで、情けなくて仕方がなかった。頬が熱い。早くこの場から去りたかったのだが……。
「イチャついているところ悪いのだが」
「うわわわぁぁぁっ!?」
いつからいたのか、背後にアーサーが立っていた。瞬時にジュリアから離れるスコットに、アーサーは手紙らしきものを差し出す。
「こんなものが君宛に届いていたぞ」
「これは……デュオフィラ選抜戦、トーナメント決定抽選会のお知らせ?」
ついにデュオフィラ選抜戦の開幕が近付いているようだった。




