プロローグ
君はグロリアスを知っているだろうか。その前に、僕が誰かって? そんなことはどうでもいいから、今はグロリアスの話をさせてくれ。いや、グロリアスの代表戦士である、アイアン・ロックスという男の話をさせてほしい。
グロリアスとは、格闘戦とエンターテイメント的な要素を融合させた、ショーの要素が強い興行。今はそう説明されることが多いが、プロヴィデンスが今の形になる前は違った。グロリアスこそが本当の戦いだ、とファンや子どもは信じていたんだ。
もちろん、捻くれた大人たちから
「あんなものはショーでしかない」
「台本があるんだ」
と馬鹿にされ、ファンは苦い想いをしていたのだが……
それを「間違っている」と正面から否定してくれたのが、アイアン・ロックス。
英雄、アイアン・ロックスだ。
アイアンはグロリアスの戦士でも絶大な人気を誇り、とにかくファンを沸かせてくれた。だから、彼はグロリアスの戦士、つまりはグロリアスターをただ続ければよかった。それなのに、ファンにグロリアスを愛する意義を与えるため、アイアンはAFGという、より実戦的なグロリアス団体を立ち上げたんだ。
グロリアスはフィスト・クラフトに比べたら弱い。嘘っぱちだ。そんなファンを苦しめる言葉を否定するため、アイアンはフィスト・クラフトやルクタティオの戦士をAFGのリングへ上げ、次々に倒していった。
「グロリアスはスクエアの中で、ショーばかりやっているが、真剣勝負も強いのではないか」
結果、そんなイメージが、アイアンのおかげで世間に広まったのである。
「グロリアスが最強だと証明します」
そして、アイアンは最強を名乗り出した。グロリアスターでは勝てない、と言われていた戦士たちを、片っ端から倒してしまうのだから、最強を名乗ったって誰も文句は言えなかった。
だから、グロリアスファンからしてみれば、彼はまさに英雄だったのだ。グロリアスが好きと言えば、馬鹿にされることもあったが、アイアンが活躍してくれたおかげで、本物の魅力を知っている、と見られるようになったから。
だけど、幸福な時間はそう長く続かない。
プロヴィデンスこそが真剣勝負の場所。そう言われるようになってしまったのである。プロヴィデンスに挑戦する戦士たちは、これでまでグロリアスファンが見てきたものとは、まるで別物だった。パンチの切れは凄まじく、投げは敵を痛めつける。グロリアスが戦いの場と信じていたファンのアイデンティティを揺るがしてしまうほどのリアルが、そこにあったのだ。
だとしたら、最強を名乗っていたアイアンはどうしたと思う?
もちろん、彼はグロリアスが最強だと証明するため、自分こそが最強と証明するために、プロヴィデンスに挑戦した。グロリアスのファンは信じた。アイアンなら絶対にプロヴィデンスで勝利する。その頂点を極めて、グロリアスが最強だと証明するだろう、と。
さて、ここまでグロリアスファンが愛するアイアン・ロックスについて話させてもらったが、ここからの物語は、彼のものではない。なぜなら、アイアン・ロックスの活躍から十年以上の年月が過ぎ、グロリアスは再びただのショーとして認識されてしまったからだ。
では、誰の物語なのだろうか。
それは、アイアン・ロックスが姿を消してから十年経ち、彼の魂を継ぐ一人のロゼスの物語だ。
この物語の結末を知ったとき、君はグロリアスに対するイメージは大きく変わっていることだろう。僕はそう断言する。
これだけ熱いグロリアスの戦いは、十年以上ファンを続けている僕だって、見たことがなかったのだから。そして、最後には君も心の中で叫んでいるはずだ。
アイアン!ってね。
それでは心して御覧あれ。グロリアスがなぜこれだけ多くの人の心をつかむのか。そして、なぜグロリアスが最強だとファンが胸を張って言えるのか。それを理解したとき、きっと君もグロリアスに魅了されているはずだから。




