契約成立?
扉の向こうは、先程とは違って掃除の行き届いた清潔感ある空間となっていた。そして、奥にはゆったりとしたソファに腰を下ろし、紅茶をたしなむ女性の姿が。
「待っていました。ええ、待っていましたとも」
彼女はカップをローテーブルに置いて立ちあがり、優雅な動作でゴージャスな金髪を指先で耳の裏へ流した。アリストスの令嬢だけあって、上品な顔立ちと振る舞いだが、どこか高飛車な視線は噂通り傲慢なものが窺える。
そんな令嬢の立ち振る舞いに二人が言葉を失っていると、音もなくコハルが部屋の隅に移動したため、スコットたちは部屋の中に足を踏み入れることにした。
「待っていた……とは、どういうことだ。ジュリア嬢」
まるで、スコットたちがここにやってくると知っていたかのような言葉に、警戒しながらそれを指摘すると、彼女は口元を手で押さえた後、仕切りなおすように手の平を左右に振って何かを誤魔化した。
「いえいえ。わたくし、最近占いに凝っていまして。今日は素晴らしい来客があると出ていたものですから。つい、喜びを口に出してしまっただけです」
「占い、ですか」
昨今では、占いという不確かなものを否定する方が一般的になりつつある。それをアリストスという社会を作る立場にある人間が、占いに興じるなんて。やはり、コハルが言う通り変わり者なのだろう、スコットは疑いつつも納得した。
「それで、どういったご用件でしょうか。どうぞ座ってください」
令嬢……ジュリアに促され、スコットたちは彼女のそばに置かれた椅子に腰を下ろす。
「私はスコット・ヒスクリフ。ヒスクリフ学園の生徒会長をやっている。こっちはアーサー。剣士の家として知られるグリムウッドの長男だ」
「ええ、ええ。存じてますとも。特にスコット先輩に関しては、いつお会いできるか、と楽しみにしていましたので」
「そ、そうなのか」
コウヅキ家の令嬢から熱のある視線を送られ、動揺するスコット。彼は美男子であるため、没落寸前のアリストスとは言え、女子生徒たちから熱い視線を送られることも少なくない。しかし、目の前にいるジュリアの視線は、彼女たちとは一味違ったもののように感じたのである。
「知ってくれているなら、話は早いかもしれない。デュオフィラ選抜戦のことも詳しいということで間違いないかな」
「もちろんです! アーデン・グロリア王国にある学園によるトーナメント方式の格闘技大会。六十を超える学園の中で頂点に昇りつめれば、国の象徴である勇者、デュオフィラとして永遠に語り継がれる名誉ある戦いです。つまり、それは最強の座を手に入れられるということ。まさかに、クラトスのチャンピオンベルトを巻くと同等の価値ある大会と言えるでしょう!」
「……う、うむ。概ねその通りだ」
後半に関しては聞きなれないワードもあったが、変わり者の言葉をひとつひとつ確認していたら、進む話も進まなくなってしまう。スコットは本題に入ることにした。
「実はそのデュオフィラ選抜戦について相談がある」
「なんでしょう?? 何でもおっしゃってください、スコット先輩!」
両手を組んで、今か今かとスコットの言葉を待つジュリア。どうやら、コウヅキ家の令嬢がデュオフィラ選抜戦に興味を持っている、という噂は本当らしい。とは言え、いまだに信じられないスコットは慎重に言葉を選びながら、彼女に想いを伝える。
「貴方がコウヅキ家の令嬢であることは、もちろん分かっている。そのうえでお願いしたい。デュオフィラ選抜戦に出場する、ロゼス候補として僕と契約してもらえないか??」
「はい、もちろんです!」
「いや、分かっている。選別戦は厳しい戦いの連続。相手も各学園から選び抜かれた優秀なロゼス候補だ。富も名誉も既に備えているコウヅキ家の令嬢が……ん? いま何と?」
「もちろんです、と言ったのです、スコット先輩!」
まさか、これほどスムーズに話が進むとは、と目を丸くするスコットとアーサーだったが、ジュリアは立ち上がると、喜びを表現するごとく優雅な舞いのように体を回転させた。
「私にお任せください。ずっと参加を望んでいたのですから、どんなに強いロゼス候補も、私が片っ端からぶっ倒して見せます!」
ぶっ倒す、とはアリストスの令嬢とは思えぬ発言だが、彼女は重ねてこんなことも言った。
「嗚呼! 憧れのデュオフィラの座! 前世ではあんなことになってしまいましたが、この人生では必ず夢を叶えて見せますわ!!」
思った以上に話がスムーズに進み、スコットは何か大きな罠があるのでは、と逆に不安が膨らんでしまうのだった。




