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幽霊屋敷の貴族令嬢

 スコットは、今にも朽ちそうな扉のノブにノックしようと、震えた拳を突き出す。が、実際に叩く勇気はなかったらしく、一度拳を離してから背後に控えるアーサーを見た。



「アーサー。君、幽霊は斬れるか?」


「試したことはない。が、グリムウッドの剣は最強だと断言しておこう」



 そう言って、腰に下げた剣を掲げて見せるアーサー。彼が自信満々だと確信すると、スコットは素早くアーサーの背後に回った。



「では、君が先に行ってくれ。と言うか、君は僕の護衛なんだから、それが当たり前じゃないか」


「……ふむ。それは確かに」



 これで進める、とスコットは安心するが、アーサーは動こうとしない。



「アーサー、びびっているのか? 君は剣士だろう。しかも、最強の剣士を輩出するグリムウッド家の長男だ」


「……スコット、君は実にアリストスらしい性格をしているな。人にやらせて自分はゆっくり紅茶をすする。そういうやつなんだ。親友として悲しいよ……」


「ならば、君は実に剣士らしい性格をしているな。友のために率先して幽霊と戦ってくれるのだから。親友として誇らしいよ」



 そこまで言われては引き下がれない。アーサーはごくりと唾を飲んで、覚悟を決めると、拳をゆっくりと握ってから、幽霊屋敷の扉を叩く。


 一秒、二秒、三秒……。いつまで経っても反応はなかった。黙っていた二人は目を合わせると、微笑みを交わす。



「ははっ、やはり幽霊なんて存在しなかったようだな、スコット」


「当然さ。魔王だって滅びたこの時代、人間を脅かす存在などいやしないよ」


「よかったよかった。では帰ろう」


「そうだな。いや、今日はありがとう。ヒスクリフの屋敷に寄って紅茶でも飲んで行ってくれ」


「それは楽しみだ」



 目的を忘れ、屋敷に背を向けようとした二人だったが……。



「どなた……?」


 ギギッと扉が開くと同時に、か細い女の声が。


「ひ、ひぃ!!」



 二人は悲鳴を何とか飲み込んだものの、わずかに開いた扉の間から覗く瞳に戦慄する。ダメだ、やはり逃げ出そう、とスコットが踵を返しかけたとき、扉が勢いよく開いた。



「これはこれは、お客様でしょうか」


「め、メイド……??」



 スコットは見たものをそのまま口にする。そう、おんぼろの屋敷から出てきたのは、幽霊ではなく、黒髪に黒い瞳のクラシカルなメイドであった。



「はい。コウヅキ家の使用人、コハル・シラヌイと申します」



 深々と頭を下げるメイド……コハルは幽霊どころか、いかにもアリストスの使用人といった態度である。それよりも、彼女は今何と言っただろうか。スコットは前のめりに確認する。



「コウヅキ家の使用人だと!? では、このおんぼろ……ではなく、趣きある屋敷はコウヅキ家の令嬢が住まう場所で間違いないか??」


「はい、間違いありませんが……。おや、お二人が着ているのはヒスクリフ学園の制服ではないですか。と、言うことはお嬢様のご学友でしょうか」


「む……そんなところ、だ」



 実際は初対面なのだから、友人を名乗るのは心苦しいが、話をややこしくしたくはない。スコットは流れに身を委ねることにした。



「なるほど。お嬢様はあの性格ですから、ご友人はできないと確信していましたが、こんな立派な方々が。正直、驚きです」



 コハルは表情に乏しく、自分の主に対して失礼な考えを述べるが、そのせいでスコットの不安はより深刻なものになってしまった。



「では、ご案内します。こちらに」



 コハルはメイド衣装を翻しながら、屋敷の奥へ進んで行く。ここまできて、逃げ出すわけにもいかないだろう。スコットとアーサーは頷き合い、コハルに従った。


 屋敷の中も薄暗く、それこそ幽霊が出てきそうである。スコットはアーサーの後ろに隠れながら、恐怖を紛らわすためにも、コハルの背中に質問を投げかけた。



「あの、シラヌイ殿。コウヅキ嬢はデュオフィラ選抜戦に興味を持っている、と聞いたが、間違いないか?」


「ええ、その通りです。お嬢様は子どものころからデュオフィラ選抜戦に出ることを夢見ていたとか。私が使用人としてコウヅキ家で働くようになってからも、ロゼスになるという夢を四六時中語っていたほどです」



 それを聞いても、スコットの不安は消えない。アリストスはアリストスだ。どうせ、ロゼスになることを夢見るだけで、贅沢三昧の毎日を送っていたのだろう。



「しかし、なぜアリストスの令嬢がデュオフィラを目指しているのだろうか。その辺りについて、シラヌイ殿は何かご存じか?」


「何となく聞いてはおります。”ちゃんぴおん”になることが、前世からの夢だったと、いつもうわごとのように申しております」


「ちゃんぴおん? 前世? なんのことだ??」


「さぁ。お嬢様は少し変わったところがありますので、意味不明なことを口走るのは日常茶飯事。もはや気にするだけ無駄なことですから」



 言いたい放題ではないか。このメイド、立ち振る舞いは美しいが、使用人としてちゃんと働けているのだろうか、と心配になってくる。



「こちらでお嬢様がお待ちです。ジュリアお嬢様、ご友人がいらっしゃいました」



 ガチャリ、とコハルが扉を開く。その途中、コウヅキ家の令嬢の声が聞こえてきた。



「ふっふっふっ、そろそろ来る頃だと思っていましたわ」



 どうやら、コウヅキ家の令嬢は、スコットとアーサーが訪ねてくると、想定していたようだった。

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