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噂の貴族令嬢に会いに行こう!

 ここはアーデン・グロリア王国のグレイヴンヒース領にあるヒスクリフ学園。魔王が滅び、女神の祝福に溢れた世界「グロワール」の中でも伝統的な学園の一つである。その生徒会室で金髪碧眼の美少年、スコット・ヒスクリフは溜め息を吐いた。



「ダメだ。このままでは、ヒスクリフ学園は終わる!」



 頭を抱え、質のいい長机に突っ伏すスコットに、明るい栗色の髪を揺らしながら振り返ったのは、アーサー・グリムウッド。スコットに勝るとも劣らない美少年である。



「急にどうしたんだ?」


「……誰もデュオフィラに立候補してくれないんだ。僕って、こんなに人徳がなかったんだな……」


「まだ探していたのか? 君の口からデュオフィラの話が少しも出ないから、諦めたと思ってたよ」



 爽やかな笑みを浮かべるアーサーだが、その言われ様はスコットからしてみると親友にまで見放されたような気分である。



「そんなわけがあるか。今回のデュオフィラ選抜戦は我が学園で行われるんだから、ヒスクリフの名を継ぐ僕が参加しなくては。それに、何よりも僕は父上から受け継いだ学園を守らなければならない。必ずデュオフィラを擁立し、選抜戦に勝ちあがって、ヒスクリフ学園を国王に認めてもらうんだ」



 拳を握り、決意を熱く語るスコットだが、アーサーは諦めを促すような(ぬる)い笑顔を見せる。



「しかし、王に最強の戦士を献上するために行われる、学園トーナメントのデュオフィラ選抜戦も、立候補する生徒がいなければ参加しようもない。聞いたところによると、ローレル(男側)の候補者は決まってしまったのだろう?」


「ああ。先週末がエントリー最終日だったからな。だが、ロゼス(女側)はまだ時間がある。それまでに候補者を探して、何としてもエントリーしたいところだが……」



 的確な女子生徒が見つからないらしい。デュオフィラ選抜戦など興味のないアーサーだが、さすがに妙だと思ったようだ。なぜなら、このヒスクリフ学園には、ロゼスを目指すほどの実力を持つ女子生徒だって何名かいるはずだからだ。



「いくら君に人徳がないとは言え、一人くらい立候補してもおかしくないだろう。選抜戦に勝ち上がれば、それなりの富と名誉が手に入るんだから」


「僕だってそう思っていたさ。でも、それがおかしいんだ。たくさんの女子生徒に声をかけたが、まるで誰かに圧力をかけられたように、苦い顔をして断るんだから」


「ふむ、アルバートの謀略か? だとしたら、余計にまずいじゃないか。既に決まっているローレル候補も彼が擁立した生徒だし、聞いたところによると、ロゼスの準備も進めているとか……」



 アルバート・ウェストブルック。彼こそがヒスクリフ学園の王とも言える存在だ。生徒たちの意思は、アルバートによって決まると言ってもおかしくないほど、学園における彼の権力は圧倒的だ。


 なぜ、生徒会長であり、学園設立者であるヒスクリフ家の一人息子であるスコットがその地位にいないのか。それは、彼の父が亡くなり、当主が若いスコットになったからには、ヒスクリフ家はすぐに没落すると誰もが考えているからである。


 それに比べてウェストブルック家は、グレイヴンヒース領の中でも抜きん出たアリストス(貴族)だ。多くの生徒がアルバートに従うのは自然の流れと言えるだろう。



「このままでは、学園はウェストブルック家のものになるな」



 アーサーの指摘にスコットの表情はますます暗くなる。



「そうだよ。デュオフィラを輩出したアリストスとなれば、その可能性は限りなく高い。……でも、ウェストブルック家はグレイヴンヒース領の豊かな自然の価値を分かっていない。ここが彼らのものになったら、父上が守ってきたこの土地は工場や商館ばかりになってしまうんだ」


「確かにウェストブルック の家は、グレイヴンヒース領の都市化を掲げていたな。それを回避するためにも、君が擁立したデュオフィラが勝ち抜き、国にヒスクリフ家は学園と領土を守るために相応しいアリストスだと認めてもらう必要があるのだろう? スコットの気持ちは、もちろん分かっているが……」



 この状況、逆転するには難易度が高すぎる。アーサーは分かり切った残酷な事実を、それ以上は口にしなかった。重たい空気が生徒会室に漂うが、スコットが呟くように言った。



「……アーサー。君は、先月このヒスクリフ学園に転校してきた、コウヅキ家の令嬢の話は聞いたことがあるか?」


「コウヅキ家?? 確かお隣のストームフォール領で有名なアリストスだったはずだが?」


「その通りだ。そのコウヅキ家の一人娘が我が学園に転校してきたのだよ」



 アーサーは表情を曇らせる。



「コウヅキ家と言えば、金にものを言わせて従わせるアリストスの典型というイメージだな。人の意志も大金で叩いて曲げてしまう。そんな悪い噂ばかりが入ってくるが……まさか、スコット。その娘をロゼスに??」



 スコットは痛みを耐えるように目を細めながら頷く。



「聞いた話によると、デュオフィラ選抜戦に興味があるらしい」


「アリストスの娘が?? そんな連中にとっては無縁の世界じゃないか!」



 デュオフィラ選抜戦に参加する生徒たちは、ほとんど平民の出だ。なぜなら、選抜戦で勝ち抜けば、その都度報酬が入るし、もし優勝してデュオフィラとなれば、国を象徴する勇者として、アリストスと同等の地位を与えられる。


 つまり、人生一発逆転を賭けて参加するもの。既に富も地位も得ている貴族の娘が参加するとは思えないのだ。



「僕も考えにくいことだとは思う。ただ、実力ある女子生徒がすべて断ったとなると、アルバート・ウェストブルックの息がかかっていると考えるのが自然だ。逆にアルバートの息がかかっていない生徒と言えば……」


「ウェストブルック家よりも強い権力を持っているコウヅキ家の令嬢……ということか」



 スコットは頷くが、アーサーとしては同意しかねる。



「仮にコウヅキ家の令嬢がロゼスを目指してるとしよう。だが、どうせアリストス(貴族)の道楽だ。俺は役に立つとは思えないな。下手をしたら、コウヅキ家こそグレイヴンヒース領の利権を狙っているかもしれないぞ。彼らのストームフォール領は都市化が進んでいるからね。君の大切な、この土地の自然も、金が広がっているようにしか見えないのだろう」


「分かっている。分かっているよ! だが……今の僕に用意できるカードはそれだけなんだ。いや、用意できる可能性があるカードと言い直さなければならないが」



 それだけ切羽詰まった状況なのである。スコットは涙目で親友に頼み込む。



「頼む、アーサー! これから、コウヅキの令嬢が住む屋敷に……一緒に来てくれないか!?」


「えええ……。うーむ、コウヅキ家の令嬢は美女か? ならば行ってもいいが」


「知らん。だが、もしコウヅキ家がグレイヴンヒース領を狙っているとしたら、僕がコウヅキの屋敷を訪れるなんて、下手したら交渉材料として人質にされかねない。強い護衛が必要なんだよ!」


「スコット……僕のことを強い護衛だと言えるのか?」


「言える。僕は君の親友だ。どれだけ優れた剣士なのか、知っているつもりだよ」


「……やれやれ。本当ならば美女のために剣を振りたいところだが、親友の頼みとなれば仕方ないか」



 心底嫌そうな顔をするアーサーだが、スコットとは砂場で遊んでいた頃からの仲である。それに、スコットが背負う使命を想うと、願いを聞かずにいられなかった。


 さっそく、二人でコウヅキの令嬢が住む屋敷へ向かうのだったが……。



「なぁ、スコット。ここが本当にコウヅキの令嬢が住む屋敷なのか?」


「……そのはずだ。名簿に記載された通りの場所のはずだが」



 しかし、二人の目の前には、とても有名なアリストスの令嬢が住む屋敷とは思えない。スコットは屋敷を見上げて、自然と呟いていた。


「これじゃあ、まるで……幽霊屋敷じゃないか」


 そう、二人の前にある屋敷は……人が住んでいるとは思えないほど、おんぼろだったのだ。

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