ティータイムでございます
「さ、さて……」
スコットは照れくさいのか、素早くジュリアから離れると、窓の外を見た。
「そうと決まったら、僕も武器を用意しなければならない」
いつアルバートの手先が現れるか、分かったものではない。すぐにでも防衛対策が必要だった。
「僕は自分の教室にある魔法の杖を取ってくる。だから、君はここで待っていてくれ」
「あら、わたくしを一人にして心配ではありませんの?」
まるで、恋人のようなセリフを返され、スコットは余計にジュリアの顔を見れなくなってしまった。この男、顔はよく家柄も悪くないが、いかんせん真面目であり、経験が少ないのである。
「安心してくれ。僕が出たらこの部屋に”外からは入れないが中から出れるような強固な封印魔法”をかけておく。僕以外の人間は入ってこれないから、君は少し休んでいると良い」
「分かりました。先輩がそこまで仰るのなら、ジュリアは安心して休んでいます」
「そうしてくれ」
会話の流れでついジュリアの顔を見てしまった。すると、彼女は言葉の通り安心しきった表情でこちらを見ているではないか。なんだか赤面してしまうスコットだが、咳払いで誤魔化した。
「では、行ってくるよ」
「はい」
スコットは生徒会室を出て、扉に向かって「クラウスラ・エテルナ」と呪文を唱える。これで、かなりの術者でもなければ開けられない堅牢な空間の出来上がりだ。しかし、それでもアルバートがどんな策でジュリアを狙うか分からない。スコットは大急ぎで自分の教室に戻った。
「ああ、スコット。戻ったか」
教室の前にアーサーが立っていた。
「プロヴィデンスの後、ものすごい形相でジュリア嬢を連れて行ってしまったから……探したぞ」
「すまない。生徒会室で彼女にデュオフィラ選抜戦の恐ろしさを説明していた」
「ほう。それで、了承は得たのか」
スコットが頷くと、アーサーは爽やかな笑みを浮かべた。
「となると、擁立者と候補者を守る護衛が必要となるな」
「もちろんだ。アーサー、改めてお願いできるか?」
「……御身が望むのであれば、この剣の輝きをお見せしよう」
アーサーは腰に下ろしていた剣を軽く掲げて見せる。どうやら、状況を予測して、彼も武器を確保していたようだ。なんて心強い親友なのだ……。心強くはあるのだが……。
「いや、時間がない。僕も自分の武器を取りに来たのだ」
スコットは時間が惜しい、と自分の席の引き出しから、細長い木箱を取り出す。そこには、彼の魔法触媒と言える杖が入っている。杖と言っても、人の手首から肘まで程度の長さで、大袈裟なものではない。ただ、亡き父から受け継いだこの杖は、スコットの力を数倍に引っ張り上げてくれるものだった。
「しかし、アーサー。君はジュリア嬢の実力を見抜いていた節があったな。あれはなぜだ?」
生徒会室に戻りながら、スコットはアーサーに質問する。プロヴィデンスの直前、必死にジュリアを止めようとするスコットだったが、アーサーは違った。むしろ、積極的に彼女をコノスフィアへ向かわせようとしているように思えたのだ。
「それは、彼女の身のこなしだ。君がジュリア嬢を止めようとしたとき、彼女は淀みない動きで回避してみせたからな。かなりの心得がある、と感じたのさ」
「さすがはグリムウッド家の長男というわけか。でも、気付いていたのなら早く行ってほしかったぞ。そうすれば、プロヴィデンスをあんな気持ちで見ることもなかった」
「すまなかった。でも、剣士とデュオフィラでは技術に根本的な違いがある。俺の勘違いのせいで、結果的に変な期待を持たすようなことは避けたかったのだ」
なるほど、と頷くスコットだが、その表情を見たアーサーは何か思うところがあるようだった。
「ふっ、スコット……えらく真剣じゃないか。ジュリア嬢のためなら、命を張るといったところか?」
「か、彼女のためではない。ヒスクリフ家のため、グレイヴンヒース領のためだ」
「そうかそうか。あまりに真剣だったから、まさか美しく戦う彼女を見て惚れてしまったのでは、と邪推してしまったぞ」
「からかうな! 僕たちはまだ出会ったばかりで……!!」
「時間をかければ分からない、ということか」
「だから、違うって!!」
そんな会話を続けている間に、生徒会室に戻ってきた。ドアノブに手をかける前に「アペリオ・フォリス」と呪文を唱えるスコットだったが……。
「ん? おかしい……」
「どうした?」
「彼女を待たせる間、賊に襲われないよう封印の魔法をかけたのだ。それが、僕が解除する前に消えている」
説明しながら、スコットの脳裏に最悪の予想が過る。それはアーサーも同じだったらしく、二人は緊張感を高めながら頷き、勢いよくドアを開けた。
「ジュリア、大丈夫か!? ……って、あれ??」
部屋の中には誰もいない。スコットの顔が見る見るうちに青ざめて行った。
「ま、まさか拉致されたのか??」
「証拠が残らないよう、離れたところで消すつもりか。卑怯な!!」
「ど、どうする?? アルバートをひっ捕らえるか??」
「落ち着け、スコット。それでは何の証拠もなく、難癖をつけるのと同じだ!!」
「くそ……どうすれば!!」
焦る二人だったが、その背後に迫る影が。
「誰だ!?」
素早く振り返るアーサー。だが、そこには冴えない調子の下級生が。
「あ、あの……生徒会長ですよね??」
二人の剣幕に怯えながら、その生徒は言う。
「先程、コウヅキのご令嬢が、ここに会長が戻ったら伝えるように、と」
「な、彼女は無事だったのか?? それで、何と!?」
きっと、何かがあったのだ。思わず生徒の胸倉をつかんで、その伝言を聞こうとするが、彼は信じられないことを言うのだった。
「その、コハルが入れるお茶を飲みたくなったから今日は帰る、と……」
「……はぁ?」
スコットの頭の中で、ソファに腰を下ろして美しく微笑むジュリアのイメージが、音を立てて崩れて行った。
「あ、あの女……人の話を聞いていたのかぁぁぁ!?」
怒鳴るスコットに、下級生は身を縮まらせるのであった。
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