選抜戦の裏側は
「最高! 最高ですわ!!」
歓声を浴びながら、何度も回転した後、四方へお辞儀を繰り返す。それは、まるでダンスパフォーマンスを終えて、観客に礼をするようだった。しかし、スコットはアルバートの冷たい視線に気付き、嫌な予感を覚える。デイジーが運ばれるようにして、アルバートを先頭にして体育館から去るのを見届けると、スコットはコノスフィアの中に入った。
「ジュリア嬢、くるんだ!!」
「はい??」
いつまでも歓声を浴びて得意気にしているジュリアの腕を掴むと、スコットは彼女を引っ張るようにして体育館を出るのだった。
「あの、スコット先輩? 情熱的に引っ張られることは乙女として割りと嬉しいことですが、もう少し称賛される時間を楽しみたかったのですが……」
からかうようなジュリアだが、スコットは無言で彼女の腕を掴んだまま、ひたすら歩き続けるのだった。
どこへ向かうのか、ジュリアは大人しく手を引かれていると、生徒会室の扉を閉めて、やっとスコットの足が止める。真っ直ぐと視線を向けられ、ジュリアは怒らせてしまったのだろうか、と警戒したのだったが……。
「ジュリア嬢、すまなかった」
急に深々と頭を下げられ、ジュリアは丸々とした目を瞬かせる。顔を上げたスコットの目は、やはり真剣で、さらには後ろめたさに沈むようもでもあった。
「えっと……それは、どういう意味でしょうか?」
確認するジュリアに、ソファへ座るよう促すスコット。だが、自分自身は立ったまま説明するのだった。
「君がデイジーに圧倒的な勝利を収めたことで……いや、収めてしまったことで、アルバートは僕たちを敵として認識してしまった。君にしてみれば、本来なら向けられることのなかった敵意だ。それが、僕のロゼスとして認識されてしまったことで……かなり危険な状況に巻き込まれたと言える」
「危険な状況、ですか」
スコットは頷く。
「デュオフィラ選抜戦は、コノスフィアの中で行われる神聖かつ華やかな儀式だ。しかし、それは飽くまで一つの側面でしかない。人々の目に触れられぬ裏側では、嫉妬と欲に塗れた汚い世界が広がっている」
語りたくはない、と言った調子に溜め息を吐くスコットだったが、それは義務と心得ているようだった。
「デュオフィラに選ばれれば国の象徴と言える存在となり、地位も名誉も与えられ、一生生活に困ることはない。だから、どんな卑怯な手を使ってでも勝ち上がろうとする候補者たちも多くないのだ」
しかも、擁立者は資金潤沢なアリストスである。今よりも大きな地位を得るため、金を継ぎ込んで恐ろしい策略を用意することも珍しくないのである。
「プロヴィデンスの前にある嫌がらせや妨害行為ならば可愛いものだ。暗殺を企てることだって、当然と言える。普通ならば、擁立者がその権力を発揮して、自らとデュオフィラの安全を約束し、場合によっては先手を取ることもあるが……」
ヒスクリフ家は没落寸前のアリストス。そんな力はない。
「つまり、君はデュオフィラ選抜戦に挑むロゼスの中でも、最も不利となる擁立者のもとで戦うことになってしまった。命の危険に晒され、負ける確率が高い勝負に挑まされる。そんな戦いに巻き込んでしまったことを……心から申し訳ないと思う」
辞退、という選択肢がないわけではない。しかし、闇討ちから逃れるため、辞退をカモフラージュする候補者もいるため、アルバートは容赦することはないだろう。そんな危険に引っ張りこんだことを後悔するようなスコットだが、ゆっくりと顔を上げたところで、ジュリアは微笑みかけた。
「……取り敢えず、外してくださいますか? 一人では難しいので」
そう言って、手を差し出した。赤いフィストガードはテーピングで固定され、確かに一人では外しにくい。スコットは引き出しからハサミを取り出し、丁寧にそれを外し始めた。
「そんなこと、覚悟の上でですわ」
スコットに手を預けながら、ジュリアは言った。
「わたくしは、一度命を落とした身です。それが何かの奇跡によってこの世界に舞い降りた。それにどんな意味があるのか自分でも分かりません。しかし、そうなった以上、やるべきことは一つ。零れ落ちた夢をもう一度拾いに行く。それだけなのです」
彼女の言っている意味を、スコットは半分以上も理解できなかったが、目を合わせれば、その想いを感じたようだった。
「任せて……いいのか?」
「もちろんです。このジュリア・コウヅキ。再び命が尽きるまで、この魂を燃やし、先輩の夢に一輪の薔薇を添えてみせましょう。ですから……」
スコットがジュリアの手に巻かれたフィストガードとテーピングを剝がしたところで、彼女は言うのだった。
「もう一度、誓いのキスをお願いします」
「……分かった。君がデュオフィラとして咲き誇る瞬間まで、僕も命を賭してその身を守って見せる。約束だ」
つい先程まで、人を殴りつけていたとは思えないほど白く美しい手の甲に、スコットは唇を落とすのだった。
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