ラブ・インストラクション
第一章:国家が決めた恋の相手
2031年、結婚出産義務法のもと、22歳以上の未婚者には国家によって配偶者が割り当てられる社会。
性交未履行には期限があり、一定日数を超えると“性行為指導官”による立ち合い/レクチャーが義務化される。
LOVEYOUの**サブリーダー・楓(かえで/24)**にも、その日が来た。
> 【通知】あなたの割り当てパートナーは「一ノ瀬 遼」
年齢:20歳/大学生(社会福祉学科)
「……年下? しかも大学生って……」
しっかり者で、恋愛を“避けてきた”楓にとって、それは最も扱いづらい相手だった。
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第二章:イケメンで素直、でも子ども
遼は人懐っこく、無邪気に笑う青年だった。
「えっ、楓さん? 本物? めっちゃ嬉しい!子どもの頃から見てました!」
「……あのね、これは仕事じゃないし、“夢”でもないからね」
彼の好意を“ファンの感情”として受け取る楓。
けれど遼は、本気だった。
「俺、ちゃんとパートナーになりたい。義務だからじゃなく、俺自身が」
だが楓は、過去に芸能活動と恋愛を秤にかけて失った経験から、一歩も進めなかった。
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第三章:警告と“レクチャー指導”の通達
> 【警告】性交履行期限:残り2日
【補足】履行未遂につき、指導官によるサポート介入が決定しました。
「レクチャー……って、どういうこと?」
翌日、自宅に現れたのは国家性教育局の女性指導官・綾部指導官。
「交わるとは、命を繋ぐだけではありません。心の準備、相互理解が必要です。
楓さんは、自分を“役割”として切り離しすぎているのではありませんか?」
彼女の言葉は、楓の心の鎧を静かに突き崩した。
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第四章:指導の夜、触れ合いの予感
指導官はその夜、静かに2人の間に座り、会話を促す。
「手をつなぐことさえ、“仕事”にしてきたんです。私には……“好き”って感情が、わからない」
楓の震える声に、遼が言う。
「じゃあ……“好き”ってどうなるのか、今から一緒に見つけていこうよ。俺、ずっと隣にいるから」
“初めて”を経験したのは、期限の前夜だった。
静かに重なった体温は、“義務”ではなく、“希望”だった。
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第五章:命が宿り、彼女は変わる
妊娠が確認され、楓は一時的にアイドル活動を休止。
LOVEYOUの中で、誰よりも支えてきた仲間たちが背中を押してくれた。
「あなたが背負ってきたもの、今度はあたしたちが背負うよ」
遼は変わらずそばにいた。
テキストもレポートも赤ちゃんグッズと一緒に持ち歩く彼に、
楓は少しずつ、年下の彼に“守られている”ことを受け入れていった。
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最終章:制度の外に、未来を描く
第二子出産後、国家から通知が届いた。
> 【通知】義務完了。婚姻継続は任意となります。
ある日、楓は指導官・綾部と再会する。
「あなた、本当によく頑張りましたね。心まで義務にしなかったから、救われたのです」
帰宅後、遼が彼女にそっとリングを差し出した。
「今度は制度じゃなくて、俺から。楓さん、結婚してください。俺と家族になってください」
楓は、初めて自然な涙を流した。
「……うん。“サブリーダー”じゃない、ただの私で、生きていいんだね」
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―完―