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第7話 怪人、反撃する6

 すり鉢状になった採掘場の中央、一面の黒晶花が咲き乱れる中心に、外から隠されるように巨大な黒晶石の塊が鎮座していた。

 薄暗くなった空へと伸びたその巨大な黒晶石からは、細い枝と根のような黒晶石が伸び、それはあたかも枯れた黒い大樹のようだった。

 更に黒晶石の大樹の上には、蜃気楼みたいにぼやけた暗い風景と大きなモンスターの姿が映し出されている。


「あれは……?」

「次元の揺らぎね。次元融解現象の前兆だとされているわ」


 浮かない顔をして言うナナミちゃん。

 次元融解現象とはダンジョンと繋がる次元の裂け目ができる現象のこと。つまり、ここと新たな階層が繋がりそうになっているのだ。


「さっき言ってた地下組織が開門を沢山したから!」

「いや、余が出ていく前はあんな揺らぎはなかった。そもそも、地下組織が開門したのは採掘場ができる前の話だ。余が居ぬ僅かな間に開門があったとしても、そう密ですることはあるまい」

「……どう思いますか、専門家の宵月さん」


 原因がわからない私達は、同じ開門能力者であるミコトちゃんに判断を委ねる。


「頻繁に開門するとよく起こる奴なのです! 開門の悪影響で間違いないのです! きっちり閉めて放置しておけば直るのです!」


 バタバタと手を動かしながら、ミコトちゃんは即答した。

 やっぱり開門の悪影響らしい。開門は次元の裂け目を自力で作っているようなものだもんね。

 便利さは十分思い知ったけど、それでも容易に頼れないってことも再確認してしまう。

 こんな切迫した状況になっていても、リオちゃんとナナミちゃんが拠点での再開門を選択肢に入れなかったわけだ。


「やっぱり開門の影響で間違いないのね。クロノシアが居ない間に地下組織がやって来て、何かを運び込んだのかしら」

「その可能性は低いのです。その場合もっとぱっくりと開くのです。開いた後に下手っぴな閉じ方をして、綻びが消しきれて居なかった所が、何らかの悪影響を受けて再活性しているのです」


 私ならもっときっちり閉めるのです。と、たわわな胸を張るミコトちゃん。

 下手な縫い方をしてあったから、引っ張ったらほつれちゃったみたいな感じなんだろうか。


「原因となった悪影響は……多分、あの黒晶石だよね」


 私は揺らぎの真下に鎮座する巨大黒晶石に視線を向ける。


「あれは私と同じラブリナの欠片です、ほぼ間違いないでしょう。どうやら、地下から伸びて周囲に干渉を行っているようですね」


 セレナちゃんがラブリナさんに切り替わり、私の推察に太鼓判を押してくれる。


「丁度この地下には研究施設の一部が伸びてるにゃ。社長が持ってた魔王の欠片本体があるなら間違いなくそこにゃ」

「じゃあ、まずはラブリナさんの欠片を止めないといけないね。その後、ミコトちゃんがあの揺らぎを閉めなおせば大丈夫なんだよね?」

「そうなのです! ただし、完全に塞がるまではここでの開門は禁止なのです!」


 はいっと手をあげて言うミコトちゃん。


「次元融解現象が誘発されたら大事ですからね。見る限り、相当深い階層のようですし」


 セレナちゃんが言う通り、蜃気楼のように揺らいだ風景には大きくて強そうなモンスターの姿もある。

 あれが見掛け倒しじゃなければ、かなりの高レベルなはず。もし繋がってしまえば、紅葉林に場違いモンスターの群れがなだれ込んでしまう。


「だが、余達のすべきことは何も変わらぬ。臣下を助け、魔王を退けるだけであろう」

『ほォ、魔王の黒晶石を破壊するつもりか。そんなことは許せんなァ』


 臨戦態勢を取る私達の前、いつの間にか黒晶石を守るように社長が立っていた。

 しかも、社長からは黒いオーラが立ち昇っている。つまり……モンスターになっている。


「しゃ、社長さん、人間辞めちゃってるのぉ!?」

『ハーッハッハッハ! そうだとも、魔王の欠片に触れ、私は世界の真実に目覚めたのだァ!!』

「嬉々としてろくでもないことを言うわね。人間を辞めた葛藤とかはないのかしら」

『人間などと言う矮小な生物に未練などないッ! 白鴎院セレナ! 黒晶石の欠片に触れたお前が私を見下していたのも無理はない話だ! 今ならわかる』

「あの……見下してなんていませんけど。基本的に無関心なので、見下すなんて労力のかかることしませんよ?」


 苦笑いしながらセレナちゃんが言う。ご辛辣!


『フゥーッ! 黒晶石の力を手に入れていなければ怒りで我を失う所だった。全能たる黒晶石の力に感謝するがいい』


 怒りを抑えるように、眉間に指を当ててやれやれと首を横に振る社長。


「私思うんにゃけど、こんなの相手してても疲れるだけだにゃ。さっさとブチ殺して先急ぐにゃ」


 そんな姿を見て、ミレイが情け容赦ない提案をする。


「う、うん。容赦ないけど、同感だね」

『ほォ? この私に勝てると思っているのか』


 社長から立ち昇る黒いオーラが勢いを増し、社長の下半身を黒晶石が侵食していく。

 そして、上半身スーツ姿の社長、下半身黒晶石の馬のようなケンタウロス的モンスターへと変化した。


『我が力……』

「おっちねにゃ!」


 社長が動き出すよりも早く、ミレイが風の刃を発射。

 いとも容易く風の刃が社長の上半身と下半身を両断し、社長がサラサラと灰になって消えていった。


「あれで終わりとは拍子抜けなのです」

「う、うん。そうだね……」


 悲しい、なんか凄く弱いのが悲しい。

 なんて呆気ない末路。人間辞めたのにこの程度なんだって、見ていて痛々しくなる。


「同情なんて要らないわよ。むしろ、人に害成す前に止めてやったんだって胸を張りなさい」


 完全に灰になって風に溶けていく黒晶石の核を見下ろしながら、ナナミちゃんがふんと小さく鼻を鳴らして前を向く。


 そこには


『ほォ、魔王の黒晶石を破壊するつもりか。そんなことは許せんなァ』


 なんとまた社長が居た。しかも、台詞まで全く同じだ。


「えっ、えええっ!?」


『驚くのも無理はない。私は魔王の欠片に触れ、私は世界の真実に目覚めたのだァ!!』


 違う、驚いているのはそこじゃない。


「なんで居るのよ! アンタ、さっき倒した所じゃない!?」

『倒した? 何を言っているのだね。私はここに居るではないか。どうやら私の神々しい姿に正気を失ってしまったらしい』


 驚くナナミちゃんに、状況を理解していないっぽい社長が嘲笑う。

 あれなの、話の雰囲気的になんか別個体的な奴なの?

 さっきまでの記憶が全くない社長さんに、凄く嫌な仮説が思い浮かぶ。


「も、もしかして、紅葉林の出現モンスター一覧に社長さんが登録されちゃってる的な奴なんじゃ……」

「こりすちゃんもそう思いますか」


 私のつぶやきに、少し不愉快そうな顔でセレナちゃんが同意する。

 やっぱりそうなんだ、できれば否定して欲しかった。紅葉林の見所に社長の名所が追加されてしまった。嫌だ、嫌過ぎる!


『白鴎院セレナ! 黒晶石の欠片に触れたお前が私を見下していたのも無理はない話だ! 今ならわかるぞッ!』

「すみません。それ、さっきもやったんです」


 意気揚々と言う社長を、セレナちゃんが雷撃魔法でバリッと一撃必殺する。

 社長がいっぱい居るってわかったから、セレナちゃんが容赦ない!


「うむ、いちいち相手をしていては埒が明かぬな。先を急ごう、研究所入り口はあの黒晶石を挟んで向こう側にある」


 言って、クロノシアが先導しようとすると、また進行方向に社長が居た。

 しかも、今度はウサギ人形とクマ人形を引き連れた団体モードだ。


「うあああ、社長さんが金太郎飴だぁ……」

「本当に際限がありませんね」

「うむ、厄介だ。社長など脅威でも何でもないが、あの人形共は捨て置けぬ」

「加えて、周囲の黒晶石が蠢き始めました。もう一人の私は、人と共存する私が気に食わないようです。間もなく本格的に来るでしょう……こりす、最奥に待ち構えているのがラフィールである以上、貴方しか対処できません。お願いできますか?」


 ラブリナさんが黒晶石の仮面を着けつつ、私だけに聞こえるように小声で囁く。


「わかった」


 私はラブリナさんに頷くと、振り下ろされるウサギ人形の出刃包丁を躱し、一人先行して研究所を目指す。


「あの子! もう、ほんっとに無茶するわね!」


 私が研究所入り口を目指しているのに気付いたナナミちゃんが、慌ててフォローに入ろうとする。


「問題ありません、ナナミ達はこちらをお願いします。今から危険なことになるのはこちらです」


 それをラブリナさんが押し留めると同時、地面が揺れ、地響きを立てて地面が隆起していく。

 隆起していく地面から土が剥がれ、ラブリナさん達を乗せて巨大な黒晶石の円盤が飛翔する。

 そして、その下にも一面の黒晶花。どうやら、あの円盤は花畑を隠す蓋の役割だったらしい。


「くっ、飛ぶぞ!? このままでは余達諸共に持って行かれる!」


 よろめくクロノシアが、部下達の救出を急ぐべく私の後を追おうとするが、


『どこに行こうと言うのかね。クロノシアァ!』


 そこに量産された社長と人形達が立ち塞がった。


「ええい! こりす、余の臣下達を頼む! 二人だ、二人いる!」


 結局、クロノシアは迎え撃つのを選び、クマ人形のパンチを受け止める。

 クロノシアが私の名前をちゃんと呼んだの、初めてじゃない? ようやく、クロノシアも私達を信頼してくれたらしい。


「任せて!」


 なら、私だってその信頼に応えてみせる。

 振り返らずに応えて私は研究所に迷わず突入。それを両手を上げたクマ人形が威嚇しながら出迎えてくれる。


 私は素早くクマ人形から視線を上に移し、設置された防犯カメラの位置を確認。

 両手を振り下ろしてくるクマ人形の脇を抜け、壁を駆け上るように蹴り上げながら、手にした鉈を思いきりカメラに向かって叩きつけて破壊する。

 そのまま身を捻ってクマ人形を見下ろし、私は心のスイッチを即座にエリュシオンへと切り替える。


「シリウスチェンバー、イグニッション!」

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