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第5話 怪人、逃亡する2

 その後、私とセレナちゃんは、ミコトちゃんとリオちゃんを伴って、秋の湖畔みたいなダンジョンを歩いていた。

 今回は授業の一環として、クラスメイトと引率の人でパーティを組んで、少し奥の階層にある大きな拠点を目指すことになっている。リオちゃんはその引率者枠だ。


 ちなみにダンジョン学園は実技の割合が凄く高い。レベルアップによる能力上昇を前提にして、普通科高校3年間の授業カリキュラムを僅か三か月で終わらせるからだ。

 つまり、ダン学の勉強についていくためには、逆に勉強そっちのけでレベル上げに勤しむ必要がある。

 なんだか矛盾しているようだけれど、本当にそうなんだから仕方がない。私もレベル上げ頑張らないと。


「きゃああああっ!」

 

 そう意気込む私の目の前、ビキニ姿の女の子達が悲鳴をあげる。見れば、女の子達は空飛ぶトビウオみたいなモンスターの群れに襲われていた。

 私はすかさず猛ダッシュでトビウオと女の子達の間に割って入ると、鉈でトビウオの額を兜割りする。

 その隣でリオちゃんが槍で別のトビウオを串刺し、更にセレナちゃんが魔法で氷の剣を作り出し、残りのトビウオをまとめて切り刻んだ。


「あ、ありがとうございます。死ぬところでした……」


 お腹を深々と横一文字に切り裂かれた痛々しい姿の女の子が、ミコトちゃんに傷を癒してもらいながらお礼を言う。

 この人、なんで水着で戦ってたんだろう。防具を着けていても危ないモンスターの攻撃、それを素肌に受ければ大怪我するのは当然だよ。意味がわからない。


「んで、なんでそんな恰好で戦ってたん?」


 リオちゃんも同じことを思っていたようで、魔物から引き抜いた槍を肩に担ぎながら女の子達に尋ねる。


「私達のチャンネル、最近動画の再生数が減ってまして……。それで、少し過激な格好で配信すれば登録者数増えるかなぁって……」

「おバカか」


 呆れ顔で深々とため息をつくリオちゃん。私も完全に同意するしかなかった。

 打開策が命がけの大博打過ぎる。それで登録者数が少し増えても、死んじゃったら無意味じゃない?


 一応、傷口に使うポーションは持ってたみたいだけど、流石にあの傷はポーションで即完治するレベルじゃない。傷口をチラ見した瞬間、もう二度と見ないと心に誓うような痛々しい惨状だ。

 超優秀なヒーラーを自称するミコトちゃんが居なければ、生存を祈りながらの撤退戦が始まっていたと思われる。


「確かに人気稼ぎで露出度高い痴女衣装着てる子も居るけどさ、アレ基本的にダンジョン素材使ってる防御力高い奴で、素肌も魔力の保護膜でがっちり守られてるんよ」

「えーっ!? し、知らなかったそんなの……。で、でも勝算はあったんです! ここ、北の紅葉林越えるために高レベルの方もそこそこ通りますし、私達三人とも軽戦士だから回避に自信あります! 当たらなければどうということはないって奴です!」

「致命傷、思いっきり受けちゃってるよぉ……」


 思わずツッコむ私。モンスターにお腹掻っ捌かれた後でそれが言えるのはある意味凄い、度し難い。

 呆れ顔でビキニトリオの傷口から目を逸らし続ける私の横、治療を終えたミコトちゃんが上体を起こす。


「治療、終わったのです! 治療費のお布施は三人合わせて……もごっ!」


 そして、早々に危ないことを口走ろうとしていたので、慌てて口を塞いで後ろに連れていく。


「だ、ダメだよ。ミコトちゃん! 治療費を請求しようとしちゃ!」

「お医者様だって患者を治すのにお金を請求するのです。癒しの権能だってその対価を求めるのは正当な権利なのです」


 小声でそう窘める私に、ミコトちゃんが不服そうな顔をして言い返す。


「で、でも、ダンジョンみたいな場所では助け合いが必要だから、それをするならダンジョン外だけにしよう? 戦闘中に私がミコトちゃんを庇って怪我をしたら、ミコトちゃんは私に治療費を請求するの?」


 それは一理ある。あるんだけれど、それはダンジョンではない地上の話で、危険なダンジョン探索は相互の助け合いで成り立っているのだ。

 そんなことを言いだしたら、前衛が後衛を守る度にお金を請求することになってしまう。それでまともに戦えるわけがない。


「むー、それはしないのです……」


 不承不承ながら納得してくれるミコトちゃん。

 彼女は暗黒教団の姫巫女として育ったせいで常識がズレているが、根は良い子なのだ。だから、ちゃんと説明すれば理解してくれる。


「じゃあ代わりに布教で我慢するのです」

「そ、それもダメだよぉ!?」


 のだが、その常識のズレは時として巨大クレバスとなって襲い来る。困る、本当に困る。


「なるほど。エリュシオンは人助けの対価を絶対に受け取りませんけれど、その巫女を自称する宵月さんはお金を貰うんですね。そうですよね、エリュシオン信仰なんてマネタイズのための方便ですもんね」


 説得に苦心している私の横、セレナちゃんがにっこりと微笑んでミコトちゃんを挑発した。


「ぐむむーっ! 貰わないのです! 私はエリュシオン様の巫女として、ダンジョンでは対価を貰わないのです! ボランティア、するのです!」


 その挑発は効果覿面。ミコトちゃんはしゅっしゅっとへっぽこパンチでセレナちゃんを威嚇して、力強く無償化宣言をしてくれた。

 流石はセレナちゃん。ミコトちゃんの操縦方法、もう完璧に覚えちゃってるんだ。


「あ、あの……。私達って治療費請求されるんですか? ダンジョン保険とか入ってないんですけど」


 そんな私達のやり取りを見て、女の子達が心配そうな顔をして恐る恐る尋ねてくる。


「いやいや、そんなことするわけないじゃん、ダンジョンは助け合いだし。けど、毎回それを期待しちゃいかんからね。今は近くに他のパーティ居なくて危険だし、大人しく出直しときな」


 リオちゃんはドロップしていたトビウオの羽根素材を包帯でくるむと、ビニール袋に入れてビキニトリオに手渡す。

 口に出すとまた何か言われそうだけど、畑の野菜を分けてくれる近所のおばちゃんみたい。


「これは?」

「今倒したモンスター素材、ドロップしてたから。この素材割と優秀だから、これでちゃんとした防具作んな」

「わかりました、これでえっぐい金ビキニ作って以後気をつけます! ありがとうございました!」


 女の子達は素材と治療費代わりに余ったポーションの半分を私達にくれると、深々と頭を下げて森エリアの方へと駆けていく。

 反省しているのかしていないのか、わからない子達だった。


「……そう言えば他のクラスメイト見かけないね。皆どこに行っちゃったんだろう」


 女の子達が駆け去った後、リオちゃんの言葉で不自然さに気付いた私は小首を傾げる。

 皆まとめて同じ目的地目指して探索しているはずなのに、この近辺に居るのは私達だけだ。普通の冒険者の人達は何度か見かけたけれど、クラスメイトの姿は全く見ていない。不思議。


「そりゃ皆安全な別ルート使ってるし。この湖畔エリアは五層な上に転移できる拠点も無し、更に北側には十六層へと繋がる次元の裂け目があるから、初探索で通るには危なくてキツイんよ」

「な、なんでそんな危ないルート選んでくれちゃってるのぉ!?」


 思わず声を大にして叫ぶ私。サディストが過ぎる。

 こう、もう少し優しさや配慮的なものが欲しい。


「いや、そりゃあ学園長代理が居るからに決まってんじゃん。なんか知らんけどクロノス社に狙われてるんでしょ、学園長代理」


 湖畔から飛び出して来たトビウオモンスターを頭から槍で串刺しにしつつ、リオちゃんが言い返す。


「そうですね。私を狙ってクロノス社が襲撃してくる可能性がある以上、他の生徒を巻き込むリスクは避けたいです」

「そそ、それにそれなりの利点もあるんよ。ここの北側は十六層だって言ったけど、突破が面倒な代わりに攻略最前線(フロンティアライン)への近道になっててさ、今夜宿泊予定のキャンプも強めのパーティが泊まってる確率が高いってわけ」

「十六層である紅葉林近辺には拠点や宿泊施設がないんです。だから湖畔北側のキャンプで準備を整えた後、強行軍で突破するのが基本なんですよ」

「へー、攻略最前線かぁ。安全な回り道をせず、危ない近道を強行突破してまで行きたいものなのかな……」


 私は北側に視線を向けつつ、クロノス社が攻略最前線で魔王の黒晶石を見つけたと言う、カレンの言葉を思い出す。

 セレナちゃんと一緒にラブリナさんの問題を解決するのなら、やっぱり私達も攻略最前線、更にその向こうの未知階層にまで足を伸ばす必要があるんだろうか。

 心配だけど、ほんの少しだけワクワクもする。


「そこは実力と手間との相談だけどさ、ウチは紅葉林踏破コースで行ったよ。山登りの装備整えたり、沼地進んだり、階層ごとに厚着、薄着と逐一着替えて進むより、ちょっと強いモンスター倒して突き進む方が楽って判断したから」


 うわぁ、それは確かに聞くだけで大変そう。タンスの夏物と冬物を入れ替える比じゃない。

 それだけの準備が必要な上、強くないモンスターはいつも通り出てくるんだもんね。なら、少し頑張って十六層を突破したくなる気持ちもわかる。


「なるほど。リオちゃん、ちゃんと考えてダンジョン歩いてたんだねぇ」

「……ねえ、こりっちゃん、もしかしてウチのことサディストかなんかだと思ってたん?」


 感心する私を見て、リオちゃんが悪い笑顔を浮かべてにじり寄る。


「う……。お、思ってたよ」

「この~、そいじゃデカ乳頭巾ちゃんにはお仕置きでーす」


 私の胸をがっぷりと両手で揉みしだくリオちゃん、そこに何故かセレナちゃんが加わり、更にミコトちゃんまでいっちょ噛みしてくる。


「あんぎゃあああ!?」

「お、顔に似合わぬ汚い悲鳴。流石こりっちゃん、芸人じゃん」

「ちょっと、リオなにしてるのよ」


 私の情けない悲鳴を聞きつけたのか、青い髪をした魔法少女が北の方から急行してきた。

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