エピローグ[閑話]
巨大デスメイヤーを構成する黒晶石の体が砕け散り、放棄区域に白い輝石が降り注ぐ。
エリュシオンは怪人が跡形もなく消え去ったのを確認すると、後ろで同じように怪人の最期を見届けていた一同へと振り返る。
「これで放棄区域の怪人も、黒晶石もなくなったはず。後のことは任せたよ」
それだけ言い残して、エリュシオンは瞬く間に駆け去っていく。
「はっ、集結した所をまとめて一撃必殺ね。ウチじゃ到底無理、エリュシオンじゃなきゃできない芸当だね」
「むふん。そのおかげで後始末が楽になったはずなのです! 流石はエリュシオン様なのです!」
呆れ半分に言うリオの横、ドヤ顔のミコトがまるで自分のことのように胸を張る。
「ああ、おかげでだいぶ楽になった。地下施設の確認は後で必要だが、これで私達もダンジョン内の掃討戦に参加できそうだ」
「ええーっ!? 先輩、流石に休む時間をくださいよぅ! 私は先輩みたいにレベル高くないんですから!」
「そんなことしてたら掃討戦が終わるだろ。ダンジョンの治安を守るのがダン特の仕事だぞ、ハンナ」
「無茶をするのは仕事じゃありません。私、妹さんに言いつけますから」
そんな会話をしながら、設楽とハンナはダンジョン境界の方へと歩き去っていく。
「あははー、ダン特さんも大変だにゃー。フウカは街に逃げ込んだ怪人がいないか見回りでもしてくるんだわ」
「あれ、ウチの記憶だと、フウカさんは奪還戦の配信してた気がするんですけど」
「お。リオちゃん、そこツッコむんだわ? 配信は中止。主役に後は任せたってカッコよく去られたら、戦友としてはそれに応えるしかないからにゃー」
フウカはからりと笑ってそう言うと、街と放棄区域を隔てるバリケードの方へと向き直る。
「それに……フウカがしてる配信は迷走の表れだって気付けたしにゃー。これからは街の皆の笑顔を対価に、ご当地魔法少女として一人地道にやっていくんだわ」
「それは少しボランティア精神が過ぎるのではないかね? それに一人でなければならない理由もあるまい」
そうフウカに声をかけたのは、スーツ姿の三人組。市議会議員の面々だった。
「あー、市議会議員の皆様……」
「先程はすまなかった、そんなに警戒しないでくれ」
渋い顔をするフウカを見て、議員の男がバツが悪そうな顔で言う。
「正直な所、我々は魔法少女は選ばれし人間がすること、心の中でそう思っていた。変な話に聞こえるかもしれないが、君が本物の魔法少女ではなかったことで、真の魔法少女がどんな存在なのか理解できたんだ」
「そして、君がいつも踏み出している一歩にどれだけの勇気が必要なのか、そのことにも気づくことができた。君よりも小さな一歩しか踏み出せないかもしれないが、我々もこの街を愛する同志として君と共に街を守っていく所存だ」
言って、フウカの前に立った一人の市議会議員が手を差し出す。
フウカは少し照れ臭そうにその手を取って、がっちりと握手を交わした。
***
放棄区域にあるビルの上、議員さんと握手を交わすフウカさんの姿を見下ろして、私はようやく安堵する。
色々と思い悩んで迷走していたフウカさんだけど、放棄区域も奪還できたし、これからはご当地魔法少女として気兼ねなく活動できることだろう。
「これで一件落着……かな?」
「はい、フウカさんも気づけたと思いますよ。信頼は、信頼を得ようとして手に入れるものではなく、自分の行動の結果で返ってくるものだって」
そんな私の後ろ、セレナちゃんがそう肯定してくれる。
どうやら、セレナちゃんは私を探してこんなビルの上まで来てくれたらしい。
「少し待ってて、降りるから」
私はセレナちゃんをお姫様抱っこすると、ビルの上から飛び降り、周囲に監視の目がないことを確認して、変身を解除する。
「ふぅ、これで人心地ついたよ」
「うふふ。お疲れさまでした、こりすちゃん」
「ありがとう、セレナちゃん。おかげでいい結果で終われたと思う」
「はい、こりすちゃんの手助けができて嬉しいです。魔法少女ならまずは皆を守る想いありき、その姿を見た人々は協力したり、信頼したり、それらは全部後からついてくるもの、ですよね」
「そうだね。皆の信頼は嬉しいし、自分の歪みを正すための標になるけど、その始まりは皆を守りたいっていう自分自身の想いなはずだから」
そんな話をしながら、私達が放棄区域の外へと戻ると、そこにはフウカさんとリオちゃんとミコトちゃんが待っていた。
「おーい、こりすっち!」
「あれ、フウカさん。ミコトちゃんとリオちゃんも一緒でどうしたの?」
見回りに行くと言っていたフウカさんが、リオちゃん達と一緒なことに私は首を傾げる。
「ウチ等、和菓子屋でこりっちゃん達待とうと思ってたんよ。そしたらフウカさんと鉢合わせてさ」
「こりす達がまだ戻ってないと教えたら、一緒に迎えに行こうと言う話になったのです」
「こりすっちにはお世話になったし、フウカは感謝の気持ちを渡したかったんだわ」
フウカさんは可愛らしくウィンクをして、見覚えのある包みを私にくれる。
「これはお団子……」
確かに嬉しいプレゼントである反面、私の危機感知スキルがこれはマズいぞって警鐘を鳴らしている。
言われる、これ絶対に余計なこと言われる流れっ……!
「にはは、実はあの和菓子屋はフウカの実家なんだわ。こりすっち、持ってたお団子戦闘中に食べちゃったからにゃー。今度は安全な場所でゆっくりと味わって食べて欲しいんだわ」
危惧していた通り、純然たる善意で私にクリティカルヒットを決めてくるフウカさん。
私がセレナちゃん達の顔を一瞥すれば、皆は不思議そうな顔で私を見ていた。
「戦闘中に食べてしまった、ですか?」
あっあっあっ、止めて、セレナちゃん! 近くにリオちゃんがいる現在、その疑問はトラブルの呼び水!
「そうそう、凄かったんだわ。怪人の前で突然お団子を食べ始めたと思ったら……」
私が羞恥心と緊張で真っ赤になる中、フウカさんがアリジゴク怪人と戦った時のことを語りだす。
その話を聞いて、リオちゃんが悪そうな顔をし始めた。
あの顔、間違いない! ろくでもない動画を思いついた時の顔! 悲劇はもはや秒読み!
「ほーん、こりっちゃん。ウチ、フウカさんと面白いコラボ動画思いついたんだけど」
「ノー! ノーノー! 無理、絶対に無理! しないから! する理由がない!」
私は胸の前で腕を交差させてバツの字を作って必死に主張する。
「こんこ、こんこ。する理由ないとのたまうか」
と、そこに最悪の追い打ちがやってくる。
「鳳仙長官、お世話になりました。おかげで怪人を倒して街を取り戻すことができました」
「よいよい、妾にとってもかけた手間に値する結果が得られた。やはり魔法少女はこうでなくてはの。後は復興に励むがよい、この小娘もコラボ動画とやらで手を貸してくれるそうじゃての」
言葉遣いを正してお礼を言うフウカさんに、扇子で口元を隠したカレンがくふふと愉快そうに笑いながら私に視線を向ける。
「し、しないって言ってるから!」
「はて、今し方理由がないとのたもうておったが……理由はあるじゃろ? 妾に借りが」
カレンの言葉に私がぎくりと小さく身を震わせる。
ある、確かに。セレナちゃん経由でカレンに奪還戦の参加をねじ込んでもらった……!
「くふふ、ハニワと共に一曲踊ってもらうのも一興かの」
狼狽する私を見て愉悦の表情をしているカレンは、フウカさんがご当地ゆるキャラと踊っている動画を見せてくる。さっきセレナちゃんが見てたアレだ。
このままじゃ私の生き恥コンテンツがご当地PR動画として保存されてしまう!
「せ、セレナちゃん……!」
視線でヘルプを求める私の前、
「特筆すべき点もない踊りですけれど、こりすちゃんが踊るなら……ありですね」
「セレナちゃん!?」
なんとセレナちゃんが乗り気な態度を取っていた。
私がカレンに無茶振りされた時の対抗策は、セレナちゃんに何とかしてもらうと言う他力本願なもの。つまり、その二人が結託してしまった場合、私に対抗策は存在しない。
「こりす、大丈夫なのです! 私も一緒に参加するのです! 一度、着ぐるみを着てみたかったのです!」
絶望する私の前、ミコトちゃんが任せろと自信満々に胸を叩く。
「既に敗北している前提で励まさないでよぉ!?」
なんて口では言うけれど、あの二人が結託してしまった以上、私如きが対抗できるはずもない。
結局、ご当地PR動画に強制参加させられた私は、ゆるキャラの着ぐるみを着てミコトちゃんと一緒に踊ることとなり、アイドル魔法少女やご当地魔法少女がやっている宣伝活動の厳しさをその身で味わうハメとなる。
更にミコトちゃんが着ぐるみ内で口ずさんでいたせいで、ご当地ソング"お団子はにはにダンス"は異例の大バズり。
文字通り洗脳ソングと化したご当地ソングに中毒者続出。その強力な洗脳効果を危険視したダンジョン庁が動画を削除するまでの間に、驚異的な再生数を叩き出してしまう。勿論、その動画には私も映っている。もはや生き恥コンテンツ。
いつか平和になったら、エリュシオンもご当地魔法少女になって緩く活動したいなって思っていたけれど、そんな甘えた考えは一発で消し飛んだ。過酷な世界だった。
「こんなことするぐらいなら、怪人組織を壊滅させる方が遥かに楽だよぉ!?」
「うふふ、涙目のこりすちゃんも可愛いですねぇ。無限に見ていられます」
そんな私の心からの叫びも、セレナちゃんによってばっちり動画保存され、お仕事に疲れたセレナちゃんの日々の癒しにされてしまうのだった。……酷い。




