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最終話 楽園のエリュシオン1

 かつて一人の魔法少女が居た。

 銀の髪をなびかせて魔法都市を所狭しと駆け回り、仲間の魔法少女達と一緒に数多の敵を迎え撃つ。

 その圧倒的な力で悪党どもを震え上がらせたその魔法少女、人々は彼女をエリュシオンと呼んだ。


 他者を寄せ付けないその強さ。人々は彼女を頼り、仲間達も彼女を大いに頼った。

 彼女はそれで構わなかった、それが他者より強い力を持つ己の使命なのだと理解していたからだ。

 だから、いつしか彼女は仲間よりも己の強さを信じるようになった。それが彼女の最初の歪み。


 己が絶対強者であり正義の代行者だと思いこんだ彼女。諫める者は居たが、既にその言葉は彼女まで届かない。

 だが人々はそれをよしとした、彼女が都市の平和を守っているのは事実だったからだ。故に、彼女は己が気付かぬまま更に歪んでいった。


 そんな日々の果て、世界に終末が訪れる。

 歪んだ願いで育まれた黒晶石が氾濫し、世界が黒晶石によって押し流されそうになっていた。

 正義の代行者である彼女は、それを止めようと独り立ち向かう。彼女の"後ろ"には守るべき仲間と人々が居たからだ。

 されど彼女の力は人々の負の感情を蓄えた黒晶石に及ばなかった。


 そして、自身が黒晶石に強い力を与えることに気付いた彼女は倒すことを諦め、自らが黒晶石に取り込まれることでそれを御すことに決めた。

 自らが黒晶石を御したのならば今までと何も変わらない、少なくとも彼女にとっては。

 己が意識を黒晶石へと逃がした者達を統べ、彼女は黒晶石の女神となり、原初の魔王となった。


 かつて彼女の仲間だった魔法少女達はそれを嘆き、自らが黒晶石に飲まれることと引き換えに、彼女を黒晶石ごと切り離した次元の狭間へと封じた。

 歪んだ彼女から零れた僅かな記憶を、魔法少女となった始まりの想いを白い輝石を鍵にして。


 ……遥か永い時を経て、その鍵"エリュシウムの鍵"は一人の少女の手へと渡る。

 彼女と同じエリュシオンの名を持つ魔法少女である少女は、彼女を越える強さで、されど歪まず真っ直ぐに、仲間達と共に今も駆け抜けている。

 だから、彼女から零れ落ちた白い輝石は、歪んだ彼女に残った最初の想いの欠片は、ラブリナは歪んだ自身を封じた扉を開ける。

 かつての自身と同じ名を持つ魔法少女――エリュシオンが全ての幕を引き、新たなる扉を開けてくれるのだと確信して。




  最終話 楽園のエリュシオン




 青みがかった壊都の空、逆さに生えた黒い大樹がざわめいて怪人とモンスターの雨が降る。

 私達は迫り来る敵の群れを迎え撃ちながら、強敵ひしめく中心部へと再突入するタイミングを計り続ける。

 でも、敵の数は刻一刻と増えるばかり。中心部に向かうどころか、街に向かうモンスター達を抑え込むのさえ怪しくなってきた。


「リオちゃん、配信の方はどう!? 誰か来てくれそう!?」


 私は鉈で三つ首蛇の頭を落としながらリオちゃんに尋ねる。

 とにもかくにも、まずは地上境界前の戦況を安定させないといけない。そのためには援軍が必須、今私達がこの場を離れてしまえば、瞬く間に街は地獄絵図になってしまう。


「コメント欄見る感じ、来てくれてるっぽい! でも到着までどんだけかかるかわかんない!」


 槍を薙いでゴブリンを一網打尽にしながらリオちゃんが言う。


 "リオちゃん達頑張ってー! 私達ももうすぐ駆けつけるよー!"


 私もスマホを浮かべて確認すれば、応援してくれている人や、向かって来てくれている人のコメントが沢山あった。

 これは魔法少女としてへこたれる訳にはいかないでしょって、気合を入れ直していると、ナナミちゃんから私のスマホへ連絡が入った。


『こりす、ねねの変身時間が終わったわ! 私も一緒に一度下がるから、これからは強めの敵がそっちにも行くわよ!』

「わかった!」


 ナナミちゃんから連絡が入ってすぐ、がしゃどくろみたいな妖怪に乗った白狐の怪人が襲い掛かってくる。

 それに続いて現れる妖怪系モンスターの大行進。ねねちゃん達、よくあれを食い止めてたね……。


「あおおおー! 百鬼夜行の襲来なのです! 警戒、警戒なのです!」

「セレナちゃん、こっちに来るまでに魔法で減らせる!?」

「ある程度は減らせますけれど、あの勢い迫ってこられると無傷で凌げるかどうか……」


 言いながら、セレナちゃんが風の刃で敵を斬り裂いていく。

 けれど、敵は最初から仲間の犠牲なんて度外視、倒された仲間から吹き上がる黒い煙を突っ切って、次から次へと押し寄せてくる。


 "これ、俺が到着する前に市街地戦になる奴!"


 もはや惨劇は避けられないとコメント欄で悲鳴があがる。

 でも、妖怪たちは私達の所まで辿り着けなかった。人魂のような青い炎に焼き払われ、妖怪達は皆まとめて迫る傍から焼き尽くされてしまったからだ。


「あの炎は……」

「こんこ、こんこ。なんじゃ、まだ宴に人がおらぬではないか。気が早く来過ぎてしもうたの」


 そこにいたのは、豪奢な長い金髪に、狐耳とふさふさな九本の尻尾を持つ大妖怪。十二単のような服を着て、黒子のように顔を隠しているけれど、その正体を私もよく知っている。ダンジョン庁長官でもある妖狐鳳仙華恋だ。

 いつものスーツ姿じゃなくて正体を隠した上での正装だから、手を貸してくれるつもりなんだろう。そうじゃなかったら、ごねる。


「ちょ……じゃなくて、そこの狐妖怪氏、今回は手を貸してくれるんですよね?」

「くふふ、手あたり次第に招待状を出しておいて今更それを言うか? 見ればわかろう、無論そのつもりじゃぞ。……妾の遊び場に土足で踏み入る愚物共には血で報いを受けて貰わねばの」


 カレンは口元を隠して愉快そうに笑うと、両手を影絵の狐の形に変える。

 そのまま両手を滑らせるように動かし、自分の周囲に無数の青い炎を浮かべたカレンは、迫りくる敵を手当たり次第に焼き払っていく。

 その威力は絶大。深層モンスターだろうと、怪人だろうとお構いなしだ。


 "はええええ……。いきなり援軍ガチャSSR引いてるぅ"

 "こっわ、深層モンスターが普通に焼き払われてんじゃん"

 "あの妖怪怪人ガチで強いぞ……"


「はー、ちゃんと手を貸してくれるんならマジで頼りになんね、あの変態マゾ狐」


 舞い踊るように敵を焼き払うカレンの姿に、リオちゃんが槍を振るう手を止めて呆れ顔をする。


「リオ、宴の幹事であるお主が何を呆けておる。これは参加者が地上を守りつつ、お主達が本丸へと攻め入る戦であろ?」

「いやいや、ウチ等だってそうしたいのは山々なんすけど、今ここを離れたら街を守れないじゃないですか」


 つかの間の休憩をしていたリオちゃんが、再び槍を手に取りながら言う。

 確かにカレンは強い。けれど、次元の裂け目は横に広い。この物量は、到底カレン一人で防ぎきれるものじゃない。

 実際、会話を交わしている間にも、横に長く広がった裂け目の両端から、ゴブリンとオークの群れが街へ雪崩れ込もうとしていた。

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