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エピローグ[4章]


  エピローグ


 では、一つ昔話をいたしましょう。

 誰よりも眩い輝きを持っていたがゆえに、誰よりも深い闇に飲まれてしまった魔法少女の物語を。


 それは壊都が永劫の都だと思われていた頃。

 高度に発達した魔法は人々の暮らしを豊かにした。特に黒晶石を制御して得られる恩恵は大きく、人は全ての願いを叶えられるのだと錯覚してしまった。

 されど、そんな驕りが長く続くはずもなく、御しきれなくなった願いと黒晶石が世界に氾濫し、世界は終末を迎えましたの。

 そう、全ての願いが叶う楽園は、全ての願いを呑み込む地獄になった。


 世界が崩壊する様を見せつけられ、人々は様々な行動に出ましたわ。

 次元を越えて異世界に逃げ出す者、己が意思を黒晶石に宿して新世界の覇者になろうとする者……。

 でも、氾濫する黒晶石を止めようとする者は少なかった。わたくし達魔法少女はその少数。


 その中でもラブリナ……エリュシオンと呼ばれていた魔法少女の力は群を抜いていましたわ。

 黒晶石を白い輝石にしてしまうほどの輝きを持つ彼女は、黒晶石の氾濫に終止符を打たんと一人で楽園の奥へと向かい……敗北し、黒晶石に飲まれ、堕ちた楽園を統べる黒晶石の女神となった。

 彼女は自らが気付かぬうちに歪み、己の眩い輝きをくすませていたのですわ。


 残されたわたくし達はその身を黒晶石の魔王へと堕としながらも、辛うじて楽園の扉を閉じて封印することに成功し、鍵守にその扉の鍵を託した。

 ……もっとも、その頃には世界は黒晶石で塗りつぶされ、"人"など誰も残っておりませんでしたけれど。


 かくして、人の居なくなった終わりの世界で、わたくし大海嘯クライネは扉守として一人壊都に残った。

 不埒な輩が楽園の扉を開けて滅びを迎えぬよう、いつの日かラブリナを助け出せる誰かの訪れることを祈って。



「それが、貴方達が語っていた扉守の昔話の真実ですわ」


 壊都での冒険が終わった少し後、私とセレナちゃんは、私の家に連れ帰ったクライネからラブリナさんについての話を聞いていた。

 ちなみに、ミコトちゃんはお出かけ中。ねねちゃんやナナミちゃんに護衛され、メイちゃんに次元の狭間に封印しているものについて聞きに行っている。


 ダン特が黒薔薇の鍵守の拠点を調査した所、この前の廃棄実験体404号以外にも危険なモンスターとかを多数収容していたことが判明したらしい。

 今度の休みに安全な所で開門してもらって、変身した私が全部駆除しておこうと思う。


「クライネ、その話を聞いて一つ疑問があります。かつての私はどうして貴方達の力を借りなかったのでしょう?」

「……かつての貴方にとって、力の劣るわたくし達は共に戦う仲間ではなく、庇護の対象になっていたのだと思いますわ」

「そうですか。傲慢だったのですね、私は」


 クライネの言葉を聞いたラブリナさんは、少し嫌悪感を込めてそう呟く。


「ラブリナさん、それは違うと思います。その責任を自分一人に求めるのなら、それはかつてのラブリナさんと同じですよ」


 その呟きを、セレナちゃんがそう窘める。


「その通りですわ。対等な友人であり戦友であったはずのわたくし達は、いつしか力の強弱で序列を作ってしまった。思えばそれが過ちの始まりでしたの」

「だから、その過ちを取り戻すためにテラーニアは力を求め、ラフィールは並び立つことを望んだんだね」

「ええ。そして……その想いが歪んだ成れ果てが、黒晶石の魔王である彼女達だったのですわ」

「そっか……」


 私は自分が倒した二人を思い出し、少しセンチメンタルな気持ちになる。

 彼女達は人々に害成す存在だった。だから倒したことに後悔はない。でも、もう少しだけ想いを汲んであげられたのかな、とも思う。


「あら、悲しむ必要はありませんわよ。貴方達の目指す先は恐らく彼女達の悲願でもありますもの。前を向いて堂々と胸を張って進みなさい」

「あ、うん。そうだね」


 クスリと微笑むクライネに、私はハッとなって頷く。

 そうだ。彼女達のことを想うのならば、するべきは悼むことじゃない。ラブリナさんの歪みを正し、助け、楽園の奥から連れ出すことだ。


「こりすちゃん、焦ってはいけませんからね。ラブリナさんを助けたい気持ちは私も同じですけれど、そのためにも万全を期すべきです」

「その通りですわ。その猶予を作るために、もう一人のわたくし……大海嘯クライネは白い輝石となったのですもの」


 クライネはセレナちゃんに同意すると、優雅に紅茶を飲む。

 そして、お茶菓子代わりに、テーブルにあったにゃん吉さんのカリカリを口にはこ


「く、クライネ! それ、猫用! 人用じゃないから!」


 ぶ前に私が慌ててインターセプト。

 間一髪でキャットフード付きアフタヌーンティーの阻止に成功する。


「あら、そうですの? でも、こちらの方は先程から普通に食べておりますけれど」


 不思議そうに首を傾げるクライネ。

 その視線の先に居るのは、テーブルの上に寝そべり、次々とカリカリを口に放り込んでいる我が家の横着猫。

 なんてお恥ずかしい姿! 言い訳の余地なしのダメな見本過ぎる!


「あれは猫! 我が家のメタボ猫! クライネは人! おまけにダメな見本!」

「わたくし目線では同じ人ですのに、異世界の流儀は複雑怪奇ですわぁ」


 私の説明を聞いて、クライネは傾げていた首をフクロウさんみたいに大きく捻った。


「本当に驚きだよね。話を聞く限り遠いご先祖様の血縁らしいのにさ、こんなに似てるんだってボクびっくりしちゃったよ」

「私はにゃん吉さん達の発言にびっくりだよ……」


 確かにどっちも黒色の猫耳だけど、私目線だと哺乳類程度の超ざっくりとしたレンジでしか合ってない。

 わからない……! クライネやにゃん吉さんには世界がどんな風に見えてるの!?

 二人との会話に私がカルチャーショックを受けていると、インターホンが鳴ってリオちゃんがやってきた。


「お、本当にクーちゃん居んじゃん」


 両手に大きい紙袋をさげたリオちゃんは、私にお土産のお菓子を手渡すと、ソファに腰かけてクライネに気安く挨拶する。


「リオ、貴方の言っている黒晶石の魔王クライネと、わたくしは厳密には違う存在ですわよ」

「けどさ、クーちゃんもウチのこと覚えてるじゃん。なら他人扱いってのも変でしょ、せっかく仲良くなったんだしさ」

「確かにそう言う説もありますわね。ええ、ええ、お節介な貴方達ならばそう扱うでしょうとも、お好きになさいな」


 ツンと澄まして言うクライネだけど、その所作からは嬉しさがにじみ出ている。

 素直じゃないなって見ていれば、隣でラブリナさんも嬉しそうな顔をしていた。

 そうだよね。もしラブリナさんとセレナちゃんが元通りになっても、今持っているラブリナさんの記憶が失われる訳じゃない。その証明でもあるんだから。


「ウチ的には街とか色々案内してあげたい所だけどさ、暫くはこりっちゃんの家で大人しくしてた方がいいかもね」

「リオちゃん、なにかあるの?」


 セレナちゃんとミコトちゃんにクライネまで加わって、我が家は大混乱なんだけど。


「いや、まだ黒薔薇の鍵守も完全に解決した訳じゃないしさ。それに……」

「それに?」


 私が尋ねると、バツの悪そうな顔をしたリオちゃんが、持参していた紙袋に視線を移す。


「壊都の戦闘って配信されてるし、ライブカメラにも映ってたじゃん? あれ凄い話題になってて、マジックアイテム研究者とかから問い合わせが殺到してるんよ」

「ああ……」

「クーちゃん、研究者やお偉いさん引き連れて壊都案内する気ないよね?」


 口ではそう言いつつも、とりあえずの義理があるのか、テーブルの上に持参した資料やらを所狭しと並べるリオちゃん。


「わたくし、留守にしておりますわ」


 それを見るや否や、にゃん吉さんの猫ハウスを頭から被って居留守を使うクライネ。

 黒いゴシックドレスに上品な佇まい、でも頭だけすっぽり猫ハウス。酷い、絵面があまりにも!


「現状、楽園の扉は辛うじて封印されている状態です。あまり部外者を入れられる状況ではないかと思います」

「わかってる、ウチも同感。鳳仙長官もそれがわかってるから、壊都への立ち入り制限してんだろうし」


 リオちゃんは当然想定内と言った反応で、今度はにゃん吉さんの目の前に資料の山を作り上げた。

 ああ、リオちゃん両手に紙袋持ってたもんね……。あれ、仕分けされてたんだ。


「おやおや。リオちゃん、これは何事なのかい?」

「こっちはにゃん吉っさんへの分。エリュシウムの鍵のスペアとか、ルミカのイクリプスチェンバーとか、現代マジックアイテムの水準遥かに越えてるもの映ってたからさ。謎の技術者がいるんじゃって話題になってるらしいよ」


 その言葉を聞いて、にゃん吉さんは慌てて猫ハウスに逃げ込もうとするけれど、既に猫ハウスはクライネが被っている。

 流石ウチのメタボ猫、判断が遅い。仕方ないから私がお膝に入れてあげることにした。


「今回の件で、裏で技術供与していた黒薔薇の鍵守の存在が明るみに出ましたからね。自らの使っている技術が地下組織によって検閲済みの代物であるのか否か、そんな懸念もあるんでしょう」


 黒薔薇の鍵守から提供された技術なんて、裏で何を仕込まれているかわかったものじゃない。

 知らずに使っていては怖いのはわかる。現にクロノス社の時は、ナナミちゃんが変身妨害されちゃって酷いことになったし。


「その意見はわかるんだけどさ。ボクとしては穏やかな生活が破壊されそうだから遠慮しておきたいね」

「ウチも止めといた方がいいと思う。にゃん吉っさんの存在が知れたら、どっかの国の特殊部隊が拉致してくるとか余裕であり得るし」

「拉致!? 我が家に国家レベルの猫さらいが来ちゃうのぉ!?」


 完全武装で猫用ケージを持った特殊部隊を想像してしまった。

 あまりにシュール、怖い上に酷い。


「そうですね。にゃん吉さんに手を出したら、エリュシオンが黙っていないでしょうし」


 セレナちゃんの言葉に私は内心で何度も頷く。

 それはそう。絶対に犯人捕まえて徹底的にとっちめる。


「でもさ。鍵守に何か仕込まれていないか、調べないままってのも怖いね。こりすちゃん、ちょっと代わりに行って来てよ」

「嫌だよ!? 私が代わりなんてできるわけないよね? 後、どさくさに紛れてカリカリ食べない!」


 クライネから取り上げたカリカリを食べているにゃん吉さんから、私はお皿を取り上げて、即答する。

 私はマジックアイテムを使う方は玄人でも、中身については素人だ。

 マジックアイテムなしで同じことしてこいって話ならまだしも、中身を見た所でチンプンカンプンに決まってる。


「こりすちゃん、少しぐらいいいじゃない。クライネが食べないなら勿体ないよ」

「なら、これはにゃん吉さんの晩御飯にするから」

「えー、ボクとしては袋から出したてがいいなぁ」


 リオちゃんやクライネが居るのに、わちゃわちゃといつも通り口論し始める私とにゃん吉さん。


「はぁ、本当に騒がしい方ですわぁ」

「クライネ、騒がしいのは嫌いですか?」


 そんな私達を呆れた顔で眺めるクライネの横、ラブリナさんが座りながら尋ねる。


「中心に行くのは面倒ですけれど、遠巻きに眺めるのは別に嫌いではありませんわよ。昔もそうでしたもの」

「そうですか、よかった。私もこういった場、好きですから」


 その返答を聞いたラブリナさんが嬉しそうに微笑む。


「……ラブリナ、貴方はまだ黒晶石が完全に浄化されていないのでしたわね?」

「はい、情けない限りです。まだ己の歪みが完全に正されていないのでしょう」

「でも、わたくしの目には、今の貴方は歪む前の貴方に近いように見えますわ。なら、貴方の零したものはセレナによって補われているのでしょう」

「なるほど……。はい、そうだと思います」


 自らの胸に手を当てて首肯するラブリナさん。


「つまり、答えはすぐ近くにあるということ。しっかりと探して見つけておきなさい。零した全てを拾い集め、楽園の最奥で待つ貴方自身に還すために」


 クライネの言葉に、ラブリナさんは神妙な面持ちで頷く。

 ちなみに、そう諭すクライネは頭から猫ハウスを被ったままだ。

 よくあんな格好でまともなことを言えるなぁって、私は少し呆れてしまうのだった。

 これで4章完結となります。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 次の5章にてストーリー完結予定です。

 17~19話は5日に2回の2.5日間隔、最後の20話だけ毎日更新予定ですが、もしストックを作ることができれば少し投稿ペースを上げる予定です。

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