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第14話 波涛の魔王8

 ねねちゃんにモンスターが残っていないかの調査をお願いして、クライネを連れた私達は一足先に作りかけの"魔力の海"拠点へと入っていく。

 そこでは既に運んで来たコンテナが荷解きされていて、私達と入れ替わるように作業員さん達が慌ただしく外へと向かっていった。きっと、拠点の修理に行くんだろう。

 未整備エリアの拠点なのに、こんなにも沢山の作業員さんが居たなんて驚きだ。


「想像以上に大勢居るのです。無事に魔石を届けられてよかったのです」

「そうだね、来てよかった。あんな大きい海竜も出てきたし、こんな危険な場所でずっと待機してもらうわけにはいかないよ」


 ミコトちゃんの言葉に同意して、私はほっと胸を撫でおろす。

 拠点が破壊されなくて本当によかった、クライネに心から感謝したい。


「少しでも皆が安心できるよう、私も修理の手伝いをしてこようと思うのです。拠点の防壁を再生自己増殖する肉の壁に作り替えるのです!」

「そ、それはやめておこうよ! 冒険者さん、見た目が違うと拠点だって気付かなくなるから!」


 意気込み、勇んで外に繰り出そうとするミコトちゃんを、私は慌てて引き留める。

 平然とおぞましいものを作り上げようとするのはお止めいただきたい! っていうか、自己増殖とか収拾がつかなくなる展開しか見えないよぉ!?

 もう想像するだけで吐き気催す。常々思ってるけど、ミコトちゃんってグロ耐性凄いよね!?


「むむー。むしろ視認性はあがると思うけれど、普段と他と違う形でわからなくなってしまう可能性は、確かに否定できないのです……」

「そ、そうだよ! 手伝おうと思う気持ちは大切だけど、拠点の修理は本職の人に任せておこう!」

「ただ、宵月さんの懸念自体は正しいです。実際に怪人の襲撃があった以上、今居る戦力で防衛するのは少し不安ですね。私達は奥に進まないといけませんし、怪人の脅威が退くまでは外部戦闘員が即応できる状態を作っておきたいです」

「ウチとしてはさ、やっぱ運んできた魔石を使って転移装置動かすしかないと思うんだよね」

「なら転移装置を起動した後、私が開門して追加戦力を呼び寄せればいいと思うのです!」


 今度こそはと、はいっと大きく手をあげて主張するミコトちゃん。

 まだ転移装置が起動していないということは、誰も魔力登録していないということ。

 再度怪人や強いモンスターの襲撃があったとしても、転移装置で駆けつけてくれる人がいないのだ。

 ミコトちゃんの開門でダン特の人達を沢山呼び寄せ、とりあえず魔力登録だけして貰うのは解決策の一つとして有りだと思う。


「ウチもミコっちゃんの意見に賛成。怪人達が近くをうろついてんのは確定だし、そんな状況で転移装置だけ起動させとくのは怖いじゃん。開門でセブカラ連中呼び寄せとくのが一番だと思う」

「それは止めておくべきですわ。開門なる異能はラフィールの所で見ましたけれど、わたくしならば通れますわよ」


 私達の会話を傍で聞いていたクライネが、空になったコンテナにすっぽり入りながら言う。

 何その奇行。やっぱり猫だからなの? 確かににゃん吉さんも箱に入ったりすると落ち着くみたいだけど、クライネもそうなんだ……。

 クロノシアの所のミレイも同じなのかな?


「クライネ、紅葉林でメイが開けたのと一緒にしないで欲しいのです! 私の開門はあんなに下手っぴじゃないのです!」


 クライネの言葉を聞いたミコトちゃんが、コンテナの前に立って遺憾の意を表明する。


「わたくし、上手い下手を論じておりませんわ。開門とは扉を開く権能、そしてわたくしの権能は扉守。一度開いた扉は閉じようともまた開く、開き閉じるが扉の役割ですの」


 ルミカちゃんと深層に行った時、クライネは破壊した後の黒晶門を通り抜けることができていた。

 つまり、ミコトちゃんがどれだけ上手く開門しようとも、そこに僅かな痕跡があれば通り抜けることができるんだろう。


「少なくとも開門の痕跡が完全に消えるまでは通行可能。それはクライネさんの体を乗っ取ったアンジェラさんも同じ、と言うことですね」

「その通りですわ。ラブリナの肉の体さん」

「クライネ、その呼び方は止めて貰えませんか。この体にはセレナと言う名があります」


 ふむと考えこむセレナちゃんが一瞬ラブリナさんへと切り替わり、クライネにそう苦情を入れた。


「まあ失礼、貴方はその個を尊重しますのね。……セレナ、わたくしの失言を謝りますわ」


 クライネはコンテナの中で立ち上がると、優雅な仕草でセレナちゃんに謝る。

 そして、再度コンテナへとすっぽりインした。上品さと奇行が凄くミスマッチ。


「となると、リスク背負う覚悟決めて転移装置起動するか、作業員保護しながら歩いて帰って貰うかの二択ってわけね」

「歩いて帰るのは流石にやめておきたいね。あの怪人達、平気で人質使ってくる奴等だから、少しでも隙を見せたら危ないと思う」


 私の言葉にリオちゃんが頷いて同意する。


「むー。結局の所、危険を承知で転移装置を起動する以外はないと思うのです」

「そうなっちゃうよね……ねえ、クライネ。クライネはこの先にあるだろう次元の裂け目を通って、アンジェラを追いかけようとしていたんだよね。つまり、次の階層から来てたの?」

「ええ、そうですわよ。鍵守を称するあの宿り木達は楽園の扉の隙間をくぐり、【壊都】を越えて現れていますわ」

「なら大丈夫かな……うん、予定通り転移装置を起動して、私達はクライネと一緒に壊都に向かおう。そうすればあいつ等は無視できなくなるはずだから」


 今回、アンジェラは私達に一杯食わされた形だ。間違いなく次は油断せずに来るだろう。

 そして、私やエリュシオンに復讐するため、クライネを吸収して魔王の力を完全に手に入れようと躍起になっている。

 つまり、アンジェラ達は自らの本拠地に乗り込んでくる私達を無視できない。その分、この拠点に割ける敵戦力は減るはずだ。


「その目論見は正しいですわ……ですが、それはわたくしが許しません。わたくしは静かの海に沈んだ壊都を守る墓守。墓から這い出た黒薔薇の鍵守なる亡者も、墓を荒らす貴方達も、どちらも許し難い存在ですの」


 和気あいあいとしていた空気が一瞬で張り詰め、クライネが冷たい殺気を私に向ける。

 コンテナでの奇行で気の緩んだ私達に、彼女が黒晶石の魔王大海嘯クライネであることを再確認させてくる殺気だ。


「なら、私達が墓荒らしじゃないって証明すればいいんでしょ? 私達はエリュシウムの扉の鍵を持っている。あいつの使っていたレプリカじゃない本物のね」


 でも、私は微塵も怯まない。そんな殺気ぐらい今までに山ほど浴びてきた。

 逆にクライネを真っすぐに見据えて、胸元に隠していた【エリュシウムの鍵】をクライネに見せつける。

 鍵を見たクライネの表情が変わるのがわかった。


「いや、こりっちゃん。なんで持ってんの!? まさか……」

「こうなるかもって思ってにゃん吉さんに借りてきた。コアは入ってないから変身には使えないけど」


 リオちゃんが言い終わる前に、事前に用意してきた言い訳を述べる私。あ、今ちょっと声上ずった。

 エリュシオンの正体だって疑われる要素満載でドキドキする、もう気分は綱渡りだ。

 正直、クライネが向けてきた殺気よりもこっちの方がよっぽど怖い。


「あー、なるほど。エリュシオン、変身にマジックアイテム要らないんだっけ」


 若干挙動不審になったけれど、リオちゃんはその説明で納得してくれた。

 変身時にはちゃんと認識阻害が効いているんだから当然なんだけど、それでも気が気じゃない。


「それでどう、クライネ? これで私達は壊都に入れるかな」

「……核はなく、形は変われども、確かに本質はエリュシウムの鍵そのもの。少なくとも墓荒らしとして無碍に扱うことはできませんわね。わたくしと同行するならば許可いたしますわ」


 クライネはエリュシウムの鍵をまじまじと見つめると、条件付きながら私達が立ち入ることを許可してくれる。


「んじゃ、起動コース確定ね。となると、鳳仙長官に連絡入れとかんといかんよね。怪人の脅威があるからこそ、ウチ等の一存で転移装置動かしちゃマズイだろうし」

「そうだね。リオちゃん頼める?」

「うぃ、任せなー」


 転移装置を起動させることで意見が一致した私達は、拠点管理室へと移動するのだった。

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