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第14話 波涛の魔王7

 心のスイッチを切り替えた私は、先手を打つべく素早く皆に指示を出す。


「私達が時間稼ぎをするので、ダン特の人達はコンテナを拠点にお願いします! 転移装置の魔石を失う訳にはいかないので! ラブリナさん、ねねちゃん、足止めをお願い!」

「わかりました!」

「了解でございましょ。マナチェンバーイグニッション!」


 ダン特の人達は既に満身創痍、魔石入りコンテナの防衛って言う大義名分を作って、先に戦闘エリアから離脱してもらいたい。


『だからアンジーの前に立ち塞がるなって言ってるの! 嫌気がさすほど知能の低い生物なの!』


 アンジェラは私達が迎え撃とうとしていることに憤ると、どこからともなく取り出した黒晶石を次々と放り投げる。

 たちまち黒晶石が急成長し、何匹もの黒晶石製ゴーレムへと変化した。多分、さっき戦ったポルノゴーレムのゴーレム部分だ。


『お前達の相手はこのゴーレム達で十分なの。アンジーがクライネを吸収する邪魔をするんじゃないの!』


 アンジェラは手にした黒晶花をクライネと同じ大鎌へと変化させ、振り回すようにしてクライネへと斬りかかる。


「全く、面倒至極な宿り木ですわ。わたくしの顔と声で、そんな下品な態度を取らないで欲しいですの」


 クライネはアンジェラを迎え撃つように跳ねると、手にした大鎌を滑らせて大鎌を受け止める。


『お前の力は欲しいけれど、その生意気な口は要らないの! さっさと扉守の権能全てをアンジーに渡すの!』


 大鎌と大鎌が鍔迫り合い、つかの間の硬直状態ができあがる。

 けれど、アンジェラと鍔迫り合うクライネの腕からは黒晶石が露出し、モンスターの傷口からよく出る黒い煙が立ち上っている。

 同じクライネの姿をしていても基礎スペックの差は歴然。それでも戦闘の体を成しているのは技量……あるいは使っている体の習熟度の差、かもしれない。


「っぅ……」


 ただし、このままではクライネに勝ち目はない。

 苦し気なうめきをあげるクライネを横目に、私は素早く周囲の様子を確認する。


 撤退中のダン特、それを守って後退しているリオちゃんとミコトちゃん。ミコトちゃんが後方に回ってくれているのはありがたい。

 ねねちゃんとラブリナさんはゴーレムと戦闘中。二人ともゴーレムの相手は苦にしていないけれど、ゴーレムは次から次へ大量に生えてくる。ダン特の人達が拠点に撤退するまでは、そのサポートがメインになるだろう。


 ……そして、私は比較的フリーになっている。喋っている言葉に違わず、力のない私達を見下してくれているらしい。

 実に助かる。これならエリュシオンに変身しなくても幾らでも打つ手がある。


『あははっ! 口ほどにもないの! ちゃんとした体を使えばこんなにも強いの、やっぱりアンジーがナンバーワンなの!』


 アンジェラが嬉々とした顔で大鎌を振り回す。

 その戦い方は、新しく手に入れた凄い力に酔いしれ、力を誇示したくて堪らない輩の戦い方そのもの。

 絶対捨て置けない相手ではあるけれど、今この場では好都合でもある。


「どんな強い体だろうと、こんな使い方しかできないなら無意味だね」


 クライネがアンジェラの大鎌を辛うじて受け止めた瞬間を見計らい、私は動きを止めたアンジェラの大鎌の柄に飛び乗った。


『はあ!? なんなの、お前は!?』


 一冒険者でしかない私が割り込んでくるなんて予想外だったんだろう。アンジェラは動きを止めて驚きに目をしばたたかせていた。

 知ってた。強さに溺れた連中は弱者を軽んじる、だから私の最初の一撃は通せると確信していた。だから、確実に通せる最初の一撃で致命打を与えてしまう。


「そんなにぼんやりしてていいんだ。スペアキーでクライネの体を奪っているみたいだけど、胸についてるその鍵って弱点にならないの?」

『おまえっ!? やめろなの!』


 その揺さぶりは効果覿面。

 アンジェラは慌てて大鎌を引き戻し、私を振り落とそうと大きな隙を作ってくれる。


「気づくのが遅かったね、手遅れだよ」


 ようやく私を脅威とみなしたアンジェラだけれど、もう遅い。必要な隙は作れた。

 大鎌を引き戻す動きに乗じて、私は素早く大鎌を蹴って跳躍。そのままアンジェラの懐に飛び込み、胸元で黒く輝くスペアキーを斬りつける。


『ガアアアアッ!?』


 手にした大鎌を落として砂に沈め、両手で胸元を抑えながら絶叫するアンジェラ。

 脆い、変身に使っているペンダントにしては脆すぎる。予想はしていたけれど、このアンジェラは魔王の本体じゃない。

 けど、この場での勝敗が決したことには変わりない。


「あらあら、粋な計らいをしてくれますわね。恩を売ったつもりですかしら」

「利害の一致だよ」

「そうですの。それでは遠慮なく」


 アンジェラの肩口を蹴った私がバク宙してクライネの後ろへと下がると、間髪入れずにクライネが大鎌を横にひらめかせる。

 大鎌は軌道上にあったアンジェラの体を事もなげに両断し、斬り飛ばされたアンジェラの上半身が宙を舞う。


『ムカつくの! ムカつくの! ムカつくのっ! どうしてアンジーとクライネの勝負の邪魔をするの!? 雑魚の癖に身の程知らずで出しゃばりな乳牛なの! この体が万全になったら絶対に思い知らせてやるの!』


 跳ね飛ばされた上半身でそう恨み節を吐くと、アンジェラは黒い煙となって消え去っていく。

 のっけから私にヘイトが向きっぱなしで本当に怖い! エリュシオンと天狼こりすでヘイト両面仕上げだ! もう、さっさと消えてご帰宅願いたい!

 アンジェラが居なくなったことでゴーレムの増援も止まり、私が身震いしている間にラブリナさんとねねちゃんが全てのゴーレムを倒し終えた。


「ふぅ、なんとか扉守の使命を果たせましたわ。感謝しておきますわね、煌めく乳牛怪人の方」


 戦闘が終わったのを見届け、クライネが大鎌をひょいと担ぎながら私に言う。


「私、乳牛怪人じゃないよぉ!?」


 なんて酷い言い草! 流石に怪人扱いされたのは初めて! 

 乳牛怪人ってどこ見て言ったの! 胸? 胸しかないよね!?


「あら、そうですの? それは失礼いたしましたわ、煌めく乳牛の方」

「違う! 怪人でも、乳牛でもないから! そもそも煌めくってなに、なんなの!?」


 必死に苦情を入れる私を見て、クライネが不思議そうに小首を傾げる。


「お肉の体は難解ですわぁ。でも、今のわたくしには細かい差異を学んでいる時間はありませんの。ごめんあそばせ」


 そして、クライネは小首をかしげたまま私に背を向け、どこかへと歩いていく。


「待って、クライネ!」


 私はそれを慌てて呼び止めた。

 勿論、乳牛呼ばわりされたままだからじゃない。クライネが怪我をしたまま一人でどこかに行こうとしていたからだ。


「あらあら、どうして待つ必要がありますの? この場で貴方達を助けたのはそれが墓守としての責務、墓から這い出た亡者を排除するためだからに過ぎませんわ。勘違いをなさらぬよう」


 でも、呼び止めた私に冷たい視線を向け、クライネが私を拒絶する。

 墓守としての責務としてアンジェラから皆を守ったのなら、クライネはこの後アンジェラの本体と戦うつもりだろう。

 ……当然、勝ち目なんてない。


「クライネ、アンジェラと戦うつもりなんでしょ。そんな自殺行為みたいな行動見逃せないよ!」

「見逃せない理由が理解できませんわ」

「え、ええと、利害の一致! クライネがしようとしていること、多分私達の利害と一致するから! 一緒に行こう!」


 クライネから放っておけってオーラが滲み出ているけれど、私は差し出した手を引っ込めるなんてこと絶対しない。

 一時的にとは言え共闘した相手が犬死するのなんて見逃せない。だから、ここは私も魔法少女として意地を張らせてもらう。

 なんとかそれっぽい理由をこじつけて、クライネの手首を掴んで引っ張る。


「わからない方。どうしてわたくしに対して躍起になるのですかしら」

「クライネ、貴方がその胸に抱いた想いが何であれ、私達の仲間を助けてくれたことは事実です。そして、それは貴方と私達が敵対以外の関係を築ける証拠でもあります。せっかく同じ方向を向いているんです、共に戦った方が勝てる見込みもあるとは思いませんか?」


 私達の所へやって来たラブリナさんが、クライネにそう言って微笑む。

 つい最近どこかで聞いたような台詞。拠点でのねねちゃんの言葉は、ラブリナさんにとっても救いだったのかもしれない。


「……驚きましたわ、貴方からそんな言葉が聞けるだなんて。ラブリナ、隣に立つその煌めきが貴方の黒を払ったのですわね」

「はい、私と共にある二人とその仲間達が。ですから貴方も少しだけ歩み寄ってくれませんか、クライネ」


 クライネは眠たげな眼を少しだけ見開き、私とラブリナさんの顔を交互に見比べる。


「久しい波音が聞こえる……。そうですわね、わたくしもラブリナを変えた煌めきを見たくなりましたわ。折角黒晶の因果が弱まったこの身、己が責務を妨げない限りならば譲歩しても構いませんわ」

「ありがとうございます、クライネ」


 ラブリナさんが手を差し出し、クライネがその手を取る。

 クライネは何故かじーっと私を見つめていたけれど、やがて満足したのか、ラブリナさんと一緒に"魔力の海"拠点へと歩いて行った。

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