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戦鎚聖騎士、飲みに誘われる

「すげえなこりゃ。ドワーフ達が誇るのも頷ける」

「鉄と錆と油の匂いがします! 別世界に来たみたいですよ!」

「空気が濁ってる……。煙たい……。火を燃やしすぎだって……」

「うっわ、最悪……。これだからドワーフ共はさぁー」


 ドワーフの地方都市はまさに工業都市といった情景だった。家屋の煙突から煙が絶えず吹き出ており、そのせいで空気が若干濁っている。エルフのティーナが今にも倒れそうなぐらい顔を青白くするのも頷けるが、俺にとってはそれも味わい深く思えるんだよなぁ。


 街中の道沿いは至るところ工房だらけ。武具の他にも工芸品が所狭しと並べられており、己の腕を競っているようだった。客層は意外にもドワーフ以外も多い。国境沿いの都市なのもあって来訪者も多いんだろう。


 俺達はひとまず宿を取って荷物を置いてから竜騎士部隊の基地へと向かった。ちょうど昼番の帰宅時間だったようで、基地から出る隊員達とすれ違う。ドワーフは酒飲みも多く、どこそこで飲んでこうという話がチラホラと聞こえてきた。


「あれ、あそこにいるのダーリアじゃないか?」


 ティーナの発言で気付いた。基地の入口で私服に着替えたダーリアが待ち構えてるじゃないか。ゆったりとしたオーバーオールを穿いて帽子を被った彼女は竜騎士として鎧兜に身を包んだ姿とは全く印象が異なっている。


「ようやく着いたのね。長旅お疲れ様」

「こんばんは。どうして俺達が今日この時間に来るって分かったんだ?」

「ニッコロ達と会った場所からここまで飛竜ならそんな時間かからないわよ。日々の巡回でどこにいるかを把握しといて、この都市の入口を通ったって連絡を受けたから、予測なんて簡単だったわ」

「成程なぁ。わざわざありがとうな」


 帰宅するドワーフ達を窺う限り、やはりドワーフとしての特徴がはっきりと現れている。ダーリアみたいに少女っぽいのは人間やエルフのように民族の違いからかとも予想したんだが、どうも違うみたいだ。


「荷物も置いてきたようだし、早速行き――」

「姫様! この人達誰っすか?」

「お、隊長! この人達が数日前会った人間の聖女ご一行ですか!」

「この後飲みに行くですよね!? わし達にも奢って下さいよ!」


 出発しようとした途端、ダーリアは複数の帰宅途中だったドワーフに囲まれる。男性と同じく野太いが若干高めの声からするに女性隊員もいるようだが、ひげのせいで見た目からは判断し辛い。体格も似たりよったりで、見分けるのは一苦労だ。


 どうやら彼らは俺達が遭遇したダーリア率いる竜騎士部隊の隊員達らしい。物腰や仕草からも歴戦の戦士達といった雰囲気が醸し出ている。しかし仕事終わりなのもあって力が抜けており、近寄りがたい威圧感は無かった。


「ええい、散った散った! お前達はお前達で飲みやがれ!」

「えー!? 連れないこと言わないでくださいよ~! じゃあ飲み比べで勝ったほうが奢るってのはどうっす?」

「客人の接待を請け負ってくれるなら考えてもいいけれど?」

「えっ!?」


 ダーリアにたかろうとしてた竜騎士隊員達が俺達へと視線を向ける。俺、ミカエラ、イレーネ、そしてティーナで目を止め、露骨に顔をしかめてきた。やっぱりドワーフとエルフは犬猿の仲なんだな、とこれだけでも分かる。


「いや、次の機会にするっす」

「よろしい。じゃあ早く帰りなさい。じゃないと酒場の席が埋まっちゃうわよ」

「へーい!」


 隊員達は逃げるように足早に立ち去っていった。そいつ等の背中を見つめるティーナは「けっ、ドワーフの飲みに付き合うなんてこっちから願い下げだってーの」と心底嫌そうに愚痴をこぼしたのは聞き逃さなかったからな。


 ティーナの案内で俺達は太陽が沈んで暗くなりかけた街中を歩く。工房街とは異なってそこは酒場などの飲食店で活気に満ちており、多くのドワーフで賑わいを見せていた。店の外まで大きな声や笑い声がはっきり聞こえるぐらいに。


「どんな食事がいいの? 一応人間の料理を専門にしてる店もあるけれど」

「せっかくですからドワーフの料理食べさせてください! 大丈夫、こう見えてご飯はいっぱい食べる方ですから!」

「ミカエラは冗談抜きに本当に俺達の中で一番食うから。出来れば適度な価格で沢山食えるところがいい」

「ふぅん。いいわよ。じゃあとっておきの店を紹介してあげる」


 ミカエラが目を輝かせて期待に胸を膨らませる中、連れて来られたのは郷土料理の店らしい。店の中に入った途端に酒の席で盛り上がるドワーフ達の声がうるさい。俺達が案内されたのは人間やエルフ用の高さのある予約テーブル席。ダーリアが座る高めの椅子はお子様用の椅子を連想させ、笑いを堪えるのに精一杯だった。


 一通り料理と酒が用意されたあたりで乾杯する。ダーリアは酒を水のように喉に通していくけれど、俺達は嗜む程度に留めた。ドワーフの酒はアルコール度数が強すぎてね。料理に合うので飲めはするんだが、今回の主役は料理の方だ。酒は程々に留めておきたいのだ。


「で、知りたいのは近状だったかしら?」

「はい、そうです。この前ダーリア達が迎え撃ったのは野生のドラゴンの群れではないとは分かってますよね」

「ええ。魔王軍の尖兵、と首脳陣も判断してるようよ」

「そこをもう少し詳しく知りたいんです。いつから攻めてくるようになったか、等」


 そこそこ飲み食いが進んだ所でダーリアは語りだした。

 ドワーフの国家群であるドヴェルグ首長国連邦を取り巻く現状を。

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