戦鎚聖騎士、竜騎士部隊と出会う
真っ先に攻撃を仕掛けたのは竜騎士部隊だった。彼らが発した電撃が次々とドラゴン達に襲いかかる。しかも命中したら命中した対象を起点に追撃の雷が更に別のドラゴンに向かっていったから、アレ全部チェーンライトニングかよ。
しかし考えたな。雷ほどの速度なら超遠距離にも即座に届く。初撃にはうってつけってことか。更には竜騎士達による一斉掃射は回避も困難だろうて。ドラゴンが何体も地面に落下していくのも当然の結果だろう。
初撃を受けてドラゴン達は口から火炎球を噴射しだした。竜騎士部隊は散開してそれを回避、更に雷をドラゴン達に浴びせていく。ドラゴン達もさすがなもので、雷の進路を見切って回避行動を取る個体が多かったが、逃げた先には竜騎士の駆る飛竜が吐き出した火炎球が待ち構えていた。たちまちに火だるまになっていく。
やがて、二つの部隊が衝突し合うんじゃないかって距離で互いにすれ違った。その時にも攻防が繰り広げられたらしく、何体ものドラゴンが血を撒き散らしながら力尽きて落ちていく。一方の竜騎士部隊も無傷とはいかず、明らかに負傷してぎごちなくなった者も現れた。
互いに旋回して再び攻撃の応酬が行われる。炎と雷が入り乱れる光景は幻想的な劇を見ているようだった。地上で繰り広げられる戦闘・戦争とは全く異なる空中戦は俺にはもはや理解の及ばぬ世界なのだろう。
「やるなぁ今のドワーフ共。竜騎士部隊の練度が一昔前とは大違いだぞ」
「『僕』の時代の頃より明らかに強いね。攻め滅ぼそうと思ったら一苦労だろう」
「こんなに強いのはさすがに想定外ですって。征服計画を見直さないと……」
三人の魔王が各々感想を述べる。物騒な発言は聞かなかったことにしよう。
竜騎士部隊は順調にドラゴンの数を減らしていく。中でも一際目立つ竜騎士が次々とドラゴンを討ち取っているようだ。彼の武器は長槍で、すれ違いざまにドラゴンの翼を斬り飛ばす芸当までしてみせるし、彼が放つ雷はドラゴンの進路を完全に読み切って放つものだから百発百中だ。
そうして空中を舞台に繰り広げられる戦闘は……俺達に思いもしない余波をもたらすことになる。そう、竜騎士部隊が仕留めたドラゴンの死骸に襲われるという危機をもって。
「……なあ。あの落ちてくるドラゴン、俺達の真上じゃないか?」
「そうですね。このままここにいたら余達はぺしゃんこでしょうね」
「なら逃げるか。今からなら充分間に合うだろ」
「ええー? そんな萎えること言わないでくださいよ。迫る圧倒的な暴力を難なく防いで「大丈夫か?」と言ってくれる格好いいニッコロさんが見たいんです!」
「はぁ!? いや、そう言われるだろうって薄々は思ってたけどよ! ああもう、しゃーねぇなぁ!」
ちくしょう、イレーネとティーナが加わっても結局こき使われるのは俺だよ。
跳躍の闘気術セイリングジャンプで高く跳び、ありったけの力と闘気を込めて戦鎚を振り上げる。今回のドラゴン共は空の生息に適した小柄な種族だから助かった。これで大型の個体だったら軽く泣けたからな。
「パワーガイザー!」
戦鎚とドラゴンの躯が衝突。俺の方が圧倒的に質量が軽いのもあって俺の方が弾き飛ばされる。あやうく地面に激突って所でティーナの風属性魔法の追い風を受けて急減速、闘気を下半身に集中させて何とか着地出来た。
一方の落下するドラゴン、俺の戦鎚を受けて軌道を変え、少し離れた位置に落下した。あんな高い所から落ちたらさすがの頑丈なドラゴン種であっても原型を止めないほどバラバラになっていることだろう。冒険者ギルドに売る素材は望めまい。
「ちょっと、大丈夫だった!?」
程なく、先程までドラゴン相手に無双していた竜騎士の隊長らしき者を乗せた飛竜が降りてきた。そして慌てた様子でこちらへと駆け寄ってくる。声の高さから察するにもしかして女性だろうか? ドワーフだと踏まえてもかなり小柄だが……。
「ん? ああ、アレぐらいなら問題ない」
「そう、良かった。私らの戦闘で民間人が犠牲になるなんて嫌だったし」
兜を脱いた竜騎士の容姿を見て俺は更に驚く。
真っ先に思い浮かんだ感想は「少女だったのか」だな。輪郭もゴツくないし幼い顔立ちに真紅のまとめた長髪が印象的だ。とても可愛いといえる分類だろう。ヒゲが全く生えてないのも合わさって人間の女の子にしか見えなかった。
まじまじと見つめる失礼な俺にも気分を害さず、彼女は俺、ミカエラ達へと視線を巡らせ、背筋を正すと礼儀正しくお辞儀をした。
「聖女御一行でしたか。失礼しました」
「謝罪を受け入れます。余裕があれば今後は地上にいる者達も気にかけて下さい。それとそこまでの敬いは不要です」
「そう、なら遠慮なく。ようこそ私共ドワーフの国へ。同胞を代表して歓迎の意を述べさせてもらうわ」
それが竜騎士の隊長らしき少女ドワーフ、ダーリアとの出会いだった。
 




