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戦鎚聖騎士、ドワーフの国に入る

 ドワーフの渓谷に向かう途中、俺達は関所を抜けてドワーフ国家群の地域に入った。工業を支える豊富な水資源、森林、鉱山など多種多様な環境に恵まれた土地だ。支配権を巡って人間と争ったこともあったらしいな。


 ドラーフは工業に力を入れるせいで農業を疎かにする質なため、人間が移住して農作物を生産する傾向にある。逆にドワーフが職人として人間の都市に工房を立てることもある。ドワーフとはエルフ以上に交流が盛んなのだ。


 そんなわけなので、関所を抜けたからって景色が一変するわけじゃあない。草原や林、点在する村周りの家屋や畑などはこれまで見てきたのと同じだ。唯一違うとすれば村には必ず幾つかのドワーフの工房があったことか。台所用品や緊急時の武具など、生活用品の製造や手入れなどを一手に引き受けているんだとか。


 ドワーフは男女問わず背丈が小さいのに頑健な種族だ。女性なのにヒゲが生えているんだとか何とか。小さくて重いせいで乗馬には向かないし苦手らしい。なのに竜騎士が栄えたのは飛竜の馬力が他の生き物と段違いだからかもな。


 鍛冶や石工から始まった工業に秀でているのは、彼らが火や土の精霊に愛された種族だからだとも伝えられている。エルフが水や風の精霊に愛された種族なのと対比となっているのは興味深い。


「ん?」


 国境を通って数日後、真っ先に異変に気づいたのはティーナだった。


 ティーナはエルフの中でもより精霊に近い高みに昇ったとされるハイエルフであり、エルフの禁忌である火の力に手を染めたブラッドエルフであり、当時の魔王からその座を奪った焦熱魔王ともされている。


 エルフは総じて弓に秀でている種族だけどティーナはその中でも群を抜く。現に遠い空より迫ってくる影もしっかりその目に捉えたらしい。俺がいくら目を凝らしても青い空と白い雲しか見えないんだがなぁ。


「何かあったんですか?」

「山の向こうから飛行物体が結構な数飛んできてるなー。うち達の方じゃあないみたいだけれど、どこ向かってるんだ?」

「地図を見るとここから歩いて二日ぐらいの距離に地方都市があるな」

「噂に聞く竜騎士の部隊が訓練や巡回してるんじゃないの?」

「いや、アレはちょっと違いそうだな……」


 目に闘気を込めて視力を向上、もう一回対象をじっくりと観察する。ううむ、飛来物の正体は種類までは分からんがドラゴンだろうか。ドラゴンの背中には騎乗兵の姿が無いことからも竜騎士部隊ではない。


 俺もかじった程度の知識だが、野生のドラゴンがあのように群れを成して移動するなんて滅多に無い。何故ならドラゴンこそが生態系における頂点。火山が噴火しただの津波が襲っただので住処を追われない限り生息地から決して出ないからだ。


「じゃあアレは魔王軍が差し向けた軍勢ってことか」


 目を凝らすイレーネもまた迫りくる脅威に気づいたようだ。


 イレーネはかつて魔王を討伐した勇者であり大聖女なのだが、その正体はその聖女勇者イレーネの体を乗っ取ったリビングアーマーの魔王である。ただ魔王としての彼女は武具としての本能に基づいて戦い続けるのみであり、今の人格は勇者イレーネによるのものが大きいんだとか何とか。


 俺がついミカエラの方にジト目を送ったのは無理ないだろう。だってさ、つい先日今人類圏でやりたい放題してる正統派は六軍隊だろ。その中にドラゴン族の魔物を率いる軍は入ってなかったよな?


「ミカエラ、どうなってるんだ?」

「ちょっと待ってくださいよ! 余は超竜軍に人類圏侵略を命じてはいませんよ」

「どうだか。エルフの大森林に邪精霊軍が攻め込んだのもあらかじめミカエラが計画立ててたせいだったしー」

「言いがかりが酷い! いえ、冗談抜きに超竜軍は主体的に動きません。ましてや正統派連中と組んだりなんか絶対にしませんよ」

「どうしてそこまで断言出来る?」

「妹のルシエラこそが魔王として相応しい、が正統派の主張ですよね。ドラゴン達の主張はこうです。彼らの王は必ず帰還するから魔王の座はそれまで預けているに過ぎない、とね」


 なるほど、そのドラゴン達の王とやらが魔王だった時代を忘れられないでいるのか。だから正統派連中の戯言に耳を貸す気は無いわけか。昔のことを引きずってて情けねえな、と一瞬思ったが、そう言えばドラゴンの寿命はエルフよりも長いんだったっけ。なら遠い過去の栄光だと断じるのには早いってことか。


「超竜軍が魔王軍の軍勢として動くのは魔王が号令をかけた時義理としてだけです。それ以外は勝手にしろ状態ですよ」

「んじゃああの空飛んでる連中は何なんだ?」

「んー、魔獣軍傘下の亜竜種でもなさそうですし、何なんでしょうね?」

「おいおい、組織の頂点がそんなんでいいのかよ……」


 ドラゴンの群れを放っておいたところで俺たちの旅に支障は無いだろう。代わりに地方都市はドラゴンの猛威に晒されて少なからず被害が出るに違いない。であれば、聖女一行としては悲劇を未然に防ぐ意味でもここで立ちふさがるべきだが……。


「ティーナ、連中射落とせるか?」

「あんだけ高い高度で飛ばれてたらうちでも無理だなー。矢は届くだろうけれど回避されるぞ」

「イレーネは?」

「僕はティーナ以上に無理だよ。空中戦は苦手なんだ」

「一応、ミカエラは?」

「光の刃は追尾性無いですし、落雷は範囲外ですね」


 俺もブーメランを飛ばせば届きはするだろうが、当てられる自信が全く無い。というわけで俺達に今出来ることは何もないわけで。一応奴らが向かうだろう地方都市に救援に駆けつけられはするんだろうが……。


 ふと空を仰ぎ、そんなドラゴンの群れに立ち向かっていくもう一つの影が見えた。ドラゴンの群れはただ速度を同じぐらいに飛んでいるって感じだが、もう一方はなんと空中で隊列を成して飛翔しているじゃないか。


「ティーナ。地方都市の方角からも何か来てるけど、見えるか?」

「ん? おー、本当だな。どれどれ……おおー、アレだアレだ。あれがドワーフ共が誇ってる竜騎士部隊だぞ」

「へえ、アレがか。地方都市までまだ距離があるけれど、もうドラゴン強襲の一報が届いて迎撃部隊を編成したのか」

「国境を突破された時点で連絡が行ったんだろうな」


 ドワーフ竜騎士部隊対超竜軍の戦いの火蓋か切って落とされた。

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