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【閑話】天啓聖女、清廉聖騎士を切り捨てる

 ■(ラファエラ視点)■


 そんなドナテッロは勇者に選ばれただけあって実力は本物だった。剣を一振りすれば魔物を百体ぐらい薙ぎ倒すし、強力な魔物相手でも勇猛果敢に立ち向かうし。彼が前に出てくれるおかげでわたし達は安全な旅をすることが出来たわ。


 グローリアやオリンピアは勇者パーティーに欠かせない剣聖や弓聖として目覚めてくれたし、大国から派遣された賢聖コルネリアも加わったことでわたし達は百戦錬磨だった。わたしも聖女として本格的に覚醒して、聖典に記されるような大奇跡すら行使出来るようになった。


「ありがとうございます、勇者様! 聖女様!」

「剣聖様も弓聖様もとても素晴らしかったです!」

「賢聖様や聖騎士様もお疲れ様でした。どうか皆様に神のご加護があらんことを」


 行く先々でわたし達は魔物を倒し、不安を払い、人々を救っていった。みんなわたし達に感謝した。わたし達が使命を果たすほどにその声は高まっていき、期待と希望を一身に背負って魔王軍に立ち向かっていった。


 邪神軍と呼ばれる軍勢は邪神一体一体が魔王軍の将を担えるほど強力で、とても熾烈な戦いになった。それでもわたし達はみんなで一致団結して脅威に挑んでいく……筈だった。そう、筈だったのよ。


「あたし、どうも彼を好きになっちゃったみたい」


 オリンピア達が勇者を好きになったのは仕方がない。このところヴィットーリオが皆についていけなくなって情けない姿を晒す中でドナテッロの頼もしさが目立つ一方なんだもの。それでいてドナテッロはヴィットーリオを励まして頑張っていこう、と明るく声を上げた。そんな心遣いもまた心惹かれる要因なんでしょう。


 それで、お互いを求めたくなるのも自然の成り行きで、一線を越えたいと願うオリンピア達をドナテッロは受け止めた。オリンピア曰く、ドナテッロに包容されると自分の全てを包みこまれる気持ちになるらしい。


「ちょっとヴィットーリオ! アンタのせいでもう少しのところでコルネリアがやられちゃってたところなのよ!」

「すまない。俺のせいで危険に晒した」

「ごめんで済むなら勇者も聖女も要らないわよ! 聖騎士の自覚はあるの!?」

「まあまあ。ヴィットーリオだって頑張ってるんだ。不調な時ぐらい誰にだってあるだろ? ラファエラもそう目くじら立てるなって。可愛いのが台無しだよ」

「なっ……! 調子いいこと言ってくれちゃって……」


 ただ、ヴィットーリオの不甲斐なさが目につくようになると段々とそれに苛立つようになってきた。あんなにも頼りになったのに、あんなにも仲良しだったのに。段々と失望が芽生えてきて、次第にそれは怒りと憎しみに転化されていった。


 これ以上わたしに貴方を嫌いにさせないでよ――!


 ドナテッロに抱かれたのは彼なら自分を任せられるのもあったけれど、ヴィットーリオへの当てつけでもあった。これで発奮しないならそれまでの男だし、挫折するならわたし達の道はもう別れたも同然だ。


 なのにこの男は図々しくも勇者パーティーに残ると決断してきた。勇者と聖女に縋り付く力なき騎士の姿はなんて醜いのかしら。もうこんな無様な男をこれ以上目に入れたくない。そんな衝動に駆られたわたしは、密かに最悪な計画を立て始めた。


 邪神軍との決戦の際、ヴィットーリオは予想通り生命をも燃やして闘気を解き放ち、邪神の一体を倒してみせた。けれど、そんな捨て身の一撃に全てを出し尽くしてこの先どうするつもりだったのかしら? それとも今まで足を引っ張ってきた贖罪のつもりだったりするの?


 もういい。貴方はわたしの騎士だもの。

 このわたしの手で引導を渡してやるわ。


「じゃあね。アンタはもう私の人生には要らないわ」


 光刃の奇跡セイクリッドエッジで背中を引き裂いた後、光刃の奇跡シャイニングアローレイでヴィットーリオの首を切断してやった。ヴィットーリオの頭が間抜けた表情のままで地面に転がり落ちる。


 ドナテッロがわたしを非難してくる。コルネリアが抗議の眼差しを送ってくる。逆にオリンピアは「ざまぁみろ!」と吐き捨て、グローリアも「邪魔者に退場してもらうのは当然よね」と冷淡に突き放す。


 当事者のわたしは晴れ晴れとした気分だった。

 これでわたしは障害無く聖女としての使命を全うできる。勇者と共に。

 さあ、今日の夜も勝利を祝ってドナテッロと絆を確かめ合おうじゃないの。


 ……。

 ……どうして。

 どうしてこうなっちゃったんだろう?


 聖女にならなきゃ良かった。

 あのまま狭い世界で終わったままの方が幸せだった。

 そうしたらわたしもグローリアもオリンピアも、ヴィットーリオだって笑顔のままでいられたのに。


 気がついたらもう取り返しがつかなくなっちゃってた。

 ヴィットーリオが憎くてたまらない。目の前にいたら首を締めたくなる。

 ドナテッロを愛している。目の前にいたら首に腕を回したくなる。

 この気持ちがわたしの普通になってて、昔がはるか遠くに感じちゃう。


 わたし、何を間違えちゃったのかな?

 教えてよ、ねえ。ヴィットーリオ。

 迷ってしまったわたしを……助けて。

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