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【閑話】冥法魔王、最推しを語る

新章開幕です。

まだストックあるのでしばらくはこのペースで連載します。

 ■(ルシエラ視点)■


 あたしの最高のお姉ちゃんの話をしましょうか。


 人間共はあたし達をまとめて魔の者とか闇の住人とか呼んでるけれど、人類が人間、エルフ、ドワーフ、ホビット、その他少数種族に分けられるように、その種族は千差万別なの。その中でも頂点に君臨するのが純粋なる魔、闇である悪魔なのよ。


 悪魔は人間以上に階級社会でね。爵位が上の奴が死ねって言えば下の連中はすぐに死ななきゃいけないぐらいに絶対なの。逆らった瞬間に首が胴体から離れてるのは序の口、次の日には親族が丸ごとこの世から消し去られるでしょうね。


 その代わり、上位者には責任が付きまとうの。模範として厳格でいなきゃ駄目だし、そして君臨者に相応しい力を持ってないといけないの。財力、権力、暴力、あらゆる力を兼ね備えて、存在を見せつけ続けないと駄目ってわけね。


 そんな悪魔社会における最高位、悪魔大公の娘としてあたしは生まれたわ。


 悪魔大公とは全ての悪魔を統べる存在。家の歴史はとても古くて、人類の中でも長命種らしいエルフの歴史よりはるか昔から続いているの。長い歴史の間に他の家が凋落したり新しく成り上がったりする中で、ずっとその位を保ち続けた由緒正しい家柄なのよ。


 そんなあたしは神に祝福された存在だった。

 だって、選ばれた魔王の証である魔王刻印を持って生まれたんだもの。


 悪魔大公はそりゃあもう喜んだわ。あたしを生んだ悪魔公后も感涙したそうよ。大公家どころか悪魔から魔王が誕生することもそんなに多くない中で、久しぶりに大公家から魔王が誕生することをね。


 正直言っちゃうとあたしはとっても可愛がられたわ。親の愛も使用人達の敬いも悪魔達からの忠誠も一身に受けたっけね。あたしが欲しいものは何でも与えられたし、あたしが気に入らなかったらすぐにでも排除してくれたわ。まさに至り尽くせリだったし、それが当然なんだと受け入れていたわ。


 刻印持ちの恩恵なのか、あたしに出来ないことは無かったわ。あらゆる魔法が呼吸をするように自然に使えたし、魔力の量も幼少の頃にはもう爵位持ちの悪魔を超えていたわ。全知全能、と言い切ってしまって良かったぐらいかもね。


 そんなあたしが傲慢にならず、増長もしなかったのは、全部お姉ちゃんのおかげ。

 お姉ちゃんがいたからこそ今のあたしがいるし、お姉ちゃんを与えてくれたことは唯一神に感謝してることよ。


 お姉ちゃんとあたしとはそんなに年が離れてない。というのも、お姉ちゃんはあたしとは逆に全く愛されていなかった。悪魔大公からは目障りだと言われて遠ざけられてたし、使用人共も侮るし、他の悪魔共は恥だと嘲笑うし。


 だって、お姉ちゃんは何もかも全く才能が無かったんだもの。


 悪魔には誰にでも得意分野があって、どんな些細なことでもそれに限っては上位の悪魔にも引けを取らない腕前になるものだそうね。爵位が絶対なのも高位の悪魔はこの才能からして下級悪魔を遥かに凌いでるのが普通だからよ。才能の質を保つために高位の家同士が政略結婚を……って細かい話はきりがないから止めておきましょう。


 才能無し。神に愛されなかった哀れな子。生まれたこと自体が罪。

 お姉ちゃんは散々に言われて、誰にも望まれずに過ごしていたわ。

 けれど……それは悪魔共の目が節穴だっただけだ、とあたしは断言するわ。


 お姉ちゃんは努力の人だった。他の悪魔が一だけで習得することを十かけてでも自分のものにする。十で足らなかったら百、百でも無理なら千をかけて必ず己の血肉にする。笑われようが罵られようが構わず、諦めずに取り組み続けたんだ。


 大切に育てられたあたしと蔑ろにされてたお姉ちゃんの最初の出会いは偶然だった。お屋敷のとっても広い敷地内で散歩してたあたしは遠く離れた場所の小屋でひっそりと住むお姉ちゃんを偶然発見したんだ。


「初めまして。余がルシエラのお姉ちゃんですよ!」


 ひと目見た瞬間に分かった、この人があたしのお姉ちゃんなんだ、って。


 悪魔大公はお姉ちゃんを軟禁こそしても衣食住は与えてたし、お姉ちゃんが望む教材は支給されてた。それは多分娘を少しは愛してた、なんて美談じゃなくて、単にいずれは食べちゃう家畜に芸を教え込むような感覚だったんでしょう。


 それからあたしはお姉ちゃんと窓越しで頻繁に会うようになった。お姉ちゃんが必死に勉強するのは悪魔大公を見返してやろうとか愛されるあたしに嫉妬したから、とかじゃなかった。というか家族のことなんてあたしに会うまで本当にどうでも良かったみたいね。


「え、だって分からないことがあるって気持ち悪くないですか?」


 知識欲。それこそがお姉ちゃんの原動力だった。

 そして他の人が出来ることなら自分でも出来る筈、と信じて疑ってなかった。

 事実、あたしがたまに見せびらかせた大魔法も時を置いて習得出来たほどだった。


 さて、そんな風に育ったあたしは全悪魔が通わなきゃいけない教育機関、通称大図書館に行くことになった。さすがのお姉ちゃんも例外ではなかったのだけれど、大公家の娘ということは隠されての通学だった。


 大図書館では多くの知り合いが出来たわ。けれどどいつもこいつも私が大公家の娘、次期魔王候補筆頭って肩書きばっかで擦り寄ってくるものだから、本当にうんざりだったわ。同年代の友達、と呼べる存在にはついに出会えなかったわね。


 一方のお姉ちゃん、自分の欲求を満たすために周りの目を気にせずひっそりと勉強に勤しむ……と思ってたのに、あろうことかあのバカ令嬢がお姉ちゃんに目をつけちゃってさ。事あるごとにお姉ちゃんに突っかかるようになったわ。おかげでお姉ちゃんは大図書館ですっごく目立つようになっちゃったっけ。


「まあ、公爵令嬢ともあろうお方がどうしてあんな下賤な輩と……」

「あのドブネズミも己の分際をわきまえないで、ああ厚かましい。」

「ルシエラ様。あの輩を懲らしめてまいりましょうか?」

「放っておきなさい。些事なんていちいち気にしないの」


 お姉ちゃんは自由だった。血統にも運命にも周囲の目にも惑わされずに突き進み続けた。そんな純真さがとてもまぶしくて、羨ましくて、嫉妬して。どうしてお姉ちゃんはいつもあんなに楽しそうなんだ、笑っていられるんだ、自身満々なんだ。


 あたしは魔王にならなければならないのに――!

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