【閑話】死霊聖騎士、悪魔軍の本陣に乗り込む
「あたし達の活動方針は魔王軍の脅威から人類を救うことよ。その上で余裕が出来たら各地の異変を解決していく。いわばガブリエッラの奉仕活動に沿った形ね」
「じゃあ名目上ルシエラ達は聖女ガブリエッラ様とそのご一行なのか」
「そ。聖女の肩書き持ちがいるだけで市民の信頼度が全然違うからね。ちょっと強引に加わってもらったわ」
「私としてもルシエラとは同じ方針だったので勧誘は好都合でしたね」
謎の少女ルシエラによってデスナイトとして蘇ったヴィットーリオは、改めてルシエラ一行の目的を説明される。ヴィットーリオはラファエラとミカエラの中間辺りの行動理念だと解釈したそうな。
ルシエラはこの時に現在人類圏に手を伸ばす魔王軍がいかなる軍団かをヴィットーリオに説明した。何故教会すら全容を把握していない情報を知っているのか、ヴィットーリオが理由を教えられるのはこの時よりだいぶ後になる。
「うち、妖魔軍は聖地に潜伏中、聖女ミカエラとそのご一行に打ち取れたわ。その後聖女ミカエラはエルフの大森林に進路を定めたみたいだから、邪精霊軍も任せちゃっていいわね」
「あらあら、ミカエラちゃんったら頑張り屋さんなのね。自分が見い出した騎士に良い所見せたいのかしら?」
この時、ヴィットーリオは初めて俺とミカエラが何を果たしたのかを耳に入れたらしい。本当は魔王イレーネが弱いものいじめしただけなんだが、教会は聖女ミカエラが勇者イレーネと共に脅威を退けた、と宣伝したため、こう伝わったようだ。
「邪神軍は勇者一行が倒しちゃったから、あの人達には魔影軍を任せちゃおっか。多分大丈夫だよね」
「そうなるとわたくし共が討ち果たすべきは魔獣軍か悪魔軍ですわね。やはり悪魔軍を成敗するべきかと進言いたしますわ」
悪魔軍。人類史を紐解くと、悪魔の軍勢は魔王軍の中で最も強力な軍勢だった。攻め滅ぼされた国は多く、特に軍長とその側近を務める悪魔貴族は脅威そのもの。人類でも選りすぐりの強者が結集しても全滅することの方が多かったほどだ。
この時に人類圏を攻めている魔王軍の中でも最も苛烈な攻めを見せており、既に何カ国かが抵抗虚しく滅んでしまっている。周辺の強国は侵略されまいと守りを固めるのが精一杯で、力なき小国は蹂躙されるがままだった。
「決まりね。じゃあ悪魔軍を粛清しに行きましょう」
この時、ヴィットーリオはわずかに違和感を覚えた。これから率先して死地に向かおうとしているのに誰一人として恐れる様子が無かったからだ。それどころか年末大掃除に着手する直前のような気だるさすら見られたとのことだから、相当だろう。
だが、ルシエラ達は決して悪魔軍を軽く見ていたわけではなかった。それどころか己と敵とを冷静に分析し、脅威ではないと位置づけていたのだ。それが判明するのは実際に悪魔軍の悪魔貴族と対峙してからになる。
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道中で様々な異変を解決しながら、ルシエラ一行はいよいと悪魔軍と対峙した。
ガブリエッラが周辺国家を説得し回ることで人類連合軍が結成され、悪魔軍と全面的に衝突することになった。悪魔軍を食い止めている間にルシエラ一行が悪魔貴族を仕留める、という算段になった。
問題は己の配下に侵略を任せて表に出てこない悪魔貴族をどうやって戦場に引っ張り出すか、だったが、それはアンラが「任せて頂戴!」と豪語して強引に議論を終わらせた。ヴィットーリオは些か心配だったが、それは完全に杞憂だった。
「幻獣召喚! 来て、アジ・ダハーガ!」
決戦当日、アンラが召喚したのは人類圏でも多くの地域で語り継がれる暴力の権化、ドラゴンだった。ドラゴンと一口に言ってもサラマンダーのような蜥蜴からワイバーンのような亜竜、レッドドラゴンのような純正竜まで様々いるが、アンラのドラゴンは最上位に近いダースドラゴンと呼ばれる種だった。
アンラの相棒に乗ったルシエラ一行は空を飛翔し、迫りくる悪魔軍をくぐり抜けていく。勿論悪魔の群れはルシエラ達に襲いかかってきたが、ルシエラ達は敵の軍勢を全く寄せ付けなかった。
「サンダーストーム」
「エヴォルレイ・ストリーム!」
「爆破式波動弾。派手に散りなさい」
ルシエラの雷撃魔法は次々とバルログの群れを撃ち落とす。アンラの放つ光波熱線がガーゴイルの部隊を撃破する。フランチェスカが発生させた爆発がイービルアイを消し炭にする。もはやこの遠距離攻撃を続けただけで敵軍を退けられそうなほどの勢いだった。
そして、ルシエラ達はアジ・ダハーガから飛び降り、敵軍本陣の中心に着地。そして優雅に……というより呑気に構えていた悪魔貴族のご一行と対峙する。
人類を矮小な存在だと決めつけている悪魔貴族共は本陣まで切り込まれたこと自体がとても気に入らなく、あからさまに不愉快だとの態度を示す。
一方のルシエラ一行、御託はいいからさっさとかかってこいと余裕綽々な様子を崩さない。しかも悪魔貴族を一対一で対応するとまで言い出す始末だった。
さて、ここからはヴィットーリオも直には見ていないので、俺の想像も混ざっていることは記しておこう。
アンラが対峙した悪魔侯爵は腕っぷしに自信がある奴だったらしく、巨大な斧を出現させてアンラを叩き潰そうと振り下ろす。ところがアンラ、それを事も無さげに片手で受け止めてみせた。
「なーんだ。腕自慢だって聞いてたから少し期待してたけど、全然じゃん。これならうちのタロマティの方がマシなんだけど」
「何!? まさか、貴様……!」
「はい、お喋り時間は終了ー。じゃ、さっさと退場してね」
アンラは掴んだ斧を振って逆に悪魔侯爵を上空へと飛ばした。それを追って跳躍したアンラは悪魔侯爵の関節を決めて身動きを取れなくする。飛べないように翼も掴む徹底ぶりで、二人はそのまま地面へと急落下した。
「ギガンティックドライバー!」
悪魔侯爵は頭部の裏、首、肩を地面に激突させて即死。アンラに軍配が上がった。




