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戦鎚聖騎士、帰路につく

「ふ、あぁぁ……」

「おそよう。もう日はとっくに昇ってるぞ」

「げっ! もしかしてうち、かなり寝坊した?」

「安心しろ、俺もミカエラもだ。ま、たまにはそんな日があってもいいだろ」


 死闘から一夜が明けた。


 アデリーナが漆黒の闇に食い尽くされた後、大森林に散開していた邪精霊共は旗頭を失った影響か、次々とディアマンテに投降したそうな。しかし平伏する裏切り者共を許す慈悲など無く、連中は魔王派邪精霊共のご馳走になりましたとさ。


 聖地の池まで戻ってきた俺達は今度こそ眠りについた。警戒する必要も無くなったのでぐっすりと熟睡したさ。おかげで朝日が出てからも目が覚めなくて、ミカエラに顔をいたずらされて覚醒したぐらいだ。いつも寝坊助なミカエラを俺が起こすのにさ。


「ニッコロさんの寝顔はとっても可愛かったですよ!」

「そりゃどうも。逆にいつもはミカエラの方が気持ちよさそうに寝てる顔を見せてくれてるって気付いた?」

「へあっ!? そんなぁ! ニッコロさんが夢の世界を堪能していて無防備な余を弄んでるですって!? 誠にけしからんですね!」

「どうしてそうなる!? せいぜいほっぺたつついたり引っ張ったりするだけだ!」


 イレーネは既に起きていて朝稽古の素振りをしている。聞けば日課だそうだ。時には手が棒になるぐらい激しく、時には一つ一つの動作を噛みしめるように確かめながら丁寧に。彼女曰く、雑念を捨て心を無にすることで肉体と武具が一体となっていくのだとか何とか。


 最後に起きたのはティーナ。俺が朝食を準備し終えた辺りで丁度天幕から這い出てきた。こら、薄着一枚で出てくるんじゃない。女だけじゃなく野郎がここにいるんだぞ。え、どうせ襲わない? 確かにその通りなんだが、目の保養にはするぞ。


 ディアマンテの奴は沼地と化した池の中を漂っているらしい。本来精霊とは自然現象そのものであり、個性を発揮すると疲れるんだとか何とか。なので休眠する時はこうして自然と一体化する、とミカエラが説明してくれた。


「で、俺達はどうする? もう聖地には用無しか?」

「ええ。充分に堪能しました。次の聖地に向けて出発しましょう。イレーネとティーナもご一緒しますか?」

「是非そうさせてほしい。僕ももうしばらくは今の世の中を見て回りたい」

「うちも当分大森林に戻らなくてもいいかなー。留まってるとここの住人達にまた白い目で見られそうだし」


 方針が決まったところで俺達は野営道具を片付けていざ出発……となる前に、池のほとりでディアマンテ達邪精霊一同がミカエラへ頭を垂れた。そうか、正統派共を一掃したので作戦は完了したってことか。


「魔王ざま、これにでおで達は帰還ざぜていただぎまず」

「ええ。良く頑張ってくれました。おかげで物事を円滑に進められましたよ」

「じがじ、本当に宜しがったのですか? エルフ共を駆逐ずる絶好の機会でずけど」

「いいんです。それは後のお楽しみですから」


 なんかミカエラが口にした物騒な発言は聞かなかったことにするか。


 ミカエラが天高く権杖を掲げると、池の真上に魔法陣が描かれていく。空中の幾何学模様はやがて黒く輝くと、汚泥がそれへと吸い込まれていく。ミカエラに傅いていた邪精霊達も帰還の魔法陣へと飛び込んでいった。


「魔王ざま。ごのディアマンテ、悲願を達成される日を心よりお待ちしておりまず」

「……ありがとう」


 最後にディアマンテが空中へと飛び上がって魔法陣の向こうへと消えていったのを最後に、汚泥達は一滴残らず綺麗サッパリとこの場から姿を消した。水が抜けた池には小川から新たな水が注ぎ込まれていき、彼女達がいた痕跡を沈めていく。


 こうして俺達は聖地を後にし、大森林を抜ける帰路についた。


 揉め事を避けるために川沿いに下ったせいでエルフの里、トレントの集落とは巡り合わなかった。なのでエルフともコラプテッドエルフとも遭遇せず、数日の間は平穏な旅が続いた。


 人里まで距離にして半分を切った辺り、突然ティーナが大森林の方へ顔を向ける。弓に矢をつがえて森の奥深くの様子を探るが、やがて矢を矢筒に戻した。往路で見せなかった行動だったので軽く驚く。


「どうした? 気のせいだったか?」

「いや。もううちが出しゃばらなくても良くなったな、と判断しただけさー」

「出しゃばらなくても?」

「ほら、すぐに聞こえてくるぞ」


 ティーナが歩みを再開した途端だった。森の奥から爆発音が轟いた。そして時間を置いてこちらに生暖かい風が吹いてくる。目を凝らして確認すると……炎が所々で舞っている? 火はこの大森林ではあってはならない現象の筈だが……。


 ティーナは顔をほころばせていた。嬉しそうに、感無量とばかりに。それで俺にもようやく事態が分かった。目に映る現象をそのままに解釈すればいいのだ。誰かが火を使って戦っているのだ、と。


「堕ちた同胞達を救う為にブラッドエルフになって立ち上がったんだ。うちが彼らの決断に水を差すわけにはいかないし、老兵は役目を終えて去るのみさー」

「邪精霊共は相当大森林を蝕んだだろ。ティーナがいなくて大丈夫か?」

「汚染の原因だった邪精霊共は大森林から消えただろ。精霊が力を取り戻せば自然治癒もしてくさー。昨日の戦いで結構な数を倒したのも大きいし、もう任せたって大丈夫なぐらいまで落ち着いたって判断してもいいだろ」

「そうか。ならいいんだ」


 邪精霊の侵食は大森林とその住人に深い傷跡を残した。容易には回復しないだろうし、今後も当分は苦しめてくるだろう。しかし、いずれは立ち直ることをティーナは確信しているようだ。なら俺もまた森の番人たるエルフ達を信じるのみだ。

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