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焦熱魔王、闇の邪精霊と対峙する

 アデリーナ。ティーナと同世代の最古参エルフ。焦熱魔王率いる魔王軍が大森林に攻めてきた時には既にエルフを束ねる立場にいたんだとか何とか。エルフが存亡の危機に立たされても禁忌の火に手を伸ばそうとしなかった。そのため、ティーナ達ブラッドエルフとはもはや相容れなくなっている。


 俺が見たアデリーナはティーナと違ってとても老いてしまっていた。ハイエルフには至らなかったためだろうか。上体を起こすだけでも一苦労していて立ち上がれなかったほど弱った彼女には逃れられない死が忍び寄っていたっけ。


 何故そんな彼女が若い姿で、それも狂気に彩られて俺達の前にいるんだ?


「アイスブラスト」

「ファイヤーボール!」


 ティーナとアデリーナのちょうど中間辺りだろうか。互いが放っただろう矢が空中で衝突、冷気と熱気の爆発が起こる。熱くて冷たい突風とか普通だったら味わえないだろうな。火球をティーナが発動させたなら、冷気はアデリーナが?


 ティーナは大木の枝を蹴ると空中で回転しながら俺達のそばで着地、改めてアデリーナに狙いを定めて弓を引き絞った。エルフの射手にとってティーナの行動は隙だらけだっただろうが攻撃はしかけなかった。俺達がいたからか?


「アデリーナ! これは一体どういう事なんだ!? それにその姿は……!」

「ティーナ。君も薄々は分かってるよね。現実は直視すべきじゃないかな」

「イレーネ……。でも、彼女が魅入られるなんて……!」

「気持ちは分かるけれどそれが現実だよ。なら原因を考えた方が建設的だよね」


 冷静にイレーネから諭されて混乱が幾分収まったのか、ティーナは改めて彼女がアデリーナと呼んだ襲撃者を観察する。そして絶望と悲観で歯を噛み締め、拳が弓を握る力が更に強くなる。


 そんな狼狽えるティーナが愉快だとばかりにアデリーナは笑い声を上げた。高笑いとか馬鹿笑いなんてもんじゃない。あえて擬音にするならゲラゲラといったように腹を抱えながら痛快さを示してきた。


「私はなぁ、この時をずぅぅぅっと待ち望んでいた。ティーナ、貴女の存在、業績、理念、全部全部ぜぇぇぇんぶ! 何もかも否定してやる日をなぁぁ」

「それはうちが禁忌の力に手を染めたことか!?」

「当然だ! 森を守るためには仕方がない、だぁってぇぇ? 笑わせるなよぉ! 貴女は森を傷つけることを厭わずに手っ取り早い方法を選んだだけだ!」

「そんなの昔に散々言い争っただろ! 不満があるなら別の策はあるのか、って!」


 直前まで笑っていたアデリーナは突然無表情になり、ティーナを凍てつく眼差しで見やった。思わず戦慄したのは奴の憎悪に、狂気に気圧されたからか。それとも奴の豹変ぶりに動揺したからか。


「確かにかつてはそうやって言い負かされたんだったなぁぁ。私は貴女達を否定するためにはこの森から消えてもらう他無かった」

「……そんなのとっくに気付いてたさー。それを承知でうち等は魔王軍と戦い、そして散っていった。後悔はしてないし、アデリーナの選択だって理解してる」

「その立派な志がどれほど残された私を苦しめたか貴女には分かるまい! 偉そうに理想だけ語るばかりの私が、どれだけ惨めにその後を過ごしたかなんて……!」

「アデリーナ……」


 確かにアデリーナが語っていたのはただの理想だ。理想だけにエルフの存亡は委ねられない、だからティーナ達は立ち上がった。アデリーナは単に頭が固いだけじゃなかった。ブラッドエルフを理解してもなおエルフのあるべき姿を保ったのだ。


「じゃあ私はどうすれば良かったんだ? 炎で焼き払う以上に邪精霊共の侵食を食い止める術はあったのか? 長い間模索し続けて、私はついにお前達ブラッドエルフを完全論破する解決策にたどり着いたのさぁぁ!」

「執念による賜物か。それが今さっき見せたコレってことか」

「そうさぁ! 邪精霊共は炎で焼き尽くさずに凍気で壊死させればいい。堕ちた同胞達は一旦氷結させ、精霊が回復した後に浄化すればいい。それを可能とするのが水と風を合成した氷属性魔法ってわけだ!」


 なるほど、アデリーナは氷属性魔法を付与した射撃を仕掛けてきたのか。だとしたら遠くの破砕音は見回りの土の邪精霊を一瞬で凍らせて砕いたもの。俺が蹴った丸太も然り。ティーナのファイヤーボールを相殺したのもそれか。


 しかし、エルフが氷属性魔法を会得したなんて噂で聞いたことも文献で見たこともない。さもあらん、森にとっては冬なんて耐え凌ぐもの。森に生息するエルフが氷属性に目覚めるわけもない。むしろ火よりも望みが薄いかもしれない。


「けれどそんなのは夢物語。絵空事。不可能を可能にするために魂を売ったのか?」

「黙れぇ! 私は貴女が憎かった! 弓の腕前、人望、人柄、その全てが! 当時どれほどの影響力があったか自覚しているのか、同胞の何割もブラッドエルフへと引きずり落としたティーナよ!」

「……っ! そ、それは……!」

「貴女を二度と道しるべにしてなるものか! エルフを導くのは破戒エルフの貴女じゃない、この私なのさぁ! ひゃっはははは!」


 アデリーナの周囲に何やら黒い霧……いや、粒子が立ち込める。それはまるで彼女が闇の衣を纏っているように見えた。それが何を意味するか、イマイチ状況が掴めてない俺でも何となく分かった。


「解決策は導けた。けれどそれを実現出来る時間はもう私には残されていなかった。先日貴女が去ったあと死の淵に立たされて絶望する私に『我』は囁いたのだ。無念を晴らし、復讐を遂げろと!」


 彼女は闇の邪精霊に取り込まれたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 氷ってソレがある地域ではある程度耐性があるから耐えきってるだけで炎と同じ位には木を蝕むし何なら問題が起きた時のダメージは炎よりデカい訳だけど、炎よりすぐに見えないから禁忌にされてないだけでは…
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