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焦熱魔王、感涙する

 ティーナが怒りに身を任せてミカエラに掴みかかろうとするので、俺はその腕を掴んで阻む。犬歯をむき出しにするティーナとは対象的にミカエラは平然としていた。


「何をした!?」

「悪夢を見せる精神魔法ヘルナイトメアを使いました。今頃三人は夢の中で地獄の業火に焼かれてますよ。現実と同じような痛みと苦しみを存分に味わってる筈です」

「どうしてそんなことを……! 安全な方法もあるってうちも言っただろ!」

「人生には博打を打たなきゃいけない場面は必ずありますよね。彼女達にとっては今がその時じゃあないんですか?」


 鼻息を粗くしたティーナだったが、努めて深呼吸をして落ち着きを取り戻す。理に適っているとは彼女も分かっているようで、しかし自分達で選択させたかったティーナにとっては不本意ではあろう。


「悪夢から目覚めるには火を克服するしかないのか?」

「いえ。精神的に限界が来たら解けるようにしましたし、持続性も明日朝ぐらいまでしか続きませんね」

「ならいい。彼女達には辛い試練になるけれど、これが最善策かー」

「彼女達に咄嗟にサイレンスをかけたのはさすがですね!」


 確かに悪夢に苛まれて三人は声にならない悲鳴を上げていた。もし沈黙魔法がかけられてなかったら絶叫していただろう。それほどの骨を、肉を、魂すら焼かれる苦しみを堪能してるってことか。


 俺達は配膳を自分達で片付けてから水を浴びて汗を流し、就寝の準備に入った。また寝具は二つだよ。俺は毛布に包まって部屋の脇で寝ようとしたら、ミカエラに誘い込まれたので大人しく従った。で、そのまま眠気に導かれて瞼を閉じる。おやすみ。


 次の日の朝。目を覚ますとどうやら聖女パーティーでは俺が一番早起きだったらしく、他の面々は静かで可愛らしい寝息を立てている。何事も起こらず良く寝れたようで良かった。


「おはようございます」

「あ、ああ。おはよう」


 入り口の外では女子エルフが日の出直後の日光を浴びて佇んでいた。俺が起きたことに気付くと朝の挨拶を送ってきたので返事する。彼女は天気に負けないぐらい晴れ晴れとした表情をしており、昨日より大人びて感じた。


「それで、目当ての魔法は学べたのか?」

「ええ。おかげさまで」


 彼女は人差し指を立てると、その指先から小さな火が発生した。蝋燭の火のように燃え続け、やがて彼女は息を吹きかけて消してみせる。

 どうやら無事に火属性魔法を物に出来たようで何よりだ。


 他の二人は……部屋の片隅で手の平をかざしつつ集中している。どうやら火の感覚は掴めてもそれを現象として発動するにはまた別の練習が必要らしい。まあ、他の魔法と同じ要領で魔力を操作すればいいから、すぐに使えるようになるだろう。


「おめでとう、と言っていいのかな? これでブラッドエルフの仲間入りだな」

「……いくらティーナ様のお仲間とはいえ、人間に言われると複雑ですね」

「そりゃ失礼。で、この後もティーナから何か学ぶのか?」

「いえ。感覚さえ掴めれば後は実践あるのみです。ティーナ様のお時間をこれ以上取らせるわけにはいきませんからね」


 女子エルフは少年少女エルフ達に声をかけた。よく見たら部屋の壁際には旅支度がまとめられている。彼女らはそれを背負い、こちらに……というより就寝中のティーナにお辞儀をする。


「ティーナ様には感謝をお伝え下さい。わたし達は出発します」

「まあ待てって。自分の口から言えよ」

「ブラッドエルフになったのでこれ以上ここにはいられませんから」

「それはどうかな? 後ろ見てみろよ」

「え?」


 女子エルフは後ろに顔を向ける。遠くから彼女らを見つめていたのは昨日会ったこの里の長老。女子エルフの反応から察するに先程まではいなかったんだろうな。エルフは目がいいし、火を付けるところもばっちり見たことだろう。


「あ……あぁ、そんな……」

「あー。言っとくが、ブラッドエルフになる決断を下したのはアンタ達だけじゃねえからな」

「え……?」

「一度腹を割って話し合ってみるといい。わりとすっきりするもんだぜ」


 言いたいことは言ったので、他の三人が起きるまで二度寝することにした。……おい、どうしてミカエラは起きてる? しかも目をバッチリ開いて俺の方見てにやにやしやがって。まさか最初から全部聞かれてたか? うわぁ。顔から火が出そうだ。


 その後、里長と長老は全体集会を開き、ブラッドエルフになることを宣言。しかし里の皆には強要せずに選択制とした。結果、エルフや大森林全体を守るために皆が決意を固め、ブラッドエルフの試練に望んだ。


 こうしてエルフの歴史に新たな一頁が刻まれた。歴史上初となるブラッドエルフの里が誕生した瞬間だった。この先で様々な困難が待ち受けているだろうが、それでも彼らは強い覚悟と共に乗り越えていくことだろう。


「みんな……。子らがとうとうやってくれたよ……」


 ティーナが密かに感涙していたのが印象深かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局の所、致命的な弱点だったクセに数百年経っても明確な他の対処法は見つからず、それどころか汚点だからと襲撃を受けた事以外は無かったことにしてしまったのが火エルフ里を産み出す後押しになってしま…
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