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焦熱魔王、禁忌に手を染めさせる

「邪精霊によって堕ちた同胞達を救う手はありますまい。せめて灰にしてでもこの地に埋めてやりたいのです」

「他の手は模索しなかったのか?」

「もっと良い手が無かったからこそ貴女様や先人達は過去にブラッドエルフとなったのでしょう。過去から学ぶなら、もはやその選択肢しか残されておりません」

「それはこの里の総意か? それとも貴方達の独断か?」

「無論、我らだけの独断です。禁忌を犯す愚か者は老い先短い我らだけで充分。危機を乗り切れば後は若い者達に託すばかりです」


 んー、何と言うか。俺の勝手な意見だが、大切な人と故郷を守るために自己犠牲の決断をするのは構わないけれど、もう少し周りと相談が必要だと思うんだけどな。老人と子供が同じ決断を下そうとしてるなんて、こっちはどう受け止めりゃいいんだ。


 ティーナもこめかみを手で揉みながらあれこれ考え込み、やがて顔を上げて里長、長老達の顔をよく見つめた。長老達もまた自分達より長くを生きた古参のエルフがどのような決断を下すか、固唾をのんで見守る。


「条件がある。秘密裏には絶対に教えない。教えを請いたかったら里全体にその旨を表明しろ。そして希望者を募るんだ」

「そんな! 若い者達を巻き込むわけには……!」

「その若造達はさっき貴方達と同じように願ってきたぞ」

「「「!?」」」


 長老達にとっては予想もしてなかったのか、驚愕に染まって言葉を失ったようだ。


「明日の朝まで待つ。それまでに決断してくれ。話は以上かな?」

「わ、分かりました。ではどうぞごゆっくり身体を休めてくださいませ」

「助かる。ありがとう」


 話し合いはこれで終わり、俺達は案内された部屋で装備一式を脱いでくつろぐ。第二の里と違って警戒心を少し解いたのはこの里の者達が信頼できると判断したからだ。それはティーナやイレーネも同じだったようで、彼女達も装備を外す。


 素泊まりを覚悟してたんだが、なんと朝晩共に食事を用意してくれる恩恵に預かることになった。エルフでは食事は森の恵とされ、野菜や果実、そして動物の肉などは全て森から取れるものだ。郷土料理か、楽しみだな。


「あまり期待するなよー。エルフの食事は素朴、って言ったら聞こえが良いけれど、雑でしかない。人間社会の料理の美味さには敵わないぞ」

「そうは言っても保存食を齧るよりマシだろ」

「甘い! どれだけ甘いかって言うと、聖都の有名店舗で買える数量限定ケーキより甘い! 腹さえ膨れりゃいい、とだけ念じながら口に運べよー」

「失礼な。ティーナ様の認識は一体何百年前で止まってるんですか?」


 食膳を運んできたのは先程教示を求めた女子達だった。なお、女子と表現しているもののエルフの寿命は人の三、四倍。彼女達は俺が思うより遥かに年を重ねていることだろう。年数に見合って精神的に成熟しているかはさておき、な。


 運ばれてきた料理は人間社会で食するものと遜色無かった。ミカエラが遠慮なく食べ始めて喜ぶものだから俺も手を付けてみたが、たしかに悪くない。むしろ安宿よりはるかに美味い。舌鼓も打てるほど味わい深かった。


「な、なにーっ!? そんな、馬鹿な! エルフはメシマズが常識だっただろ! うちが間違ってたのか……!?」


 特にティーナにとってはよほど衝撃だったようで、大げさなぐらいの反応を示した。傍から見る分には実に面白い。


「そうやって人間にもドワーフにも馬鹿にされたのが悔しくて、食にもこだわるようになったんですよ。今では一般家庭でもそれなりに料理してますって」

「う、うちは猛烈に感動してるぞ……! エルフの未来はやっぱ明るかったんだ!」

「そんな打ち震えるほど喜んでもらえるのはわたしも嬉しいです」


 ティーナは号泣しながら食事を平らげた。女子エルフはおかわりもよそうのでティーナはそれも完食する。最後の方は腰のベルトを緩めてまで食事に没頭する。ミカエラが大飯食らいなのはいつも通りとして、イレーネはじっくり味わってるな。


 飲み物は家畜の乳らしい。まろやかで濃くて味わい深いが、口にずっと残るしつこさはないあっさりさ。くせになりそうだ。酒を飲む文化は無いとのこと。俺は町中ならともかく旅の道中で口にするつもりはないけれどな。


「それで師匠」

「師匠って……いや、まあいいか」


 落ち着いた辺りで女子エルフが切り出してきた。真剣な眼差しにティーナも頭を切り替えて彼女へ視線を向ける。


「早速ですが教えて下さい。火を扱うにはどうすればいいですか?」


 こうしてティーナの夜の授業が始まった。

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