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焦熱魔王、現役世代から思わぬお願いをされる

「ティーナ様、どうか我らをお導き下さい!」

「ええー?」


 次のエルフの里に到着した途端、見た目だけならミカエラや俺よりちょい下ぐらいの女子がティーナに深く頭を下げてきた。彼女だけじゃなく、彼女より幼い少年や少女までもがティーナに必死のお願いをする。


 どういうことか、状況を整理しよう。


 まず俺達は二つ目の里から脱出した後、里から結構離れた位置で野営をして寝直した。夜の行進なんて視界の悪い大森林では自殺行為だし、エルフの自分でもやらないとティーナが断言したのも大きかった。


 太陽が昇ってきた時間に出発。道中はイレーネがたまに斬撃を放って遠くの魔物を両断してたが、やはりティーナの無双状態だった。俺は雑草刈りばっかだったからうんざりだったんだがな。


 そんなこんなでたどり着いた第三の里だが、見張りと思われるエルフが静止するよう警告。第二の里のように状況を説明すると、木からこの三人組が降りてきた。そして本物のティーナだと分かった途端にこんな風になったわけだ。


「いや、ごめん。導けって、どうすればいいのさ?」

「ティーナ様のことは我らの里の長老よりはるかに長くを生きるハイエルフ、とは聞いています。が、実際は違っているとわたしは考えています」

「違うも何もちょっと長生きしてるだけのしがないエルフには変わりないぞ」

「いえ。貴女様の冒険譚をお聞きしました。正確無比な射撃、風や土の魔法にも長けた一級の冒険者とのことですが……真実は火を行使する異端者、ブラッドエルフなのではないでしょうか?」


 ティーナの表情が険しくなる。


 彼女のことだ、他のエルフの評判を考えて滅多なことでは火の魔法は使っていなかったはず。邪精霊を始めとするここぞという相手にのみ、しかも誰にも見られないように苦心してきただろう。


 なのに目の前の女子に見抜かれている。それがティーナの警戒心を招くと承知のうえでそれを告白し、彼女に教えを請うている。即ち彼女達が求めるのは弓の教示でも風や土の魔法でもなく……。


「うちに何を求める?」

「エルフという種族とこの森を守るため、火の魔法を覚えたいのです」


 自分達もブラッドエルフになりたい、と言っているのだ。


 暫くの間沈黙が漂った。ティーナは頭を下ろしたままの女子達を静かに見下ろして観察し続ける。少女達も決して冗談交じりで言ったわけではなく、決心の末にその道を選択した、とは言動から察せられた。


「大人達や里長、長老達には相談したのか?」

「してません。すれば禁忌に手を染めようとする異端者として罰せられるだけなのは目に見えてますから」

「だったら馬鹿なこと言ってないで弓の腕を磨いた方がいいぞ。それに雷なら風属性の魔法だから咎められない。火を求めなくたっていいんだ」

「それでは足りない! あの堕ちた者達を退けられないんです! どうか……!」


 ティーナはうなりながら考え込み、思わず俺達の方へと視線を向けてきた。しかしこれはエルフの問題であり俺達は余所者。口を出すべきではないだろう。ましてやエルフの女子達がティーナにすがったのだから、決断は彼女がすべきだ。


 やがてティーナは意を決したようで、力強く頷いた。


「里を捨てる覚悟があるか?」

「はい」

「エルフの同胞達に疎まれる覚悟は?」

「エルフと森の未来を守れるなら、わたし達は帰れなくても構いません」

「分かった。教えようじゃないか」

「……! ありがとうございます!」


 エルフの女子達は表情を輝かせて再び深く頭を下げた。

 ティーナは目元に手を当てながら天を仰ぐ。彼女の胸中は如何に?


 女子達の案内で里へと招かれた俺達は客人として扱われた。第二の里と待遇が違うのは、こちらの方が事態がより深刻になっているからだ。既にコラプテッドエルフ共と何度か交戦しており、古の戦の再来だと見なしたようだ。


 俺達は里長と長老がおわす家屋へと連れてこられ、彼らに挨拶したうえで女子達の提案で数日間お世話になることになったと告げた。さすがに長老ともなれば人間の老人のような風貌をしていたが、ティーナ曰く全員彼女より年下なんだとか。


「ところでティーナ様。内密に相談したいことが」


 双方の状況を把握し終えたところで長老の一人が重苦しい口調で切り出す。


「うちは聖女に同行する形でこっちに足を運んできた。彼女らも一緒にならいいぞ」

「ですが……」

「あー、ならいい。聞かなかったことにするだけだから」

「……決して口外しないと約束していただけるなら、その条件を飲みます」


 ミカエラ、俺、イレーネは神に誓って口外しないと約束した。魔王のミカエラとイレーネが神に誓ってどれだけ意味あるんだ、と思わなくもなかったが、ミカエラは聖女としての自分の誇りにかけて、イレーネは好敵手だった勇者イレーネの名にかけたんだとか。


 長老達が女子達に下がるよう命じ、更には警護兵にも退室するよう促した。部屋の中は俺達四人と里長、そして長老達だけになる。長老の一人は咳払いし、真剣な面持ちでティーナを見据えた。


「ティーナ殿は先の大戦で禁忌に手を染めたブラッドエルフだとお見受けし、お頼み申す。我らに火の力を授けていただきたい」

「!?」


 何を言い出すかと思ったらとんでもなかった。

 これにはティーナも目を見開いてたまげていた。

 ミカエラは「面白くなってきましたよ!」と大はしゃぎしそうだったが。

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